23.癒しの力
「ごめんなさい!」
保健室に運ばれた私を追いかけてきたユリアが頭を下げた。
幸い打ち身や擦り傷はあるものの、大した怪我がなかった私は、ユリアが何で謝っているのか分からない。
「誰かに背中を押されて、レティシア様を巻き込んで階段を落ちてしまって」
真っ青な顔をして言うユリア。
「私は大した怪我はなかったし、大丈夫よ。それより、貴方は大丈夫なの?」
「大丈夫です。レティシア様を下敷きにしてしまったみたいで」
ユリアが眉尻を下げた。
「私、癒しの魔法が使えるので、ちゃんと傷跡を残さずに治せます」
必死な様子にほっこりして、頷くと
「じゃあ、お願いしようかしら?先生、いいですよね?」
一応、近くにいた保健室の先生にお伺いをたてた。
「癒しの魔法なら害になることはないし、治りも早いから、いいと思うわよ」
ニコニコしながら、頷いてくれた。
「じゃあ、やります」
ユリアが手を翳すと、キラキラした光に包まれた。
「ありがとう。すごいわね。本当に痛みがなくなったわ」
擦り傷も打ち身で赤くなっていた場所もすっかりきれいになった。
さすがヒロインの魔法は綺麗で優しい。
「レティ、大丈夫?」
廊下で待っていてくれたらしいソフィとライガが保健室に入ってきた。
「大丈夫。ユリアさんに治してもらったから、すっかり元通りよ」
「そう。よかった」
ソフィとライガがほっと息をついた。
「それより、ユリアさんは誰かに背中を押されたんだって。そんなことする人がいるなんて、問題だわ」
言いながら、眉間に皺がよっていく。
これは、レティシアが断罪を受けるきっかけとなる事件なのかな?
今回は明らかに私がユリアを突き落とした犯人ではないって分かるから、よかったけど。
「レティ、それよりじゃないよ。もっと自分のことを考えなよ」
ライガが不機嫌そうな顔をした。
あっ!そうだ!
ここまで運んでくれたのはライガだった!
「ここまで運んでくれて、ありがとう。いつもライガには迷惑かけてるね」
「別に迷惑だなんて思ってないから、それはいい」
ぶっきらぼうに言うライガはなんかちょっとかわいい。
そんなこと言ったら怒るだろうけど。
「レティシアさんは頭を打ってるかもしれないし、念の為、もう少し休んでいきなさい。あなたたちは授業に行ってきなさい。授業が終わったら、迎えに来てあげて」
保健室の先生の言葉にみんなは頷いて保健室を出て行った。
放課後、ライガが忘れずに、ちゃんと迎えに来てくれた。
「寮まで送ってくよ」
ライガは案外心配性だ。
「怪我もすっかり治ってるし、大丈夫だよ」
「そういう問題じゃないよ。意外とレティって危なっかしい。ほら、行くよ」
ライガがさっさと歩き出したので、後ろからついて行く。
「ごめんね。やっぱり、迷惑かけてばっかりだね」
そんなに危なっかしいのか。
ちょっとしょんぼりしてしまう。
先を歩いていたライガが立ち止まって、振り向いた。
「だから、迷惑だなんて思ってないから。俺が好きでやってるだけだから」
それだけ言うと、さっさと歩いて行ってしまう。
それを慌てて追いかけながら、嬉しくて顔がにやけてしまいそうになるのを、なんとか引き締めた。
「ありがとう」
ライガの少し後ろを歩いて寮までの距離をちょっとドキドキしながら帰った。




