31.ライガ
あの日から、私たちは付き合い始めた。
と言っても、今までとほとんど変わることはなかったけど。
清いお付き合いだ。
ライガはなんだか忙しいらしく、夏休みもほとんど会えず、デートらしいデートも数えるくらいしかしていない。
ライガは優しいけど、ちょっと寂しい。
今日は久しぶりにカフェでデートだ。
楽しいんだけど、気になって仕方がないことがある。
サリーナのことだ。
訊いてもいいよね?
嫉妬深い女だなとか思われたらってずっと訊けなかった。
あれからも時々サリーナと話す様子を見ていてどうしても気になっていた。
二人の様子はそんな甘い雰囲気はなかったけれど、何を話しているのか…
もし、二股なんてことがあったら確実に悪役令嬢レティシア出現だ。
「サリーナさんとはいつも何を話してるの?」
思い切って、清水の舞台から飛び降りる気持ちで訊いてみた。
ライガはそんなことを訊かれると思ってなかったらしく、目を瞬かせた。
「え?あぁ、サリーナ嬢?」
驚いた顔は、次第ににやにやしだした。
「気になるの?それは妬いてくれたってことかな?」
真剣に悩んでたのに!
ムッとしていると、慌てて説明してくれた。
「アルバート殿下からの依頼なんだよ」
思ってもいなかった名前が出てきて、今度はこちらが目を瞬かせる。
「アルバート様?どういうこと?」
「まぁ、もう目鼻もついたし、レティは当事者だから、いいかな」
「前に階段から突き落とされたことがあっただろう」
そう言えばそんなこともあったな。
「ずっと調べてたんだよ。犯人とそれを指示している黒幕の証拠集めをしてたんだ。サリーナ嬢は協力者だよ」
「どうしてまたライガが?」
「殿下とサリーナ嬢が喋ってると目立つだろ?俺とサリーナ嬢なら普通に友達って立ち位置で話せるから、殿下との繋ぎ役だよ」
「なるほど…」
ってなんで、アルバートがライガに頼むの⁉︎
「卒業後は王宮に勤めるつもりなんだ」
話がどんどん思ってもいない方向へ進んでいって、何度も目を瞬かせる。
「殿下の側近ということで」
「へ⁉︎」
あまりにも予想外で令嬢らしからぬ声をあげてしまった。
ライガは確か男爵家の三男だったはず。
爵位的に側近にはなれないはずだ。
頭の中は?マークだらけだ。
「俺の父はシーナルド侯爵の次男なんだ」
シーナルド侯爵家は魔法と剣を扱う魔法剣士の家系だ。
その属性は氷⁉︎
「えっと…どういうこと?」
「伯父の一家が二年前に事故で亡くなったんだ。跡継ぎのいなくなったシーナルド家が親戚筋から養子を取ることになって、俺が養子に入ることになった」
「前から決まってたの?」
「いや、侯爵家に入ったら、今までみたいな自由は無くなるからちょっと迷ってたんだけど、レティに会ったから」
ライガが私の手を取った。
「レティの隣に立つ為には爵位が必要だから」
「私のため?」
「レティはあんまり考えてなさそうだったけど、男爵家の三男じゃご両親に認めてもらえないだろ」
ライガはちゃんと先のことを考えてくれていたんだ。
そのことが嬉しくて、涙が滲んでくる。
「ありがとう。でも、私はライガがいてくれれば、市井でも国外でもいいんだよ。公爵家を出てもやっていけるように今まで頑張ってきたんだから」
それを聞いたライガはハハハと笑った。
「そんなこと、みんなさせるわけないだろ」
「それで、明日の朝、いつもの場所で待ってるから来て」
何も考えず頷いたが、いつもの場所?
朝でいつもの場所といえば、学校の庭園?
なんで?




