9.ソフィから見たレティ
レティシア・マガンスター様は精巧なお人形のようなすごく綺麗な女の子だ。
きめ細かい白い肌には化粧は全く必要なかったし、飾りっ気のなさが更にその素材の良さを強調しているかのようだった。
彼女は公爵家のお嬢様だった。
自己紹介でそれを知った時、皆、驚きで固まってしまった。
公爵家のお嬢様なのに膝丈スカートを履いて、化粧もせず、全く飾りっ気がなかったからだ。
高位貴族の御令嬢は皆、足を見せるのははしたないと、足首までのロングスカートを選んで履いている。
侯爵令嬢にそのことで絡まれていたけど、すっぱり跳ね除けるのを見て胸がすく思いがした。
そんな彼女と親しくなりたいと思っていたのは私だけではないはずだ。
でも、公爵家のお嬢様の上、あまりに綺麗でかっこよくて近寄り難い雰囲気を持っていて、話し掛ける口実を探していた。
魔術大会のチーム決めの時、ライガがレティに話しかけたのを見て、思わず心の中で
「グッジョブ!」と叫んだ。
もちろん、この好機を逃す訳にはいかない。
私も仲間に入れてもらおうと、ごり押ししたら、嬉しそうに「よろしくお願いします」と言ってくれた。
アルバート様とジェフが同じチームになったのは意外だったけど、多分、前からレティのことが気になっていたんだろう。
レティ本人は知らないだろうけど、レティは男子生徒の間で大人気なのだ。
大体が話し掛ける勇気のない遠くから見つめているだけの無害な男たちだけどね。
レティは話してみると、気さくでとても可愛らしい女の子だった。
このギャップは何⁉︎
堪らないわ!
私は内心、毎日身悶えしていた。
そんな可愛いレティに嫌がらせをする奴がいる。
教科書を破いたり、汚したりしているのだ。
レティ本人はあまり気にしていないようだけど、私はレティにこんな嫌がらせをするなんて、許せない!
犯人は分からないまま、魔術大会を迎えた。
魔術大会で制御不能の炎を一瞬で止めたレティは魔力を一気に放出して倒れてしまった。
すぐに、ライガがレティを抱えて保健室に行った。
ライガは絶対、レティのこと好きだよねーとニマニマしながら、後をついて行ったんだけど、多分、レティに対する嫉妬心に火がついちゃった人がいたんだろう。
「レティが突き落とされた⁉︎」
マシュー様が昼休みがもうすぐ終わるという頃、教室に戻ってきた。
「本人ははっきり言わなかったけど、慌てて走り去って行く女生徒の後ろ姿を見たし、間違いないと思う」
マシュー様は眉間に皺を寄せた。
その話を聞きつけたライガやジェフ、アルバート様やクロード様まで集まって来た。
「それでレティはどうしたの?」
「寮の前まで送ってったけど、後で様子を見に行ってやった方がいいと思う」
「分かった。授業が終わったらすぐに行くわ」
授業をサボって行くと、レティが気にするだろう。
「それで、その女生徒は誰か分かってるのか?」
アルバート様が尋ねると
「後ろ姿だけだから、はっきりとは言えないが、カマをかけたらいけるんじゃないか」
マシュー様はちょっと悪そうな顔をした。
寮に戻って、真っ先にレティの部屋に行くと、心細かったのか、レティが抱きついて来た。
お風呂に入ったのか、ふわっと石鹸のいい香りがした。
なんという役得!
女でよかった!
レティに初めて、頼られて嬉しくなった私は張り切って、みんなと犯人探しをした。
前にレティに絡んでいた侯爵令嬢のイザベラ・コートの取り巻きの一人、アリー・シンド子爵令嬢が犯人だった。
マシュー様がカマをかけたら、ガタガタ震えて、あっさり白状した。
レティに対する嫉妬でやってしまったと。
公爵令嬢のレティにそんな嫌がらせがどうしてできるのか。
レティが教科書を破られても、あんまり反応しなかったから、大人しい令嬢だし大丈夫だと思ってエスカレートしたらしい。
それでも、イザベラに命令されたとは言わなかったから、アリーだけが退学処分となった。
優しいレティが心を痛めないように、この結末は言っていない。
レティにはのほほんと笑っていて欲しい。




