4.嫌がらせ?
私は机の中を見て、朝からげんなりした。
またか…
折角、朝、ウィルに癒されたばっかりだというのに…
「また?レティにこんなことするなんて許せないわ」
ソフィがぷんぷんと怒っている。
ソフィが私の為に怒ってくれているのを見て、頬が緩みそうになるのを必死で堪えて
「大丈夫。ちゃんと準備してあるから。気にしないで」
真面目な顔をして宥めた。
あの魔術大会のチームを組んでから一か月、なぜか嫌がらせを受けている。
既に破かれたり、汚されたりした教科書はもう何冊になるのか…
我が家は公爵家、教科書くらい何冊でも買えるけどね!
地味な嫌がらせが続くから、予備を10冊ずつ用意してもらった。
もっとたくさん予備を用意した方がいいのか…
って言うか、なんでレティシアが嫌がらせされてるの!
この地味な嫌がらせはレティシアがユリアにするやつだから!
ユリアはどうしているのかと、チラリと見るけど、攻略対象者の誰とも仲良くなっている様子がない。
私がアルバートの婚約者じゃなくなったせいで、話が変わってしまった可能性はある。
だけど、何故私に嫌がらせするのか…
どう考えても、あのチーム編成のせいに違いない。
何せ、3人いる男子がみんな人気のある人達だ。
地味な私が彼らの側にいるのが気に入らないんだろう。
だって、可愛いソフィに対する嫌がらせはないのだから。
「また、やられたのか?」
ライガが心配そうな顔をして話しかけてきた。
「大丈夫よ。予備の教科書はあるし」
「そういうことじゃなくて、犯人を特定した方がよくないか?」
あれから随分仲良くなったソフィとライガは心配してくれている。
私はそれが嬉しい!
ぼっちだった私に心配してくれる友達が!
また頬が緩みそうになるのを頑張って無理矢理真面目な表情を作る。
そこに話を聞きつけたジェフがやって来た。
「レティ、いい加減、やめさせないと駄目だろう」
攻略対象者ジェフリーは敵にさえならなければ、結構いい奴だった。
「そうねぇ。この嫌がらせの目的は知りたいかな?」
そこまで困ってはいないけど、誰が何の為にやってるのかは知りたいかな。
「目的は、なぁ」
困ったようにジェフがライガとソフィを見た。
?
みんな知ってるの?
尋ねようとしたら、先生が入ってきてしまった。
今日は魔術大会で使えそうな技を見せ合って、どういう組み合わせにするか考える。
学院に入学して間もない一年生はまだ習っている魔法も少なく未熟なので、正直、あんまり派手なことはできない。
だけど、このチームには王太子のアルバートがいる。
彼はやっぱり攻略対象者の王子様。
何でも熟せる。
それにライガも2属性使えるし、このチームは他のチームより明らかに出来がいい。
「どんな感じのステージにする?」
アルバートがみんなの意見を募った。
「レティが植物が使えるんだから、花を咲かせるのは?」
ソフィが私を期待を込めて見ているので
「それくらいなら出来るよ。薔薇でいい?」
調子に乗って、近くに赤い薔薇の花を咲かせた。
「レティは軽々と魔法を操るな」
アルバートがちょっと悔しそうに言った。
「それなら」
大輪の薔薇にヒューっと風が吹くと、青空に花びらが舞い上がった。
アルバートだ。
「アルバート様こそ、ですよ」
アルバートのことをアルと呼ぶのは丁重にお断りさせてもらった。
婚約者でもないのに王太子を愛称呼びは勘弁してほしい。
アルバートは不満そうだったが、彼には二つ年下の婚約者がいるのだ。
トラブルの種は撒かないに限る。
舞い上がった花びらを見つめていると、突然、粉々になってキラキラと舞い降りた。
「氷?すごく綺麗」
ライガの魔法だ。
「なんか、これだけで結構すごくないか?」
ジェフが呆れたように言った。
「一緒のチームでよかった」
ソフィもキラキラ舞い降りる花びらの欠片を見つめていた。