14.小麦畑
この国で一番多い茶色の髪に茶色の瞳になった自分の姿を見ると、違和感がいっぱいだ。
ライガの魔法で髪色と瞳の色を変えてもらっている。
「変じゃない?」
「まあ、最初は違和感があるけど、似合ってるし、大丈夫だよ。それから、魔法は6時間しかもたないからね」
「そっか。最初からこの色だと思えば、違和感無いのかな」
手鏡を覗き込んだ。
「レティ、一応、このローブ着ておいて」
マシューが白いローブを手渡してきた。
「魔法が、少し強化される加護付きだ。おまけに涼しい素材で出来てる」
おぉ、黒いローブもいかにも魔法使いっぽくてよかったけど、白いローブは可愛い。
ローブを羽織りフードを被れば、瞳の色も違うし、レティシアとは気付かれないだろうけど、夏にフードまで被るとかえって目立つかな?
ということで、フードは諦める。
「レティって馬は乗れるの?」
マシューの問いかけに、動きが止まる。
「馬で行くの?」
「そのつもりだけど。さすがに転移の魔法をあちこちで使う訳にはいかないし」
「乗馬はしたことがないよ」
公爵令嬢教育の中に乗馬は無かった。
「じゃあ、一緒に乗せてくからいいよ。ライガでもいいし」
え?一緒に馬に乗る?
マシューかライガと?
いや、攻略対象者のマシューはやっぱり避けたい。
何が起こるか分からないからね!
結局、ライガの馬に乗せてもらい、最初の目的地に向かった。
ライガは意外なほど馬の扱いに慣れていた。
おっかなびっくり乗った私でも、しっかりと安定させてくれた。
背後にライガを感じるのが、なんだか恥ずかしくて、ずっと無表情になってしまった。
「まずはここら辺かな」
カーナード侯爵が小麦畑の前で馬を降りた。
そこには、ちょっと萎れた感じの生育の悪い小麦畑が広がっていた。
地面は乾いて少しひび割れてる。
ライガの手を借りて馬を降りる。
「まずはどうすればいいんですか?」
「雨を降らせて、小麦を成長させる。そのままのイメージでやってみて」
辺りに雨を降らせる。
魔法強化の加護付きローブの効果かいつもより広範囲に雨が降る。
ある程度、地面に雨が染み込んだ後、雨を降らせたまま小麦が成長するイメージで魔法をかけていく。
二つの魔法を組み合わせて使ったことはなかったけど、案外、ちゃんと発動する。
目の届く範囲の小麦畑に魔法をかけたので、辺り一面の小麦は陽の光を雨の雫が反射してキラキラ光り、大きく成長していた。
「これは想像以上だ。ありがとう」
カーナード侯爵は興奮して、私の手を取りぶんぶん振った。
あまりの興奮のしように、ちょっと引きつつ、ちゃんと役に立ててホッとしていた。
まだ魔力には余力はあったので、近辺の小麦畑に、片っ端から魔法をかけていった。
レティシアは本当に魔力が多い。
焦って魔力を一気に使わなければ、大丈夫だった。
魔術大会はなんで倒れたのか疑問なくらいだ。
マシューとライガもカーナード侯爵と同じように、初めて見る光景に目をキラキラさせていた。
ふと気付いたようにライガが声をかけてきた。
「魔力は大丈夫?」
「今度は平気」
苦笑いして、答えた。




