7.嫌がらせ?2
ライガはあんまり体を鍛えているようなイメージはなかったけど、意外な程、危なげなく寮まで運んでくれた。
私はと言えば、あまりに恥ずかしいからローブのフードを深く被って、抱えられていたのだけど、想像以上に逞しいライガの胸筋を感じて益々顔が熱くなってしまった。
幸いなことに、みんなはもうすでに寮に戻っているらしく、道中、人に会うことなく寮まで辿り着くことができた。
寮は当然、男女分かれているので、女子寮の前で下ろしてもらい、あとはソフィの手を借りて部屋まで戻って来ることができた。
はー、人に見られなくてよかった。
なんて思っていた私は馬鹿だった。
次の日1日休んで、魔力が戻った。
なので、今日は学校に来たら、やたらと視線を感じる。
「ソフィ、なんかすごく視線を感じるんだけど」
こっそりソフィに相談すると
「そりゃあ、全校生徒の前でライガにお姫様抱っこされて行ったからね。注目の的だよ」
ちょっとニヤニヤしながら教えてくれた。
あぁ〜!寮に帰る時は人目を気にしていたけど、魔術大会の会場から保健室まで、すでにみんなに見られていた!
羞恥で頭を抱える私にソフィが恐ろしいことを言った。
「ライガって女子生徒に結構人気があるからね。妬んでる子がいそうだし、気をつけてね」
私の当初の目的、地味で目立たない令嬢が…どんどん遠く離れて行く気がする。
地味はともかく、どうやら目立ってしまった!
今からでも間に合う?
「おはよう。もう大丈夫なのか?」
後ろから声を掛けられて、思わず、ビクッとなってしまう。
恐る恐る振り返ると、噂の主、ライガが立っていた。
おぉ、益々視線を感じる!
「もう大丈夫。魔力は完全に元通りだよ」
笑顔が思いっきり引き攣ってしまった。
フゥ
思わず出るため息。
昼休み、人目を避けようと人気のない庭園の奥までやって来た。
ゲームのストーリーからは完全に離れてしまっていて、何が正解なのか全く解らない。
ヒロインのユリアは攻略対象者に接触してる様子がなく、わたし以上にひっそりとしていて目立たない。
どういうことなんだろう?
ここがゲームの世界だと思っていたけど、そもそもそれが間違いなのかな?
悩みながら歩いていると、突然、後ろからドンと背中を押された。
突然のことに踏ん張れなくて、そのまま前にも倒れてしまう。
バシャン
勢いよく目の前にあった噴水に上半身を突っ込んでしまった。
すぐに起き上がったけど、上半身はびしょびしょだ。
噴水に突き飛ばされる…?
なんで?
それはレティシアがユリアにする嫌がらせだから〜!
あまりの事に呆然と噴水の縁に座っていると、誰かがやって来る足音がした。
顔を上げて見ると、そこにいたのは、濃紺の髪に黒い瞳の端正な顔立ちのダークグレーのローブを羽織った男子生徒。
マシュー・カーナード!
なんで、こんなところに⁉︎
「その格好はどうした?噴水に落ちたのか?」
びしょ濡れの私に驚いたらしく、マシューは目を見開いた。
「あ〜、うん、ちょっと…」
普通に考えて、噴水に落ちて上半身だけびしょ濡れはない。
でも、誰かに突き飛ばされたと言って大騒ぎになるのも嫌だしな。
何事かを察したのか、渋い顔をしつつもその事には突っ込まず
「そのままじゃ、風邪ひくぞ」
羽織っていたローブを差し出した。
受け取っていいものかどうかと逡巡していると、バサッと頭に掛けてきた。
掛けられてしまったものは仕方ない。
ローブを羽織ってフードを被った。
「ありがとう」
思っていたより、私は堪えていたらしい。
ちょっと声が震えてしまった。
「ちゃんと友達に相談しろ。アルやジェフだって力になってくれるはずだ」
黙って頷いた。
泣きそうだ。
ジロジロ見られるのも、好奇の視線のせいで仲のよかったライガと気まずいのも嫌だった。
突き飛ばされるほどまでに嫌われているって考えるのも辛い。
「寮に帰って早く着替えた方がいい。先生には言っておくから、午後からの授業は休め」
マシューの言葉に黙って頷いた。
それでも、なかなか動き出さない私に痺れを切らしたのか、マシューは私の手首を掴むとずんずんと寮に向かって歩き出した。
そのまま、寮の前まで送られた。




