①猫の呪い
私は犬や猫が苦手だ。その理由は、幼い頃のトラウマや自身の思い込みにある。
私が二歳くらいの頃、隣の家に子犬がやってきた。わざわざ見に行ったのか、偶然出会したのかわからないが、母と子犬を見たということは覚えている。
子犬の飼い主と母と私と子犬が同じ空間にいた。突然、その子犬が幼い私の足元にじゃれついた。子犬といえど、当時は私もまだ二歳くらいの幼児である、それはとてつもなく大きい犬に見えた。
【噛まれる!】
とっさにそう思った私は、必死に周りの大人に助けを求めた。しかし、誰一人として助けてくれず、みんなニコニコと笑っていたのである。
子犬が幼子にじゃれつく、というのは大人にとって〝かわいい!〟場面であるらしかった。
このような経験がトラウマになり、私は犬が苦手になったと考えている。
猫に関しては、衝撃的な関わりはないものの、絶対引っ掻く! という強い恐怖心が、どうしても拭えない。
それからが至近距離にいると緊張し、鳴き声を上げただけで驚く、という始末である。
そんな私の幼馴染に、異常なほど猫好きのNさんがいた。彼女は猫に限らず、動物全般が好きだった。
彼女の話によく登場していた猫がいる。祖母の家で飼っていた、みーちゃん(だったと記憶している)だ。
彼女は、いかにみーちゃんがかわいいか、数々のエピソードを披露していたが、私にとってはどうでもいいことであった。
ある月曜日。彼女が新しいスニーカーを履いて、嬉しそうに集団登校の列に並んでいた。当時のスニーカーのデザインの一つに、足の甲の部分に少し折り返しがあるようなものがあった。
私も同じデザインのスニーカーを持っていて、折り返し部分がチェック柄で、気に入っていた。
Nさんのスニーカーの折り返し部分は黒色で、そこに金色の猫のような、鋭い目が二つ刺繍されていた。
……えっ⁈ 何だコレ?
これはもちろん、私の心の声である。
「めっちゃかわいやろー。猫の靴やで」
当のNさんは、非常に嬉しそうである。私は、スニーカーにまで、猫に対する愛情を取り入れようとする、Nさんのアグレッシブさを評価することにした。
事件はすぐに起きた。
下校中、二日続けてNさんは猫の糞を踏んだ。そして彼女は二回とも「猫の靴で、猫の××こ、踏んだー!!」と、道の真ん中で絶叫した。
その後も何度か同じことをくりかえし、いつしかNさんは、あんなに気に入っていた、猫スニーカーを履かなくなった。
理由は「猫の××こばっかり踏むから」
もっともである。
今でも、猫を見ると猫スニーカーのことを思い出す。
きっとあれは、Nさんの猫に対する、深すぎる愛情が己にかけた呪いだと思う。