自滅しました。自分から
ヒロインが自滅します。
ベイレーン逮捕が秒読み段階になった頃、アカデミーでも動きがあった。
夏休み前の試験も終わり、生徒達が夏休みの予定を話し始める様になった。
「もう直ぐ夏休みだけど、アリッサはどうするの?」
寮への帰る時、珍しく2人だけの時間が取れた。
生徒会室の鍵を掛けていると、ソフィア様が少しもじもじしながら聞いてくるので、さらっと予定を口にした。
「王太子妃の教育があるのでほぼ、王宮に缶詰めになります」
候補者だって言っているのに国王陛下達が嬉々としてお妃教育予定を組んできた所為で、また夏休みがほとんど潰れる事が決定だ。
「良かった。それなら今度の夏休みはアリッサと会えるのね」
そうか、ソフィア様も王子妃教育が始まるのか。
去年は別の事で王宮に缶詰めになっていて全く会えなかったからね。
「王宮でお会いする事も多い気がします」
「本当に。アリッサには感謝してもしたり無いわ」
ロデリック殿下に溺愛され、ソフィア様は輝くほど美しくなっていらっしゃる。
夏休み明けにはもっと洗練されたレディにお成りになるだろう。
校舎内に残っている生徒達がアリッサ達に挨拶をして楽しげに玄関へと向かって行く。
ふと、玄関の方を見るとそこにはどす黒くくまが張り付いているのにギラついた目をするレイチェルが居る。
艶が無くなってパサついたショッキングピンクの髪をそれでもツインテールにしてヒロイン像を残そうとしている姿は憐れだ。
アリッサはソフィアを背に庇い、レイチェルを見据えた。
前世の経験上、あの手の目をした者はだいたいよからぬ事を考えている。
廊下にはまだ生徒が残っているし、大それた事は出来ないだろうが、このところの追い詰められ方を考えれば、自棄になっていてもおかしくない。
彼女の教科書がソフィアに破られていた、と騒いだが切られた紙の切り口から使われたナイフが特定され、あっさり自作自演だとディーンに見破られたり、ソフィアが食事に毒を入れたと騒いでも、ライル先生が使われた毒は実験室から盗まれた物で、その毒に触った者はレイチェルのクラスの者だけで、2年生以上の生徒は存在も知らない物だ、と断定した。
他にも細かいものもいくつかあったが全て叩き潰され、彼女は全生徒から存在を無視されたものでは無く、害悪の塊とみなされている。
デュラン様達が「罠を張る」と言っていたが、全学年の生徒を巻き込んで、ここまで徹底した罠を張っているとは思いもしなかった。
自業自得なのだが、彼らの半端ない追い詰め方に背筋が寒くなっていた。
「あんたが悪いのに」
何が?と聞きたいよ。
レイチェルはギラついた目でソフィア様を睨み付けている。
「悪役令嬢のくせに……」
まだこの世界がゲームだと信じてるのか。
「あたしがヒロインなんだから、さっさと断罪されろよ」
此処まで来ると怒りも憐みも感じない。
ナイフを握り締め、ソフィア様に襲い掛かろうとするレイチェルを冷ややかな気持ちで見ていた。
「アリッサ!」
素手である私に、ソフィア様が悲鳴の様な声を上げる。
自分で自分に引導を渡したレイチェル。
此処はゲームじゃない。現実を直視するべきだ。
現実を直視しやり直せと思うが、許される範囲はすでに飛び越えている。
次はアリッサの活躍シーンを書きたいな。




