15.小麦畑の再生
「今更なんですけど、1日でいきなり小麦畑が再生してたら、大騒ぎになりませんか?」
カーナード侯爵は目を瞬かせた。
「そりゃそうだろう。みんな小麦の生育には頭を悩ませていたんだから」
「やっぱり、そうですよね」
本当に今更だけど、今まで誰も出来なかった小麦畑の再生は話題になるに違いない。
私がそれに関わってるなんて知れたら、どんなことになるのか!
目立たないように、ずっと大人しく過ごしてきたのに全部台無しになってしまう!
これからのことを考え、悄然としてしまった。
「レティの魔法のおかげだって分かると、身動きが取れなくなる可能性が高い。レティが公表したいって言うならいいんだけど、そうじゃないなら、世間的には私たちでなんとかしたっていうことにしてもいいかな?」
「全然、いいです!私は目立ちたくないので!」
カーナード侯爵の言葉は渡りに船で、被せるように言ってしまった。
「陛下にはちゃんと、レティの魔法だってことは報告するからね」
悪戯っぽく笑った。
本当はそれも別に要らないけどね!
それでも、国王陛下に虚偽の報告はできないんだろうから仕方ない。
世間的には知られないなら、セーフ…なのかな?
今更どうしようもない。
うん、セーフっていうことにしておこう!
さすがに魔力の残量のこともあり、領地全部を1日で廻ることはできないので、その後数日かけて、小麦畑を再生していった。
粗方小麦畑の再生が終わって、気になっていたことをライガに訊いてみる。
「ライガのお家の領地も近いんだよね?大丈夫なの?」
隣の領地っていうことは小麦の産地じゃないのかな?
天候がそれほど違うとは思えない。
「ワイマリーほどは酷くはないよ」
ライガが苦笑した。
この顔は絶対、マシっていう程度に違いない。
「ついでだし、そっちも行こう」
「いや、そんなこと言ってたらキリがないだろう」
「そういうことじゃないよ。ライガにはいつも助けてもらってるんだから、私に出来ることがあるならするのが当然なの」
ライガは困った顔をした。
「レティ、この魔法が使えることは内緒にしておいた方がいい。利用しようとする奴が絶対いる。できたら使わない方がいいんだよ」
「それはそうなんだけど…」
なんとかライガを説得しようとしてると
「本当にライガは水くさいね。ライガをこの件に引っ張り出した時から一緒に廻るつもりだったよ。サペストリート男爵にはちゃんと畑の人払いは頼んであるから」
マシューが後ろから呆れたように言った。
「男爵は私の友達でもあるんだからな」
カーナード侯爵はライガの肩をポンポンと叩いた。
それにしても、小麦畑で人に会わないと思ってたけど、人払いしてあったのか。
さすが如才がない。
カーナード侯爵親子の説得により、翌日にはサペストリート男爵領に行き、数カ所の畑を廻った。
侯爵領より大分狭いので、1日で終えることができた。
「久しぶり、ライル。ありがとう。助かったよ」
小麦畑の再生を終えて、サペストリート男爵の屋敷を訪れた。
二人は本当に友達らしく、気安い感じで挨拶をしている。
「レティシア嬢だね?今日はありがとう」
サペストリート男爵の銀髪、濃紺の瞳はライガとよく似ていて父親譲りなんだとすぐに分かる。
その傍らにそっと佇む夫人は栗毛で薄灰色の綺麗な人で、顔立ちはどことなくライガに似ていた。




