試験勉強は、がっつりと
アカデミーでの生活がやっと始まる。
ヴォルフは徹底した無表情、無口だったから最初はどうしようか、と悩んだけど話してみれば口数は泣けてくる程少ないが、結構気さくな性格だったので助かった。
「ならば、ディーン、今度の試験で上位5番まで入って」
「何かあるのか?」
「兄から聞いたのですが、上位5番迄に入ると生徒会の補佐に選ばれるようで」
「そうなの。私もアリッサから聞いて今よりももっとアリッサと一緒に居たいから頑張っているの」
ほんわかしたソフィアの笑顔にディーンがため息をついた。
「つまり」
「頼れる男手は確実に確保したい」
ヴォルフの言葉にディーンが撃沈する。
Aクラスの男子は優秀だが、頼り甲斐は加味されていない。
「承った」
「ではお礼にディーンの苦手な数学と政治経済は任せて下さい」
「アリッサって、結構強引な所があるよな」
「頼りにしている、と思ってくださいね」
アリッサがにっこり笑うと机から、びっしり書き込みのされている教科書を取り出し、試験範囲の復習を始めた。
試験科目は5教科。
前世の科目で言うと、国語、数学、生物学、社会学、歴史学といった感じだ。
国語と数学そして歴史学は呼び方も内容もほぼ同じだが、生物学はかなり範囲が広く細かい分類まで一緒くたにされている。社会学は王政の政治や経済から司法まで網羅している厄介な教科だ。
「文官を目指している生徒って脳みそ何個持ってんだよ」
ディーンの愚痴に3人は笑ってしまう。
だが、ぼやいているからと言ってディーンが3人よりも劣っているわけでは無い。
少しだけ面倒くさがりなだけ。
「社会学の試験は、兄に言わせるとトラップだらけなので問題文を読み間違えない様注意が必要です」
本当に優秀な兄が居て良かった。
「アリッサのお兄様は確か、騎士団の副団長をされている」
「はい。この春から配属されました」
ソフィアとアリッサが試験勉強の合間にアランの事を話していると、ヴォルフが嬉しそうに目を細める。
「ヴォルフは兄をご存知?」
「はい。騎士としても人としても尊敬しております」
ヴォルフも騎士の家系に生まれ、成人前だがその卓越した能力を現近衛騎士団の団長であるアリッサの父に見込まれ、アカデミー卒業と同時に騎士団への入団が決まっている。
前途揚々なのに、全くそれを感じさせないヴォルフの無口で無愛想な態度は、いっそ清々しいくらいだ。
ヴォルフの鉄面皮が動くのもやはり騎士関係だけだったが、この所の試験勉強で話す機会が増えたアリッサ達には、微かに表情筋が動く様になったように見える。
最初の試験は怒涛の勢いで終わり、翌日には結果が廊下に貼り出されていた。
アリッサがほぼ満点で一位に。
僅差でヴォルフとディーンが入り、ソフィアも4位となり、まずは目標達成で皆、ホッと胸を撫で下ろしていた。
自分の試験勉強。泣くほど辛かった。