40.最後の舞台へ
卒業パーティー。
家に帰れない人は学院で用意してもらったメイドに準備を手伝ってもらうことになる。
ドレスも貸し出してくれるので、ドレスを用意できない生徒もちゃんと参加できるようになっている。
一年生は自由参加となっているので、仲のいい上級生がいる人は参加する。
ちなみに私は去年、卒業パーティーイコール断罪に怯えていたので、もちろん参加しなかった。
私は今日、一旦タウンハウスに戻って、パーティーに行く準備をしている。
卒業後は本格的に社交界デビューをすることになるので、卒業パーティーはその前哨戦みたいなものだ。
「くっ苦しい!本当にみんなこんなに締めてるの⁉︎」
コルセットをぎゅうぎゅう締められて、早くも倒れそうだ。
「はい。皆さんこんな感じです」
侍女のサラがコルセットを締めながらあっさりと言う。
「これじゃあ、何も食べられないわ」
あまりに切ないつぶやきに
「パーティーでばくばく食べるものではないのですが、お嬢様は体が元々細いので、少しだけ緩めましょう」
サラが妥協してくれた。
少し緩めてもらったので、ほっと一息つく。
「お嬢様は何もしなくてもきれいですけど、今日は私に任せてください」
サラはキリッとして言うと髪を結い上げ、化粧を施していく。
満足いく仕上がりになったのか、鏡の前に促された。
おぉ!
悪役令嬢レティシアみたいに派手ではない、うっすら施された化粧は清楚な感じで確かに、綺麗だ。
「ありがとう、サラ。とってもいい感じよ」
「お嬢様をやっと着飾らせることができて、嬉しいです」
サラがニコニコして言うと、他のメイドたちも、嬉しそうにうんうんと頷いている。
今まで、なんとか目立たないようにと思って過ごしていたから、地味な格好ばかりしてきた。
今日は婚約者であるライガから贈られたドレスを纏っている。
薄い水色が下にいくに従って深い青色に変化していく布地で、銀色の刺繍が施されたとても素敵なドレスだ。
アクセサリーはプラチナにダイヤとサファイアがあしらわれた婚約の記念にと贈られた華やかなものだ。
ノックの音がして、お父様とお母様とお兄様が揃って入ってきた。
「今日のレティシアはいつも以上に綺麗ね」
お母様が微笑んだ。
隣でお父様も機嫌良さげに頷いている。
「これは婚約者殿が惚れ直すな」
お兄様はハハハと笑っている。
「家族の欲目ですよ。でも、ありがとうございます」
今のレティシアは家族の関係も良好だ。
断罪なんかされて家族に迷惑をかけるなんてことがなくて本当によかった。
迎えに来てくれたライガの前に立つと、目を少し見開いた後、口許を綻ばせた。
「とても綺麗だよ」
今日のライガは黒に銀糸で装飾が入った上下を身につけている。
いつもの制服姿と違い大人びていて、いつも以上に格好よかった。
「ありがとう。ライガも素敵だわ」
家族たちから見つめられているのもあって、恥ずかしくなって俯いてしまった。
ライガにエスコートされて馬車に乗り込む。
さぁ、ゲームの最後の舞台の卒業パーティーだ。
もう大丈夫と思っているものの、一抹の不安がそれでも残る。
緊張しているのに気づいたのか、ライガはぎゅっと握り込まれた手に自分の手を重ねた。
「大丈夫だよ。レティのことは何があっても俺が守るから」
ライガの優しい笑顔に張りつめていた気持ちがふっと緩んだ。
うん、大丈夫だ。
大好きなライガが隣にいてくれるんだから。




