ポンニチ怪談 その54 強制殉死
テレビ局の女子トイレで、他局の番組スタッフ、出演者の怪死の話。殺された元総理に近しい人ばかりという偶然とは思えぬ話に、元総理の御用学者とも言われたヨツウラ・ハリは動揺しながら聞き耳とたてていたが…
7月も終わりに近づき、さらなる猛暑に襲われているニホン国。例年は、夏休みだ、納涼会だ、暑気払いだと浮かれている人々が多い時期だったが、今年は各種の値上げラッシュに、新型肺炎ウイルスの第7回大流行で、国民の間には不満や、不安がひろがっていた。そして、懸念材料がまた一つ…
『ねえ、本当なの?ザンケイテレビの“お昼の帯時間”のあの話…』
『あれ、どうも、そうらしいわよ。だって、出演者が、全員ダメ、スタッフもその…残った人誰も引き受けないし、上の方もさあ…』
『じゃ、やっぱり、そうなの?あの番組の、例の元総理に近い人が全員って、いくら何でもおかしいって思ったけど。スタッフの人も、役員さんまで…』
『そうなのよ、しかも、死に方がさあ、普通じゃないわよ。だって、番組が始まる直前まで、誰も気が付かなかった、っていうんだもの、生き残った人たち』
『え、ほ、ホントに?噂じゃ、床がその、ち、血の海だったって』
『そうらしいわよ…、掃除がすんごく大変だったって、結局、そのスタジオごと使われなくったそうよ。まあ、内臓が飛び出てた、とかスプラッタじゃなかったそうだけど…』
『やめてよ、そういうの、アンタはスプラッタとかパニック映画好きだけど、私はダメなんだからね。でも、下手すりゃ、ホラーよね。なんでそうなったか、わかんないんでしょ』
『そうなのよ、だから、かん口令しいたっていうか。警察の捜査も打ち切りなのか、ほんとよくわからないのよ。気味が悪いっていうか、原因がわからないのが、怖いわよ。だって、さ、エボラとかウイルスのせいだとかだったら、予防措置とか検疫とかして対策すればいいんだろうけど…』
『それだって、怖いわよ、十分。テロだって怖いけど、アノ事は、もっと嫌な感じだよね。確かにどうして、そうなったのか、わかんないけど、あの番組って、うちの番組と似てるから…』
『そうなのよ、次のやつ、生番組でしょ。ひょっとしたらって思っちゃうわよ』
『しかもさ、例の国葬に賛成してて、批判した人を馬鹿にしてた人とか、擁護してた人ばっかりなんでしょ。あの番組だけじゃなくて』
『そうなのよ、黄泉瓜テレビの何とか屋だっけ、あそこもそうらしいわよ。っていうか、アノ関連の人たち、急に見かけなくなったっていうか、SNSの発信すらないでしょ、だから、ああいうこと言い出す人もいるのよ』
『殉死って?そりゃ、みんな元総理に贔屓にされて、テレビに出たり、出世したりしたから、恩はあるんでしょ。まあ、もともと例の総理が推してた宗教団体の信者だって人も大勢いるらしいけど』
『だから、国葬なんてするからにはさ、一緒に死ぬ人がいないと格好がつかないってことなんじゃないの。ほら、元総理の熱狂的信者っていうか、そういう人のSNSのアカウントとか突然停止してるみたいだし。おんなじ死に方かはしらないけど』
『ザンケイの人たちの死に方ってさ、体の中が溶けて、血になってさ、足の方から流れ出してるんだっけ。子宮とかから血が出てるのかなあ』
『それだと、生理じゃない、男の人だって、大勢死んでるらしいよ、テレビだけじゃなくて。ほら、作家の〇〇1さんとか』
『政治家の人だって、総務大臣とか急死って、あの人女の人だけど。でも中身溶けちゃうって痛いし、苦しそうよね、そんな死に方嫌でしょ』
『そうだけどさ、でもしょうがないんじゃないの。元総理に引き立てられた以外、取り柄もない人だらけだとか、“あの方”とか神様みたいに元総理あがめてた人だけが急死してるとか誰か言ってたわよ。中身をぱくりまくったのに原作より売れたりした小説家とか、ろくな評論とかも書いてない評論家とか、内容が無いようって論文書いて学者って言われた人とか』
『ある意味、殉死っていうか、一緒にお墓に埋められちゃうのにふさわしいって人ばっかり、なのかもね。みんな国葬に賛成なんだしさあ』
(なによ、国葬に賛成して、何が、悪いのよ!)
女性アナウンサー同士らしい、二人の会話をトイレのドア越しに聞いていたヨツウラ・ハリは思わず叫びそうになった。
『そもそも法律的根拠ないんだって国葬って』
『えー、それなのに、税金使うんだ。それじゃ、賛成した人だけのお金出せばいいのに…。それで、命までとられちゃったの?』
(ほ、法的根拠がないっていっても、いいじゃないのそんなの。だいたいじゅ、殉死なんて法律で認められてないし)
心の中の声とは言え、完全に論理が破綻しているが、いつもそうだからなのか、それとも頭が働いていないのか、ハリはムッとしながらも便座に座ったまま二人の会話に聞き耳を立てていた。
『だいたい次の番組の例の学者さんってさ、顔はいいけど、言ってることがアレじゃない』
『前後とかちゃんとファクトチェックしてみると、結構変なこと言ってるよね。あの元総理の擁護っていうか、言い訳っていうか、斜め上すぎて。途中で吹き出しそうになっちゃったわよ』
『もう、こんなときに変なこと言わないでよ。でも、真面目にいってる議員さんの話を変に逸らしたり、本人のいないところで、お仲間ばっかりで批判モドキやっちゃったり。可愛いけど性格悪い女のアレみたいじゃない』
『やだ、もう、アンタこそこんなときにそういうこと言わないで。…でもさ、国葬賛成派だし、すごい贔屓にされてたんだし、…かまわないんじゃないのかな、あの人』
『それもそうかもね。他の出演者もそうだし…。なんか止める人もいたんでしょ、今はそういうこと言うのヤバいからって。今までのことも反省して謝った方がいいって。でも、結局番組出て…。それで、今日の流れっていうのが…』
『あー、ホント、国葬賛成派をたくさん作ろうっていうか、もうなし崩し納得させるためでしょ。こんなときによくって、誰かいってたらしいけど』
『ひょっとして、死んでもかまわないぐらいのつもりなんじゃない?』
『あー、そうなのかもね、だって後ろ盾の元総理ももういないし、アノ関連の人も次々逝っちゃってるし』
(なんですって、もう、我慢できない!)
「ちょ…ぐ、ふ」
(あれ?)
声がでなかった。
ドアを開けようと腕をのばそうとするが
肩からだらーんとぶら下がる。
(あ、あ…な、なんで)
体に力が入らない。便座から立ち上がろうとして、壁に寄りかかってしまう。
(いや、か,髪がへんなところに…。す、スカートが…。だ、ダメ…)
『体の中身が溶け出すってのもマンネリになっちゃったのかな。皮だけでぐちゃぐちゃになっちゃうし。兵馬俑だっけ、あんなふうにホントはやりたかったみたいだけど』
『だいたい、気持ち悪いしい、掃除が大変なんでしょ。ま、私たちがやったわけじゃないから』
『そうよね、私たちわからないもの、本当に、どうやってやってるのか。次に誰が死ぬのかなんて』
『ただ、私たち、ここに来てるだけだもね』
(え…女子アナ…じゃ…ない!)
頭がくらくらする。ハリが思わず下を向くと
(こ、この子たち、あ、足が…無…い、か、影…も)
『あーわかっちゃったみたいね』
『少しは怖がったかなあ』
『お芝居下手なのかな、私たち、だから、あんな目にあったのかな』
(な…んの、こと)
『そうだね、すり寄れなかったんだもの。真実を伝えることの方が大事だなんて思ったから、ジャーナリストになりたかったんだし。そのことには後悔なんてないけどさ、でも悔しいし、嫌だったわ、こんなとこで死ぬ羽目になるなんて』
『私、それほど真面目に仕事してたわけでもなかったけど、やっぱりデマみたいなこと放送しちゃうのはオカシイって言っちゃたからね。でも、まさか、あれほど、ひどい目に遭うとは思わなかった。自殺偽装なんてさ、自分に身に起こっちゃうなんて』
『考えてみれば、アイツらより私たちのほうが理不尽な目にあってるよね?だって、本当のことをいって、ちゃんと仕事をしようとして殺されちゃうなんて。元総理って人もそうだけど、ある意味自業自得じゃない?変な宗教に肩入れしてたのは自分なんだし』
『そうよ、自分たちがカルト宗教のいいなりになって、法律とか、そういうの全部いい加減にして嘘ついて、隠蔽して、誤魔化して。それを追及する人や、批判する人に言いがかりつけて、貶めて、脅したりしてたわけでしょ。それで死んだ人もいるんだからさ、私たちみたいに』
『だから、当然よね。それに一人じゃ寂しいって言ってるみたいだし、元総理の人』
『お仲間がいっぱい、一緒に死んであげれば、喜ぶわよ。生きてる時だけじゃなくて、死んでからも、すり寄ってあげれば』
『一緒に地獄で桜でも見ればいいんじゃないの?あ、地獄だと、針の山か』
『ね、ヨツウラ・ハリさん?』
いきなり、ドアが外から開けられた。
同時に覗き込んだ二人の顔を見た途端
「ひ…」
短い悲鳴をあげてヨツウラ・ハリは息絶えた。
完全に意識を失う寸前
『まだ、いっぱいお仲間が逝くよ』
『寂しくないわよ、地獄でも』
笑い声が微かに聞こえた。
どこぞの国では、いろいろな不都合を隠しつつ、さらに法的根拠のない国葬をやろうとしていますが、そんなんで大丈夫でしょうかねえ。賛成するならいっそ○○してくれというような声がきこえそうですが、どうなることやら。