13.カーナード家
眩しさに目を閉じた次の瞬間には、カーナード侯爵家の本邸の一室だった。
明るい日差しが入り、落ち着いた品の良い家具でまとめられた部屋だ。
「レティシア嬢、初めての転移魔法はどうだったかな?」
カーナード侯爵はご機嫌な様子だ。
「こんなに一瞬だなんて、すごいですね!」
分かってはいたけど、実際体験してみると、すごいの一言だ。
馬車で行けば、3日はかかる。
なんて便利な魔法だろう!
「とりあえず、先ずは座ってお茶でも飲もうか」
カーナード侯爵とマシューの向かいのソファに腰掛け、メイドにお茶を入れてもらった紅茶を飲んで一息つく。
「マシューから、聞いていると思うけど、ここワイマリーは日照りで小麦の生育が思わしくないんだ」
さっきまでの笑顔が消えて、真剣な顔つきになった。
「ワイマリーはこの国の4分の1の小麦を賄っている。ここの小麦の不作は食糧危機に直結する。そこで、レティシア嬢に協力をお願いしたんだ」
「私の使える魔法はそれほど多くありませんし、正直、不作を解消できるほどとはとても思えないのですが…」
ずっと疑問に思ってることを口にした。
カーナード侯爵はニヤッと不敵な笑いを浮かべた。
「それはやってみれば分かると思うけど、きっと大丈夫。魔術大会でレティシア嬢の魔法は見たからね。本当にマシューのお嫁さんになって欲しいくらいなんだけどなぁ」
マシューは苦笑いをしている。
笑みが引き攣る。
食糧危機回避の為に出来ることがあるなら、協力は惜しまないつもりだけど、それは勘弁してくれ。
「お見えになりました」
カーナード家の執事がドアを開けて一人の人を招き入れた。
入ってきた人物を見て、びっくりして目を見開いた。
ライガ!
入ってきたのは、久しぶりに見るライガだった。
え?なんで?
ライガも驚いた顔をした。
「レティ?」
「驚いた?」
マシューがニヤニヤしている。
「さっき言ってた髪と瞳の色を変える魔法が使える奴だよ」
「ライガって、そんな魔法使えたの?」
「あ、まぁ、これは使えるって知られると色々面倒だから、みんなには言ってないんだ」
「まぁまぁ、ライガ。ひとまずこっちに座って」
カーナード侯爵が気安い感じで声を掛けた。
ライガが座るとマシューが笑いながら説明した。
「サペストリート男爵の領地はカーナード家の領地の隣なんだ。だから、学院に入る前からの知り合いなんだよ」
「そうなんだ。全然、そんな感じじゃなかったから知らなかったわ」
「ライガが俺と一緒にいると目立つからって。ひどいよね」
「マシューは王太子の側近候補だからね。一緒にいない方がいいだろう」
ライガはちょっと気まず気に言った。
「隠すつもりはなかったんだけど。カーナード侯爵は俺の魔法の師匠でもあるんだ」
なんですと⁉︎
魔法師長が師匠?
「ライガって魔法をすごく上手く操ると思ってたのよね。まさか、魔法師長直伝だったとは」
「レティシア嬢はライガのことは呼び捨てだよね。俺も敬称は要らないから、レティって呼んでいい?」
マシューがニヤニヤしたまま、話に割り込んできた。
「どっどうぞ」
吃りながら答えると
「じゃあ、私もレティって呼ばせてもらうよ」
何故かカーナード侯爵までそんなことを言い出した。
もう好きに呼んでくれ…




