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1.始まり

今日からが本番。

破滅に向かわない為に!

ということで、ヒロインが朝、アルバートに出会うイベントにかち合わないように、今日は2時間半も早めに学院にやって来た。


御者の手を借りて馬車を降りる。

遅刻して目立つとかないように、ゆっくり校舎に向かって歩き出す。

さすがに、人影はほとんどない。


今日は今世初めての制服だ。

やはり日本のゲームの世界だからなのか、この魔法学院にも制服がある。

白と黒のチェックの膝丈のスカートに白いシャツにグレーのジャケット、赤のリボンのタイ。

シャツにフリルがついているのが、ちょっとかわいい。

貴族令嬢からしたら、膝上のスカートなんてあり得ないんだろうな。

一応、スカート丈は選べるようになっていて、高位貴族は足を見せるなんてはしたないことはできないと思う人が大半なので、長い丈を選ぶ。

下位貴族や平民はそんなことをあまり気にしないし、動きやすいので、膝丈スカートを選ぶ人が多い。


私は元々日本の記憶があるし、膝丈で全然問題ないし、こっちの方がかわいい。


下位貴族の方が多いことを考えて、目立たないように高位貴族っぽさを排除したい私は膝丈スカートだ。


しかしながら、さすがライバルキャラ。ボンキュッボンなナイスバディで、ちょっと胸のあたりがきつい。

こんな感覚は初めてだ。

そしてレティシア・マガンスターは顔が可愛い。

目は大きくてまつ毛も長くてくるりんってしてる。

意地悪キャラなので、ちょっと吊り目気味だけど。

肌も陶磁器みたいに白くて鼻すじもとおってる。

唇は形良くプリッとして何もしてなくても赤い。

黒髪に翡翠の瞳で超美少女。

できれば、前世とは違う髪色が良かったけど、ツヤツヤの黒髪だから、まぁ、よしとしよう。


今日は地味に見えるようにゆったり三つ編みをして片側に流してる。

化粧はしてもいいんだけど、目立たないようにする為にもちろんしていない。



気持ちのいい朝の空気を吸いながら、学院の敷地を歩く。

学院の敷地は広くて裏は森になっているし、庭も広い。

外でランチを食べる場所には困らなさそうだ。


ここがあのゲームで見た世界か。

何処となく見たことのある景色に感慨深く周りを見渡す。


東側には学院の寮もある。

生徒は基本的には寮に入ることになっている。

私も入学式後は寮に入る予定だ。


のんびり歩いていると後ろから声を掛けられた。

「君、新入生?」

振り向くとそこにはキラキラ輝く金髪に青い目の麗しい同じ年くらいの男の子が立っていた。

制服を着ているし、学院の生徒なのだろう。


どこかで見たことがある。ちょっと小首を傾げながらも

「はい」

答えると、彼はちょっと驚いたような顔をして、顔を赤らめた。

「わたしも新入生だ。アルバート・モリナレアだ。よろしく」

アルバート⁉︎

なんで、早々に遭遇するの⁉︎


「レティシア・マガンスターです。お初にお目にかかります。王太子殿下」

驚きつつ、スカートを摘んで挨拶をする。

不敬な態度をとって断罪されたらたまらない。

「ここは、学院だ。堅苦しい挨拶は抜きでいいよ。アルバートで構わない。レティシア嬢はマガンスター公爵の御令嬢だよね?」

「そうです」

それがどうしたと言うのだ。

「ふーん。君がそうなんだ」

ちょっと不満そうに言われた。

何それ?初対面なのに悪印象?



先生と打ち合わせがあるというアルバートと別れ、まだ時間があるので、庭を散策することにする。

さすが貴族が行く学校。

庭の手入れも行き届いてるし、とっても広い。

キョロキョロしながら歩いていると、視線の先に東屋を発見した。

ちょっと休憩して行こう。


目の前まで来て気付いた。

ベンチに子犬が寝ている。

銀の毛並みの綺麗な子犬。

かわいい!もふもふしたい!

手を出して触るべきか触らざるべきか、悩んで手を子犬の上で彷徨わせた。


気配を察知したのか目を開けた。

バッチリ目が合った。

濃い青色の瞳。キラキラして綺麗。


「撫でていい?」

逃げなかったのをいいことに、恐る恐るもふもふする。


ふかふかで温かい。

その毛並みの虜になって、膝に子犬をのせて、更にもふもふ。


人馴れしているのか、子犬はされるがままに大人しくしている。


「君、どうしてこんなとこにいるの?迷い犬なのかな?」

撫でながら、子犬に話しかけてみる。

答えは期待してる訳じゃないけど、子犬の小首を傾げたような仕草が可愛すぎて悶える。

暫くその毛並みを堪能して、今日からのことを考える。


はぁー

ため息が出る。


「何事もなく卒業できるのかな」

元気がない私に気づいたのか、子犬が手をペロっと舐めた。

「ありがとう。慰めてくれるの?」

癒される〜

子犬を抱きしめる。


「私ね、断罪されて、国外追放されちゃうかもしれない。もちろん、何も悪いことなんてする気はないんだけど、もし、ゲームの強制力みたいなのがあったらどうすればいいんだろう」


今まで誰にも言えなかったことを、子犬相手に言ってみる。

返事がある訳じゃないけど、ちょっと弱音をはきたかったのかな。

自分でもよく分からないけど。


子犬が頭をぐりぐりと押し付けてきた。

慰めてくれるのかな。


あ〜すごい癒される〜



どれくらいの時間そうしていたのか、人のざわめきが遠くに聞こえ始めた。


「そろそろ行かなきゃ」

子犬をベンチに下ろした。


濃い青い瞳と目が合う。


「連れて帰りたいけど、今日から寮だしな」

ちゃんと飼い主がいるかもしれないし…

「お腹空いてない?」


何かないかと考えて、カバンの中からハンカチで包んだクッキーを出した。


今日からそのまま寮に入るから、お屋敷からおやつを持って来たんだよね。


「よかったら、食べてね」


包みを開いてベンチの上に置いた。


「そろそろ時間みたいだから、行くね」


後ろ髪を引かれつつ、子犬に別れを告げて、いよいよ始まるゲームの舞台に向かった。

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