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厄介事は突然に

やっと書きたい所まで進んだ。

最初の仕事は、不要になった書類の焼却処分になった。生徒会役員が2人しか居ないのだから、雑用も2人でやらなければいけないのは判るが、会長に雑用を全部やらせているロデリック殿下に少々呆れた。


「これを今までお一人で」

「人が良さそうだからな」

「そうですね、会長とは言え、平民のマイル先輩には殿下に対して何か頼む、なんて出来ないでしょうから」


台車を押しながら焼却炉へ向かう途中、書類を抱えて同じ方向に向かう事務職員の様な青年に会った。


「失礼ですが、貴方も焼却炉に?」

「えっ、そうです」


驚いたように目を丸くしてこっちを凝視していた。

突然声を掛けられれば驚くよね。


「私達もそうなので、宜しければ一緒に処分いたしますが、如何ですか?」

「本当ですか。いやぁ助かった。あっ、僕はクレイ・ハリス。理事長の秘書です」


茶色の髪に茶色の瞳をした、人の良さそうな青年が嬉しそうに笑う。


「では、ハリスさん。処分する書類はこの台車にどうぞ」


ハリスはにこにこしながら書類を台車に乗せ、まだ有るから持って来て良いか?と言う。

断る理由は無いので大丈夫だ、と頷けばハリスはすぐに理事長室の方へと戻って行った。


「アリッサも人が良いな」

「困った時はお互い様ですから」


ディーンが曖昧に笑い、台車に積まれたハリスの書類に手を伸ばした。

焼却炉で生徒会の書類を処分しようと扉を開けようとした時、ハリスがさっきより少ないが、あきらかに形式の違う書類を持って来た。


「ハリスさん、こちらです」


アリッサが声を掛けるとハリスはちらっと書類に目を向け


「理事長も酷いんですよ。紙一枚も、跡形も無くなるよう処分しろ、だなんて。そんなに見られたく無いなら自分で処分したらいいのにね」


人の良さそうな笑顔は変わらないのに、先ほどとは纏う空気が違う気がして、アリッサ達はハリスを見詰めた。


「じゃあ、宜しく」


バサリ、と書類が乱れる事も気にしないで台車に残りの書類を乗せ、ハリスはアリッサ達に背を向けた。


「紙一枚」


強調していた言葉。ミステリーではキーワードになりそうな言葉だ。

試しに燃やしてしまうのだから、と乱雑に置かれた書類を持ち上げると見える様に便箋が挟んである。

手紙?と思いつつ便箋に視線を落とすと紙面には文字では無く数字がびっしりと書き込まれている。


「なんだこれ?」


ディーンも他の書類の中から何枚かの便箋を引き抜き、不思議そうに数字を目で追っていた。

何かが引っかかる。


「ディーン、他の書類も見て」


突然纏う空気を変え、紙一枚という言葉を強調したハリスの目的が解らないが、見過ごしてはいけない気がした。

便箋は全部で10枚。

全て数字がびっしりと書かれているが、奇妙な隙間が数字の間にあった。


「これ、ただの書き殴りの紙じゃないな」

「ええ。意図的に書かれている、暗号文かしら?」

「暗号文?」


ディーンは初めて聞く言葉に首を傾げた。

この世界にだって秘密文書などのやり取りに使う特殊な文字がある事は知っている。

ただ、それは複雑すぎて一般の者が使うことはまず無い。


「秘密文書の文字は複雑すぎて使えないですが、後ろめたい事がある者達が自分達だけで判る文体や文字を使った手紙を暗号文、と」

「それがこれだ、と」

「可能性はあります」

「どうして?」

「書かれている数字が、1人の手では無く数名のものです」


便箋の種類もまちまちだし、数字も書き手の癖、の様なものがある。

何枚かは同じ人物が書いたものだと思うが、ほぼバラバラだ。


「まずは生徒会室に戻りましょう」


人目がないとは言え屋外では、誰が聞いているかわからない。

不要の書類を焼却炉に入れ、空になった台車を持ち上げるディーンと共に生徒会室に戻った。

既に他のメンバーは下校しており生徒会室には誰もいない。


「で、これには何が書いてあるんだ」

「解りません。ですが、ハリスさんは何かを伝えようとしていた気がします」


机に並べた10枚の便箋をもう一度見直してみた。

書かれている数字は0から26がほとんどで、日付けの様に書かれているものは31まである。

簡単な法則がある筈だ。

暗号や特殊文字に慣れていない一般人が、複雑な物を使えるとは思えない。

ディーンも眉間に皺を寄せ便箋と睨めっこしているが、なんらかの案があるようには見えない。

やはり気のせいだったのか?

アリッサが便箋から扉の方を見た時、顧問のデラローン先生が入って来た。

数学の授業でも何度も顔を見ているが、緑の髪を後ろで一つに纏め、紫紺の瞳に銀縁の眼鏡を掛けている先生は、前世ではインテリのイケメン枠に入るだろう。


「まだ残っていたのか。他のもの達は下校したから君達も帰りなさい」

「すみません」


ディーンが曖昧に笑いながら片付けようと、机に広げていた便箋を集め始める。


「ラブレターか?」

「いえこれは……」


デラローン先生とディーンの会話に、頭の中で火花が散った。


「手紙!手紙だわ、これ」

「どうしたんだよ」

「こんな単純な事だったなんて」


アリッサは持っていた便箋を机に置き、読み始めた。


「この度は、我が息子の入学にご尽力賜り感謝しております。先にお約束しました、手付金の残りを後日お届けに参りたい、と思いますのでご都合が良い日を改めてお知らせください。パスク子爵」

「なんで読めた」


ディーンが驚いてアリッサの前にある便箋を掴んで紙面に目を走らせた。


「文字を数字に置き換えたのか」

流石。頭の回転が速い。

また新しいキャラが出てきて、波乱の予感ってな感じです。

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