無駄な努力ってやつですね。
乙女ゲームの嫌がらせってこんな感じ?
次の日、アリッサ達が教室で他愛無い事を話していると、廊下からびたんっ、と何かが倒れる音がした。
「なんの音?ソフィア様、見てきますので失礼します」
アリッサが教室の外に出ると、上級生と話していたヴォルフが呆れた顔で足元を見ている。
ヴォルフの視線を辿ると、彼の足元から少し離れた場所にピンク頭の学生が見事に俯せで倒れているのが見えた。
どうやったらあんな五体投地みたいな転び方が出来るんだ?
ヴォルフがアリッサに気が付き、目で関わるな、と合図するのでアリッサは教室に戻ると代わってディーンが外に出て
「ヴォルフ、話、終わったか?」
何も見えていない感じでヴォルフに声を掛けた。
「あぁ。では失礼します」
話をしていた相手に頭を下げ、ヴォルフは教室に戻ってきた。
恐ろしい事に、廊下に居た生徒達は盛大に転んだレイチェルの事など欠片も気にしない。
助け起こして大丈夫か、の言葉すらかけていない。
「戻りました」
「何があったの?」
「生徒が1人盛大に転んでました」
「まぁ、助けてあげなくても大丈夫なの?」
「ええ、ピンク頭の学生ですから」
アリッサの言葉でソフィアも大体理解したのか、そう、とだけ言ってそれ以上は何も言わなかった。
レイチェルが盛大に転んだ日から少し経った頃、階段でソフィア達はレイチェルとすれ違った。
もの凄い目でソフィアを睨み、ドン、とぶつかったのに謝りもせず降りようとするレイチェルの所為でバランスを崩し、よろけたソフィアをアリッサが支えた。
「ソフィア様、大丈夫ですか?」
「少し足を捻ったかも」
そんな会話をしているとキャーと言う悲鳴が後ろからした。
目だけを向けると、見事に下まで転げ落ちたレイチェルの姿が見えた。
なるほど、ソフィア様に突き落とされた振りするつもりか。
イラッとしたが、その場に居た誰もが勝手に落ちた事を見ている為、遠巻きに冷たい目で見ているのが解る。
「ソフィア、どうした?」
悲鳴が聞こえたのだろう、上からロデリックが慌てて降りて来て、アリッサの代わりにソフィアを支えた。
「ロデリック殿下。ソフィア様が少し足を捻られたみたいです」
状況を説明する必要はないようだ、と判断してアリッサはソフィアをロデリックに託し、階下のレイチェルを警戒した。
「酷い。突き落とすなんて」
レイチェルが泣きながら訴えて来た。
こいつは本当に愚か者だ。
この場に居る全ての生徒達はレイチェルが勝手に落ちた事を見ているし、ソフィア様に自分からぶつかって謝っていない事も見ているのに、自分が被害者であると大袈裟に言っている。
アリッサが嘘を吐くな、と言おうとした時、デュランが、冷ややかな声でレイチェルの言葉を遮った。
「見苦しいな。自分からソフィア嬢にぶつかりながら、謝罪もしなかった上、今度は突き落とされた、と言うとは」
「デュラン」
「しかも、この国の王太子である私に対して敬称も使わず呼び捨てにするとは、思い上がりも甚だしい」
此処まで無礼だと不敬罪で牢屋に放り込まれてもおかしくない、と何故理解できないのだろう。
思わず頭痛を感じ、アリッサは眉間に指を当てていた。
「デュラン様。礼儀知らずは放って置いても大丈夫です。ロデリック殿下、お手数ですが、ソフィア様を保健室にお連れ下さい。足を痛めていらっしゃる様です」
「そうだな。ソフィア、じっとしてて」
そう言うとお姫様抱っこしてソフィア様を保健室に連れて行ってくれた。
ほっとした顔で後ろ姿を見送っていると
「アリッサも抱き上げようか?」
デュラン様がレイチェルを完全に無視してスタスタと階段を上がり、アリッサの耳元で囁いた。
「え、遠慮します」
「私の婚約者はつれないね」
いやいや、何処も怪我をしてないのに。
「さて、ロデリックには睨まれるかもしれないが私達も保健室に行くか」
「そうですね。もし、足の痛みがひどい様でしたらそのまま寮にお連れしますので」
「ロデリックなら喜んでソフィア嬢を寮まで抱き上げてくれるよ」
デュランがちらり、と周りの生徒達を見れば、その場にいた生徒達は何事も無かった様にアリッサ達の横を通り過ぎて行く。
完全にレイチェルは、彼らの意識の外に弾き出されている事が嫌でも解る。
嫌がらせはしちゃいけない事だけど、捏造も駄目でしょ。




