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ヲタクの日常

作者: 雨薫うろち

 夜もいい時間に仕事が終わり、家に帰ってまずは風呂に入る。


 仕事中は触れもしないスマホを片手に夕飯の用意。


 自分一人食べるのに凝ったものは作らない。でもコンビニ食はこの前やめた。


 両親共働きで小学生の頃からお世話になったコンビニ飯だが、コスパが悪すぎるのは当たり前、だからと言って癖になると毎晩一回行かないとなんか気持ち悪いものだ。


 それでも一念発起して、コンビニ飯をやめたらひと月5万は浮くのだから、酷いもんだわな。


 何年か前から急に目覚めたアイドル趣味。


 テレビに出てるような有名芸能人じゃない。アルバイトしながらライブする様なそんなアイドルが気になって仕方ない。


 別に付き合いたいとかそんなんじゃない。ただ、応援したい。


 まあ、自分を知ってもらいたいとか、好きになってもらいたいという気持ちが無いといえば嘘になるかもしれないが、


 なんか気になって仕方ないのは、自分が夢も何も無く、自分の身一つ生きられればそれでいいっていう、自堕落で投げやりな生き方をしているからか、


 凄く輝いて見える。そんな君は、一人でも多くの人に見つかりたいと毎日配信してる。


 雑な夕飯が終わり、ベッドにお酒を持ち込む頃に配信が始まる。


 夜もいい時間なのにちゃんと化粧して、画面の向こうで話す君。


 今日はライブがあった筈だが、それでも疲れを見せずよく話し、よく笑う君に、


 いつもお決まりの一言、「やぁ|ω・‘)ノ」とだけコメントし。


 君の声を聞きながら自分はベッドに転がりがってパソコンを叩く、しょうも無い作業に没頭する。


 そして、配信が終わるタイミングで自分も作業をやめ、


 「またねー」とコメント。


 それだけ、それでもいつも「作業頑張ってね」と言ってもらえる。だから自分も頑張れる。


 そして、寝て。


 朝起きれば、君がおはようツイートしてるのが、いつも不思議。


 だって、君はあの配信が終わった後に化粧を落としたりしてる筈なのに、何で自分より先に起きてツイートしてるの?


 君のツイートに いいね だけして、仕事に行く準備を大急ぎに急ぐ。


 リプはしない、なんか恥ずかしいから。でもちゃんと見ているのは気づかれたくて、いいね だけするが、君は気がつかないだろう。


 一日仕事しつつ、先輩の愚痴を聞き流しつつ、今夜の作業の事か君の事ばかり考えてる。


 でも、君が成功する姿と近くにいる自分を一緒に妄想してしまうのは何故だろう?


 君が成功すればそれでいいと思ってる筈なのに、いつの間にか画面に自分が入っちゃう。


 結局自己顕示欲なのか、承認欲求なのか、浅ましいと思っても妄想は止まらないし、誰にも迷惑かけてないからいいよね。


 そしてまた夜。


 自分の一日は大体そんな感じ。


 自分がアイドルにハマッたのに大した理由は無いし、事件も無い。


 偶々自分の誕生日、誰に祝われるわけでも無いその日に全国流通したCD。


 買い換えたばかりのスマホのニュースを適当に見てた時、妙に気になる曲を見かけた。思わず言葉に出たのは、


 「なんか変なの」


 そんな感想なのに、何故か何回も繰り返し見てしまうMV、


 それで、何にも知らないのに通い始めてしまう秋葉原のコンカフェ。


 いつの間にか常連になり、所謂地下と呼ばれるアイドルのライブを渡り歩くようになった。


 人混みも列に並ぶのも苦手な自分が気兼ねなく行ける場所は、地底と言われる所。


 ファンや界隈が両手で数えられる位しかいない、そんな環境に入り浸り、


 やっと・・・推しと呼べる君に会った。


 ただのヲタ活でも色々しがらみはあり、行かなきゃいけない現場は無数にある。


 それでも自分のヘッダーは君一人、それは気づいて貰えるのだろうか?


 毎日働き、配信でポイントを投げる。


 コンビニ通いをやめても結局お金は使い果たしてしまうが、君の為に使えるのならそれでいい。


 多分仕事場の誰に言っても笑われるから、誰にも言わない。


 知った事じゃない。会社なんてまともに付き合いのある人なぞいない、皆嫌いだ。


 毎日毎日君とスマホ越しのコミュニケーション。

 

 別にいい、それで明日も頑張れる。嫌いな同僚達に適当な愛想笑いをしながら、我慢する。


 日の出てる内は我慢するだけの日々。


 配信でコメントするだけで、自分の名前を呼んでくれる君。


 何てことない本名をもじっただけのハンドルネームを呼ばれるのを心の底から待ってしまう。


 馬鹿らしい、でもそれしか楽しみしかない自分の馬鹿馬鹿しい人生。


 大仰と言われても、自分の人生になんか意味があると思えない。


 そして、日曜日!日曜日!!日曜日!!!


 推しに会える!推しのライブを見て、そして特典会で推しと話せる。


 しかし、自分のキャパとコミュ力では1分話すのすら限界。


 でもいい、名前を呼んで貰えて自分を認知してもらえるのだからそれでいい。


 多分世の大半からすれば、自分はただのコミュ症なのだろう。


 いや、女の子と何の意識もせずにしゃべれる奴ら何者だよ。人生に余裕ありすぎだろ。


 自分もさ飲み友達とかなら、潰れた女の子の彼氏に連絡する位はなんとも無いさ。


 でもな~アイドル相手となるとな。


 それでもツーショットチェキを取って、一分話して、家に帰る。


 なんなんだろうな、それで満たされるんだから何か文句ある?


 君を応援したい、頑張ってる姿に元気付けられる、優しい気持ちになれるのだが、


 ああ好きだな・・・好きだ。


 何なんだろうな、何年かアイドルヲタクしてるのにこの感情に整理が付かない。


 付き合いたいでも、結婚したいでも無いのに、ひたすら愛情が湧き出るこれって何なんだろうな。


 ある平日の事、君は以前から生誕来てねと言っていた。


 自分はいつも仕事だから・・・と言っていた。


 それでも、会社に言い訳し大急ぎで仕事を終わらせて、駆けつける。


 「来れないって言ってたじゃん!」


 ちょっと怒った風の君の態度が嬉しくてしょうがない。楽しくてしょうがない。

 

 何とか間に合えた自分自身に誇りしかない。


 結局自分の事だけしか考えてない。


 最低だ。そんな自分を認知してくれる推しを好きでいないわけが無い。誰も彼も嫌い。


 親だろうが同僚だろうが嫌い。会社の社長に子供の様に思ってるとか言われてもウソだと確信してる。


 馬鹿じゃない?馬鹿なの?お前らが自分の事どう思ってるか気がつかないと思ってるの?


 好き放題利用されるようなタマじゃないよ?自分は!媚売ってくるんじゃないよ気持ち悪い。


 ただただ、推しが好きな感情が溢れ、そのおかげで今日も生きられる。


 極端でもなんでも無い、自分には推ししかいない。


 ある日の事いつも通り急ぎに急ぎ、会社を終わって髭を剃る暇も無いままライブに行く。


 ただのヲタクのクセに、推しに合わせる顔もなく、ただライブだけを見て帰る。


 現場の同じ推し仲間、つまり同担とちょっとだけ飲んだ日。


 いつも通り推しのいいところをお互いに叫び上げながら飲むお酒はうまい!


 会社や誰かの愚痴を言いながら飲むより、推しの好きなところを叫びなが笑って飲む酒のうまい事。


 帰りの電車で推しの配信を見ながらコメントすれば、今日来てくれてたねと言われる。


 特典会に行かなくても完全にばれてた。


 推しはいつも自分の事を見てくれてる。自分が推しを見ないなんて事はあっちゃいけない。


 ああ、推しは可愛く、尊い!好きだな~。


 自分は推し中心の生活!


 そんな事言いつつも有給休暇なんていうのが都市伝説なのは知ってる。


 なんなら土曜休みが嘘なのも知ってる。


 そんなある日の事、推しのライブに参戦しヲタク仲間達とわちゃわちゃした後。


 ヲタクって何で尊いんだろうなと、人の為に全力を尽くせて、尚且つ謙虚で控えめな姿勢、


 ただもんじゃないじゃん、古の聖者かよ!


 感慨に耽り、自分の浅ましさを後悔しながら山手線に乗り、


 目の前には静かにだらしなく眠る推し。


 自分は結局教育されたヲタク、アイドルのプライベートに踏み込むなんて出来ない。


 ゆっくり寝てよと思いながら放置する。


 ちょっと遠目で見ながら。


 配信の後、朝早くツイートしちゃう推しが、電車で寝る姿を見守りながら、


 自分はモチベを取り戻す。

 

 もし、もしも、自分が毎日書いてるラノベがアニメ化したら、主題歌歌ってもらえますか?

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