入学したらびっくりです。
アカデミーでの生活がやっと始まる。
首席で入学したアリッサの新入生代表の挨拶も無事終わり、入学式は滞りなく終った。
クラスに入ると早速、数少ない女子のクラスメイト達がソフィアを取り囲んだ。
「初めてお目に掛かります」
「侯爵令嬢様と同じクラスで光栄です」
など、貴族の令嬢らしい高位の人物に対して礼儀正しい挨拶にソフィアは微笑みながら、折角同じクラスになれたのだからあまり硬くならないで、と可愛らしくお願いしたら、女子生徒だけでなく男子生徒もワラワラと集まり、先を争う様に挨拶をする。
「美少女は偉大だ」
目ではソフィア様の様子を伺っている様にしながら、ヴォルフはすぐに解ったがもう1人のピックアップした生徒が誰なのか探していたが、凄い状況に思わず本音が口から溢れると隣に座っていた、燃える様な赤い髪の男子生徒が肩を震わせて笑う。
かなりの美少年?美青年?同じ歳の筈なのに大人びた雰囲気だが、どこか気怠げにも見える。
誰だっけ?と思いつつ顔を向けると男子生徒は収まり切らない笑いのまま、アリッサの方に顔を向けた。
「悪い」
「いえ、事実しか口にしてませんが、おかしいですか?」
「いや、確かに事実だけど、それが同性の君の口から出るとは思わなかった」
何となく自分の考え方は他の人とは違うのかもしれないけど、軋轢や誤解が生じなければ気にしない。
「名乗るのが遅れたが、俺はディミトリア・カナン伯爵だ」
「私はゴードウィン伯爵の娘、アリッサです」
うわっ、早速注意対象者だよ。
しかもこの若さで伯爵位を継いでいる。
複雑な背景がありそうだが、そちらに首を突っ込む必要はない。まずは友好的な態度が大切だ。
「カナン伯爵様」
「同じ伯爵だろ、硬いよその言い方」
「では、ディミトリア様」
「なんか違う。アリッサ嬢にはそんな距離を感じる様な呼び方されたく無い」
ナンパな男か?と思わず警戒するとディミトリアは肩を落とした。
「口説いてる訳じゃない。あの我が儘で有名だったレーベンブルク侯爵令嬢が初対面の君と親しげに話をして居るのを見て驚いたから、どうやったのか試しただけ」
あの会話の何処に、と思うが彼なりに何かを感じ取ろうとしていたのかも知れない。
「ソフィア様とは昨日中庭でお会いして、話をさせていただきました」
「それだけでレーベンブルク侯爵令嬢があれ程態度を和らげるとは思えないんだけど」
かなり鋭い。
此処はある程度本当の事を話した方が信用されるかもしれない。
「実はソフィア様が、ご自分の態度を改めてはみたが他の方とはどう接したらいいのか分からない、と相談され、いくつかアドバイス的な事を話したので」
「で、具体的に何?」
「微笑みを忘れず、身分など気にせず、どの様な立場の方にも親しみを持って接してくださいと」
侯爵家のソフィアが相手に対して慇懃無礼を働いても誰も表立って非難はしない。だが、それでは当初の目的が達成出来ない。
フランクになり過ぎない程度に親しみを表せばそれだけで印象が変わる。
「的を射たアドバイスだな」
「ありがとうございます」
ディミトリアの髪と同色の赤い目が面白い物を見つけた、と言いたげに細められる。
「頭の良い女は好感が持てる。俺の事、ディーンて呼んでくれ。俺も君の事アリッサ、と呼ぶから」
「決定事項ですか?」
「嫌なのか?」
「すみません。男の方を呼び捨てにした事が無いので、慣れるまで時間が掛かりますが宜しいでしょうか?」
アリッサの戸惑う姿にディーンは、また肩を震わせて笑う。
初日からソフィア様に対しての周りの反応は良好。我が儘だったソフィア様を知っている者もいた様だが、直接会った事がある者は居ないらしく、噂が過剰になっていたのだろう、と思ってくれているらしい。
授業が始まると苦手だ、と言ってた通り数学は苦戦している様だが他の教科はさして問題はない様だし、歴史に関してはクラスメイト達が教えを乞う事もあり、丁寧に教えている姿は女子生徒だけで無く、男子生徒にも慕われている様に見える。
無口で無愛想なヴォルフでさえ、ソフィア様と話す時は微かにだが笑顔を見せる様になっている。
試験間近の昼休みにディーンがソフィアと話しているアリッサに詰め寄って来た。
「で、アリッサ。数学とかいろんなもん教えてもらう代わりに俺、何を教えたら良いんだよ」
「クラスメイトなのでお気遣いなく」
「それじゃ俺の気が済まないんだよ」
「そのような事言われたらアリッサに頼りっぱなしの私はどうすれば?」
「ソフィア様はアリッサの親友なのですから、問題ないでしょう」
「ディーン、ソフィア様とアリッサが困ってるぞ」
読んでいた本から目を上げ後ろを向くヴォルフがジロリと、銀髪に隠れている漆黒の目でディーンを睨んだ。
精悍な顔のヴォルフが睨むと、けっこう怖い。
「ヴォルフ、お前はアリッサと肩並べるくらい優秀だから…」
「俺も、数学はアリッサに教えて貰ってる」
気が付けば席が近い私達は4人で行動する事が多く、軽口も言い合える様になっている。
遅筆、は熟考している、と前向きに考えよう。