第7話
「虚数っていうのは、二乗したらマイナス1になる数です」
「それは知ってます」
唐揚げを頬張りながら私は答える。
「一方、四次元距離というものがあります」
「それは知りません」
だろうねえという顔で、レイチは頷いた。
何かバカにされてる?
「速度が増して光の速度に近づけば、時間が段々遅くなるってあれ、四次元距離使えば気にしなくてよくなるんです」
アインシュタインの相対性理論だっけ?
速さが増すほど時間の進み具合はゆっくりになり、光速になると時間は経過しなくなるってやつ。
あとたしか長さも縮んで見えるんだっけ。
「四次元距離は、速度に時間をかけたものの二乗から、光速に時間をかけたものの二乗を引いたものの平方根です」
「は?何言ってるんですか、レイチさん」
アヒージョの熱さに戸惑いながら、私は突っ込んだ。
「わからない?そりゃそうか。じゃ書くね」
√((at)^2ー(ct)^2)
「aが速度、cが光速、tが時間ね」
なるほど、そうなんだ。
こんな便利なものがあったなんて、何で今までしらなかったんだろ。
早速明日から使わせていただきます、っておい、いつ使うねん!!
「一人ツッコミやめてもらっていいかな?うん、それでさ、これ見て気づくことない?」
「絶対ルートの中、負になるよね」
「そう!さすが鋭い!光速より速いものないから、どうやってもマイナスになるんだよね。ここで、虚数時間ていうの入れてやると」
√((at)^2+(ict)^2)
「あ、三平方の定理みたいになった」
「そうなんだよ。四次元空間の距離はこう表されるってこと。つまり、虚数の値をもつ時間は、空間と区別できなくなるってこと」
「ほんとは時間は虚数ってこと?」
「ううん、時間は実数。ここまでは数学のテクニックを使えばこうなりますよ、どうも時間に虚数が関係あるみたいですよって話なんだけど」
「で?結局何が言いたいの?」
「魔魂値iを持つ者は、時間を操れる」
「はいっ?」
思わず出た大声に、周囲の客が振り返った。
「そう、時間を操れるの、マジで」