11.顔合わせ⁉︎
「ご機嫌よう。マシュー様」
スカートの裾をちょっと摘んで挨拶をする。
なんとか断れないか、お父様に言ってみたけど、魔法師長のカーナード侯爵は無碍にはできない人らしく、会うだけでも会うように言われてしまった。
「学院で毎日会ってたのに」って言ったら、「それはクラスメイトとしてだろう」ともっともなことを言われた。
そう言えば、ローブを借りてからお礼も言えてなかったなと思い当たって、兎に角、会うことになった。
メイドに洗濯してもらって、マシューに返そうとしたら、ソフィが
「また、ややこしくなるから、私から返しておくわ」
と言って、返しておいてくれたのだ。
何がどうややこしくなるのか分からないけど。
「今更、そんな堅苦しい挨拶いらないだろ」
マシューは呆れたように言って、目の前の椅子に座った。
我が家の庭園でお茶を飲みながらの顔合わせだ。
「突然のお話に、ちょっと戸惑っているんですよ」
「レティシア嬢のところには縁談の話が殺到してるだろう」
マシューが苦笑した。
「魔術大会で父が君のことを見て、どうしてもってゴリ押ししたみたいだな」
「魔術大会…」
やっぱり、目立ってしまったのか!
魔力切れを起こして倒れたのだから、何がよかったのかは分からないけど。
「レティシア嬢にまだ婚約者がいないって分かって、どうにかして射止めて来いって言われた」
マシューに色っぽい視線を向けられて、ちょっとドキッとしてしまった。
赤くなった顔を誤魔化すように、コホンと咳払いをした。
「それは災難でしたね。マシュー様にはもう決まった人がいるものだとばかり思っていましたわ」
不思議に思っていたことを口にすると、マシューはふっと笑って
「そうだね、何年か前に婚約者候補の子はいたね。アルの婚約者に選ばれたから、婚約者候補ではなくなったけど」
意味ありげにこっちを見る。
まさか!
それは私の代わりにアルバートの婚約者になった公爵令嬢か!
なんと!
そんな玉突き事故みたいになるだなんて!
暗に私のせいだって言ってる?
「そうなのですか」
素知らぬ顔をして、紅茶を口にした。
「レティシア嬢は病弱だと聞いてたから、元気そうで何よりだ」
絶対、嫌味言ってる〜
「それは私に対する苦情ですか?」
ちょっとムッとする。
「まさか。そんなのは過去のことだし、元々本人たちの意思なんて関係なかったからね」
マシューは可笑しそうに笑った。
「それで、どうかな?前向きに検討はしてもらえるのかな?」
「私の意見が通るならば、ですけど、学院に通っている間は婚約はしたくないんですよね」
婚約者なんていたら、いつ何時断罪の材料になるか分からないからね!
しかも攻略対象者!
「それは、可能性はあるってことかな?」
ニコニコしながら訊いてくるけど、圧が強い!
「マシュー様はお父様に言われて来ているのですよね?他の方でも良いのでは?」
「レティシア嬢は面白いこと言うよね。他の人でよければ、ゴリ押しはしないよ」
「それは私じゃないといけないことがあるってことですか?」
マシューはため息を吐いた。
「レティシア嬢って自分の価値が全く分かってないよね」
「マガンスター公爵の娘ですからね。一応、政略結婚の相手としては価値があるのは分かっています」
「う〜ん、それはそうなんだけど、それだけじゃないんだ」
困ったように言う。
訳がわからない。
「ちょっと協力してもらえたら、今すぐの婚約については諦めるよ」
「それはどう言うことですか?」
マシューの言いたいことが全く分からない。
疑問符だらけだ。




