21.ピンチ⁉︎
なるべくユリアに近付かないように気をつけていたのに、ピンチがやってきた。
先生に頼まれた用事を済ませて、さっさと帰ろうと空き教室の前を通った時、何人かの女生徒の話し声が聞こえてきた。
なんとなく気になって、チラリと教室の中を見ると、ユリアが何人かの女生徒に囲まれているのが見えた。
そのまま通り過ぎることができず、立ち止まってしまった。
「平民のくせにアルバート殿下に近付くなんて、身の程知らずにも程があるわ」
「ちょっと珍しい魔法が使えるからって、生意気なのよ」
口々にユリアを罵っている。
いくら学院で学んでいる間は身分は関係ないという建前があるとはいえ、ユリアは身分的にも、彼女たちに逆らうことが難しいだろう。
ユリアには近付きたくない。
でも、見て見ぬふりをできるのか…
迷っていると、ガタンと音がした。
誰かがユリアを突き飛ばしたらしく、ユリアが床に倒れている。
それを見たら、考えるより先に体が動いた。
「何をしてらっしゃるのかしら?」
わざと大きな音を出して戸を開けた。
「こんなことして、どういうつもりなのかしら?」
チラリとユリアを見て、取り囲んでいた女生徒たちを睨みつける。
普段ならこんな高飛車な言い方はしないけど、こういう子たちには身分を盾にした方が効果がある。
「レッレティシア様!」
公爵令嬢の登場に女生徒たちは途端に慌てだした。
「こっこれは、身の程を弁えない者に少しばかり注意をしていただけで」
ごにょごにょと言い訳を口にする。
「いい加減になさい。学院では身分は関係ないはずでしょう。こんなことするなんて、見苦しくてよ。アルバート様がお聞きになったら何とおっしゃるかしらね?」
最後にはわざとらしく、大きなため息を吐く。
「すっすみません」
アルバートに告げ口されたら大変とばかりに、脱兎の如く逃げ出した。
「大丈夫?怪我はしてない?」
逃げて行った彼女たちを見送って、倒れたままのユリアに手を差し出した。
ユリアがこちらをうるうるした瞳で見つめて、手を取った。
「ありがとうございます」
うっ!本当にヒロインの潤んだ瞳は破壊力すごい!
これはみんなが夢中になるのが分かるわ。
怪我はしてないようだし、深入りしないようにしないと。
「とにかく、帰りましょう」
「レティ?」
教室を出ると、すぐに後ろから声をかけられた。
アルバートとクロード!
なんでこんなとこに⁉︎
ん?まさか、ヒロインを助けるイベントだったの?
「こんなとこでどうしたんだ?」
「えっと…」
ユリアがあなたのせいで虐められていたのよって言っていいのかな?
まさか、私が虐めてたなんてことにならないよね⁉︎
どう説明しようか思案してると、ユリアが先に口を開いた。
「レティシア様は私のことを助けてくれたのです」
「助けてって何かあったのか」
アルバートが眉根を寄せた。
「ユリアさんに難癖をつけている人たちがいたから、追っ払っただけです」
私が虐めた訳じゃないんですからね!
「追っ払ったって、レティシア嬢は勇ましいね」
クロードがクスクス笑った。
「気をつけろよ。逆恨みするような奴もいるからな」
アルバートは意外な程、心配そうな顔をしている。
「ユリアさんも。何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってくれ」
「もう、寮に戻るんだろう?送って行くよ」
「私はいいので、ユリアさんを送ってあげて下さい」
クロードに慌ててお断りした。
イベントの邪魔をしてしまったなんて申し訳ない。
私は断罪さえされなければ、誰がユリアと仲良くしようが構わないのだから!
「何を言っているんだ。二人とも同じ女子寮なんだから、何で別々に送って行かなきゃいけないのか分からないんだけど。まだ何か用事があるのか?」
クロードが呆れた顔をしている。
気を使っただけなのに!
「そうですね。お願いします」
思わず、棒読みで返してしまった。




