29.告白⁉︎
街は休日で屋台も出ていて、いつも以上に人通りも多く賑やかだ。
ソフィとジェフが前を歩いているから、その後ろを自然とライガと二人で歩くことになる。
ソフィ〜、助けて〜
何話せばいいの?
そんな心の叫びはソフィに届くことなく、どんどん歩いて行ってしまう。
「大丈夫か?あの二人は慣れてるから」
人の間を上手くすり抜けられず、遅れ始めた私に気付いてライガが声をかけてくれた。
「ごめんね。こんな人混みを歩いたことなくて…」
「はぐれるから」
そう言って、差し出してくれた手を恐る恐る取った。
はぐれないよう、きゅっと握られた手にドキドキして顔が熱くなる。
あ〜、手汗が気になる!
「あの二人とははぐれたら、この先の公園で待ち合わせてるから焦らなくても大丈夫だよ」
「そっそうなんだ」
「何か見てく?」
手を引きながら少し前を歩くとライガが振り向いた。
今振り向かないでよ!
絶対、顔が赤くなってる!
とにかく、誤魔化すべし!
「そっそうだね。あっあのお店かわいいかも」
目についた髪飾りが売っているお店を指差した。
適当に誤魔化す為に入ったお店だったけど、思った以上に繊細な細工の髪飾りが売っていて、ウキウキしてきた。
綺麗な銀細工は薔薇の花がモチーフになっている。
気に入ったし、買おうかな。
「これ、ください」
私が言う前に、ライガがお店のお姉さんに声をかけて、お金を払ってしまった。
「はい、気に入ったんだろ」
お店を出ると、包んでもらった髪飾りを渡された。
「ありがとう」
気に入っていそうだからって、プレゼントしてくれたのが嬉しかった。
自然に口角が上がってしまう。
「大切にするね」
「レティがするにはちょっと安物かもしれないけど」
ライガが苦笑した。
確かに公爵家に出入りする業者が持ってくる物に比べれば、値段は安い。
だけど、値段の問題じゃない。
「ライガがプレゼントしてくれたから、大事にするよ」
すごく嬉しいんだよーって思いを込めて見つめると、ライガの顔がほんのり赤くなった気がする。
「二人が待ってるかもしれないから、行こう」
また、ライガと手を繋いで公園に向かって歩き出した。
ベンチに座ってソフィとジェフが待っていた。
「遅かったね。どこかに寄ってたの?」
にやにやしながら、ソフィが訊いてくる。
「ちょっとな」
ライガはそっけなく答えたけど、まだ、手繋いだままだったし!
その後、屋台で売っていた串揚げを食べたり、焼き菓子を食べて休日の街を堪能した。
「この後、ジェフとちょっと寄りたいところがあるから、レティのことはちゃんと送って行ってね」
ソフィが小声で私にだけ付け足す。
「ちゃんと、レティの気持ち伝えてね」
此の間、気持ちに気付いたばっかりなのに!
恨めしげにソフィを見ると、ちょっとニマニマしてる。
「しっかり捕まえないと、他の子に取られちゃうよ」
ライガがサリーナと話をしている姿を思い出した。
真っ黒い気持ちが湧き上がる。
悪役令嬢レティシア降臨。絶対ダメ!
ソフィにこっそり叱咤激励され、二人と別れた。
告白ってどうやってするの?
今までやってきた勉強の中にはそんなのなかった。
難易度高すぎる。
内心頭を抱えて、帰途についた。
何をどう言えばいいのか、分からないまま、寮の近くまで戻って来てしまった。
「今日は髪飾り買ってくれてありがとう。えっと、お礼に今度は私が何かプレゼントしたいんだけど、二人で出かけられたらなって」
どう伝えたらいいか分からなくて、とにかく、次の約束をしようと思ったんだけど、やっぱり恥ずかしくてごにょごにょと小さな声になってしまう。
自分の気持ちを伝えるって怖い。
暫しの沈黙が辛い…
やっぱり、なかったことにしてもらおうかと、口を開きかけた時
「二人で?」
漸くライガが戸惑ったように口を開いた。
「無理なら、いい」
ライガの口から断られるより前に引っ込めようとした。
「待って。無理じゃないから」
さっさと寮に向かおうとした私の腕をライガが掴んだ。
「ほんとに?」
「ほんとに。また、来週にでも出かけよう」
ライガの言葉に、ただただうんうんと頷いた。
やっぱり、私には告白は難易度が高すぎる…




