表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/10

第3話

「おはようございます。今日からよろしくお願いいたします」


昨夜のストロングなあいつのせいでとにかくだるい。


「おはようさん!」


ああ、ほんとに私異動になったんだ。

辞令もらったのが最上階で、今は地下のこの部屋にいる。

そしてこのおっさん。まじでただのおっさんだ。


「今日はこの子。これ討伐しちゃいましょう」


は??何これ。


「そう、スライムです。ゴミ集積場にあってとにかく汚れて困るからって緊急の依頼。概要分かったらすぐ出ましょう」


「えと、今からですか?」


「あ、来てすぐブリーフィングとか戸惑ったかな?だいじょうぶ、すぐなれるから」


はああああ?ブリーフィングだあ?何この人。まじ意味不明。大体ただのスライムの討伐ってなんだよ。こっちゃ昨日まで人的災害レベルの魔物狩ってたっての。


「じゃ、装備は持ったね。行きましょう」


カンカンカンカン、金属の階段を上り地上のまぶしさに目を細める。

って、私らが魔物みたいじゃん。何これ。どうして私がこんな地下からエレベーターも使えず歩いて上ってこなきゃならないの。


「省魔力のためにエレベーター使えないんだよ、3階までの人は。知らなかった?」


私の不満顔に気づいたのか、トヨタ魔導士はそう言って微笑んだ。

って何かかっこよく言っちゃったけど、とにかくムカつくを通り越して落ち込むしかない。


「じゃあ、今日はヨナっちの力見たいから、移動魔法は俺のほうで」


トヨタ魔導士は私の杖に軽く触れると、


「マツキヨ」


と小さくつぶやいた。

瞬時に目の前に住宅街が現れた。

え?瞬時に??


「さ、あそこにいる黒いあれだね」


あまりのスムーズな移動に驚いている私に、トヨタ魔導士は呼びかけた。


「ヨナっち、さっきのブリーフィング覚えてるよね。じゃあ、適当な形で処理してください」


あれ?意外にヨナっちって言い方、嫌じゃないかも。

そう思いながら私は、10メートルほど先にいるスライムに意識を集中した。

ぱっと見ごく普通のスライムに見える。

でもスライムってゴミ漁ったりしないんだよな。

主にコケか地中の虫吸収して生きてるはず。

それがなぜこんな住宅街にいるんだろう。


「えと、杖使っていいですか?」


杖を使うと魔力が増すがその分魔魂の消費が激しくなるため、社内ルールでは上長の許可が必要となっている。


「いいよ。賢明だね」


懸命?真面目過ぎってこと?ええ、私は真面目で慎ましやかな女です。


スライムに近寄ってみると、やはり何か普通のスライムとは違っているように見える。

ただ、どこが違うのか。あ、あれって…


ジャウンッ!!!!


スライムがいきなり爆発した。

私は爆風に押され、数㎝後ずさった。


「だいじょーぶー?」


「はい、何とか」


やはり杖を持っていて正解だった。

とっさに魔膜を張って防がなければかなりの傷を負っていただろう。


「バソキアッ!」


風の魔法により、ベタベタと地面に残ったスライムを吹き飛ばす。

出た出た、これが実体か。


「気を付けてね。そいつ結構強いよ」


言われなくとも。これはオーガ。しかもかなりの高齢。

オーガが高齢となると、知恵がついて動きも俊敏、パワーもなかなか。

こいつがスライムの皮をかぶって動いてたんだ。

どういう理由で?

とにかく知恵が回るタイプらしい。

さっきの爆発を見ると、魔力も相当強いみたいだし。

下手したら私死ぬかも。


「あのー、ヘルプお願いしまーす」


社員全員に支給されている魔笛を鳴らす。

が、来ない。


「ヘルプお願いしまーす」


来ない。


「ヘルプっつってんでしょ!!聞いてるんですか!!!」


「聞いてるけど、ヘルプしないよ」


まじでか、こいつ。振り向いてどんな顔して言ってるのか見たいけど、目を離すと多分死にますな、これは。


「後で会社に報告しますから」


私は言いながら急上昇し、オーガの注意を引き付けると呪文を唱えた。


「バソキアッ」


地面が盛り上がりオーガを包むと、そのまま土団子と化した。

土団子の中から盛んに湯気が出ている。

蒸し焼き。ついこの間料理サイトで見つけた調理法を応用してみたけど、うまくいってよかった。


「で、トヨタさん!!まじで報告させてもらいますから」


キッとにらみつけると、トヨタさんは怯えたような顔をして近寄ってきた。


「でも無傷だ。そして魔魂も大して消費してない。おまけにおいしいオーガの蒸し焼きもできちゃった」


「おいしいかはわからない!!」


「それは置いといて、全然危険だとは思わなかったですよ。ヨナっちはできる人だってすぐに分かりましたから」


「え、そうなんですか?」


「それはもう。今のオーガ、並の社員なら瞬殺されるでしょうし、魔導士級でも歯が立たない人が大半じゃないかな」


「え?何でそんなやばい案件が来たんですか?たまたま?」


「まあねえ、もう少しここにいたら分かりますよ。じゃ、今日の仕事は終わりってことで、直帰していいですよ」


え?え?まじで?トヨタさんって、最高の上司なんじゃ!?


「今日はあまり飲み過ぎないでくださいね。魔場が揺らぎますから」


おお、じゃあ今日はストロングなあいつはやめておこう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ