33.ライガから見たレティシア①
俺は幼少の頃から魔力が高かった。
父の生家であるシーナルド侯爵家の血を色濃く引き継いだからだろう。
幼い頃は小さな体に見合わない魔力でいつも体調が悪かった。
父は魔法剣士として騎士団の副団長にまでなった人物だが、俺の魔力は更に上をいっていた。
そんな俺にコントロールする術を教えてくれたのが、父の友人で魔術師長のカーナード侯爵だ。
お陰で、魔術学院に入学する頃には完璧にコントロールできるようになっていた上に、魔術師長直伝の色んな魔法が使えるようになっていた。
シーナルド侯爵の一家が事故によって亡くなったのは、学院に入る半年程前だ。
前シーナルド侯爵が当座は復帰していたが、いずれは養子を迎えなくては侯爵家は途絶えてしまう。
そこで、白羽の矢が立ったのが俺だ。
兄は男爵家の跡取りだったし、二番目の兄は子爵家へ婿養子に入っていたからだ。
それに何よりシーナルド侯爵家の血筋を表す魔力量と氷属性。
当然のように俺は養子に入るように言われたが、今の気ままな身分ではなくなってしまうのが惜しかった。
父はちょっと身分の低かった母と祖父の反対を押し切って結婚したから、あまり交流がなかったのもあるが。
カーナード侯爵以外には内緒にしていたが、人の外見を変える魔法が使えるのも使い魔と契約しているのも規格外で、シーナルド侯爵家に入れば、それなりの義務が生じる。
色々と思うところもあり、当面は保留とさせてもらった。
祖父は魔力の高い俺をどうしても養子にしたかったようで、保留の回答に渋い顔をしつつも、了承してくれた。
そんな俺の目の前に現れたのが、レティシア・マガンスター公爵令嬢だ。
魔法学院の入学式の朝、まだ生徒は来ていない時間に庭園の片隅で鍛練をしていた時、使い魔であるゼントはのんびり東屋のベンチで寝そべっていた。
ゼントは呼んでなくても時々現れる気ままなやつなのだ。
彼女はゼントをただの子犬だと思ったらしく、抱き上げてぶつぶつと喋り始めた。
ゼントが大人しくされるがままになっていることが気になって、東屋の方を覗くと、清廉な雰囲気を纏った綺麗な黒髪の女の子だった。
切れ切れに聞こえてくる「断罪」や「国外追放」という不穏当な言葉が気になって、彼女がその場から去るまで、ずっと見ていた。
クラスが一緒だったので、すぐに彼女の素性は判明した。
まさかの公爵令嬢だった。
毅然とした態度とちょっと冷たい感じもする容姿も相まって、ちょっと遠巻きにされてる。
ゼントのことをただの子犬だと思っている彼女はゼントの前でだけは、ふにゃっとした表情で弱音を吐いている。
そのギャップはやばい。
気がつくと目で追ってしまってる。
「ゼント、お前いつまでただの子犬のふりをする気だよ」
彼女の膝の上で撫で回されてるのが羨ましいわけじゃないぞ。
「おいしい貢物もあるし、彼女はいい匂いがするから、当分はこのままでいい」
匂いって、魔物のくせに変態か!
「誇り高き狼じゃなかったのか」
呆れて言えば
「ハハハ、ただの子犬も悪くないわ」
機嫌良さげに尻尾をブンブンと振った。
完全に犬だな!
彼女は友達を欲しがっていることが分かっていたので、魔術大会のチーム分けの時思い切って話しかけてみた。
すると、本当に嬉しそうな顔をした。
コレはかわいい!
それに釣られてきたのか、アルバート殿下たちまでが同じチームになったのは想定外だったが。
その時から、彼女は教科書を汚損されるという嫌がらせを受けている。
彼女は分かってなさそうだが、多くの令息の注目を集めていることも、アルバート殿下が構うのも嫉妬の対象なのだ。
魔術大会当日に事故は起きた。
咄嗟に出した彼女の雨を降らせる魔法でことなきを得たが、慌てたのか魔力が勢いよく流れて魔力切れを起こして倒れてしまった。
俺は保健室まで抱き上げて彼女を運んだ。
思った以上に彼女は軽かった。
気がついた後もしっかり歩けない彼女を寮まで運んだのだけど、恥ずかしそうに真っ赤な顔している彼女は本当にかわいい。




