12.領地
「レティシア嬢の魔法の力を貸して欲しいんだ」
マシューの言葉に益々疑問が広がる。
「私が使える魔法は珍しいものではありませんよ」
マシューの方が色々な魔法を上手く操る。
大体、魔法師長の足元にも及ばない。
なんでまだ学生の私にこだわるのか、全く理解できない。
「レティシア嬢の属性は植物と水だよね。その組み合わせで魔法を使える人はいないんだ」
物分かりの悪い子供に話すみたいに噛んで含めるように言う。
「そうなのですか?」
思ってもいなかったことを言われて、目を瞬かせる。
そんなこと、考えたことなかった。
「そうなんだ。で、その組み合わせで魔法が使えることが、今、カーナード領で必要なんだ」
「領地ですか?」
カーナード家の領地は確か南の方の穀倉地帯だったはず。
「領地では最近、日照りが続いている。多少なら対応できるんだが、小麦の生育状態も良くない」
思ったより深刻なのか、マシューの表情は厳しい。
カーナード家の領地はこの国の小麦を多く産出しているはずだ。
それが不作となると、大変なことになる。
国民が飢えることになる。
自分に出来ることがあるなら、なんとかしたい。
「私が何を出来るのか分かりませんが、協力出来ることならしますよ」
「ありがとう」
マシューは安堵したように、息をふっーと吐き出すと、今日初めて含むところのない笑顔を見せた。
「そう言えば、まだお礼も言えていませんでしたが、先日はローブをお貸しくださりありがとうございました。お礼も兼ねて、協力させて頂きます」
さすが、攻略対象者、眩しい笑顔になんだか恥ずかしくなって、理由を後付けしてしまった。
一週間後に領地に行くことになった。
馬車で迎えに来てもらって、先ずはカーナード家のタウンハウスに。
そこから領地に転移するらしい。
転移魔法が使えるなんて、さすが魔術師長だ。
ちょっと、ワクワクだ。
さすがに一人で行かせる訳にはいかないということで、侍女のサラも同行する。
「領地を回ってもらうんだけど、その格好のままだと目立つから、後で髪と瞳の色を変えてもらうから」
迎えに来てくれたマシューがなんてことないように言った。
「えっ!変えられるんですか⁉︎」
この世界にはカラーコンタクトなんて物はない。
髪の毛はカツラという手があるけど。
「魔法で変えるんだ。この魔法が得意な奴を呼んであるから」
「姿を変える魔法があるなんて、初めて聞きました」
さすが、魔法師長の周囲には色んな魔法が使える人がいるんだ。
「あんまり分かってないようだから、一応言っておくけど、婚約者でもないレティシア嬢がカーナード領を回ってると、あれこれ噂になると思う」
姿を変える魔法にちょっと浮かれていると、マシューが呆れた顔をした。
えっ?マシューと噂になるってこと?
それは困る!
「婚約者だってことなら、色んなことから守ってあげることができたんだけど、拒否されちゃったからレティシア嬢ってバレないようにしたいんだ」
「理解しました。目立たないようにします」
真面目に言ったのに
「いや、目立たないのは無理だから」
マシューはため息を吐いた。
タウンハウスに着くと、マシューのお父様、カーナード侯爵が出迎えてくれた。
「今回は協力ありがとう。マシューの父のライル・カーナードだ」
マシューによく似たおじさまはニコニコしながら私の手を取った。
いきなりのことに苦笑してしまった。
「レティシア・マガンスターです。お役に立てるか分かりませんが、よろしくお願いします」
「じゃ、早速だけど、転移するから、侍女の人も近くに来て」
サラが近づくと、いきなり景色が歪んで、次の瞬間には領地の本邸に転移していた。




