こんな可愛い悪役令嬢って居るの?
早く主要メンバーを出したいのに泣けてくる。
でも、可愛い悪役令嬢が書けたから楽しいです。
「如何なされました」
着ているドレスやアクセサリーを見れば高位の令嬢だという事はすぐにわかる。
初対面の者に対しては感情を表に出さないように教育されているだろうが、さっきのセリフは流石に無視出来ない。無謀だとは思うけど、声を掛けてみた。
「いえ、何でもありません」
涙を拭うと、硬い表情でアリッサを冷たく見据え、すぐに顔を逸らした。
輝く様な紫色の髪と同色の紫色の瞳はややつり目気味だが彼女の美貌はその吊り目さえ美しく見せる。
「そうですか、悪役令嬢、とか言うゲーム用語が聞こえたのでもしかしたら、と思いましたが失礼しました」
ゲーム用語、の言葉で気が付いてくれたら話が早いが、気にするな、と言うなら黙殺しよう。
彼女がどう出るかを見極める為、アリッサはゆっくりと頭を下げてみた。
「えっ?まさか、貴女も前世の記憶があるのですか?」
逸らしていた顔が瞬時にアリッサの方を向き、アリッサがぼやかした言葉を口にした。
理解が早い。
これならばどうにかなりそうだ、と姿勢を戻し、少し微笑んだ。
「はい。ですが、私はこの世界がゲーム内だとは思いませんけど、お困りの様でしたので、差し出た真似を」
「いいえ、でも貴女の様な綺麗なキャラは設定に無かった筈なのに」
「ですから、この世界がゲーム内だとは限らない、と申し上げております」
やたら設定を気にする彼女の名前をまず聞かなければ話し辛い。
「申し遅れました。私はゴードウィン伯爵の娘、アリッサと申します。差し支えなければ、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
間違いなく彼女は伯爵以上の貴族だ。身分の低い者から名乗るのが貴族の常識。
「私はレーベンブルク侯爵の長女、ソフィア」
硬い口調だが、名乗ることを拒否しない、と言う事は一応信頼はされた様で、ほっとする。
しかし侯爵家の御令嬢が前世の記憶を持っているとは少々戸惑ってしまう。
「突然の無礼、申し訳ありません、レーベンブルク侯爵令嬢様」
型通りの挨拶をすると、ソフィアは首を横に振りアリッサを真っ直ぐ見詰め愛らしい唇を開き
「私のことはソフィア、と呼んで。貴女のことも名前で呼びたいから」
大貴族のお嬢様らしく無い言葉にアリッサが困った顔をする。
「お気持ちは嬉しいのですが、高位の令嬢を流石に呼び捨ては」
「分かっています。でも」
「では、ソフィア様、とお呼びしても宜しいでしょうか?」
「ええ、喜んで」
妥協点を提案すると、ほっとした顔で頷くソフィアをアリッサはまずベンチへ招いた。
「多分、話すと長くなりそうなので、此方にお掛け下さい。」
ベンチにハンカチを広げ、さり気無く手を差し出すと途端にソフィアの顔が赤くなった。
「もの凄いハンサム」
「ソフィア様。私は女ですので」
「ハンサムって言葉はかっこいい女性にも使えるのよ。」
彼女も前世では同僚と同じく、ゲームやその手の小説を目をキラキラさせて楽しんでいたんだろうなぁ。
ちょっと唇を尖らせながら文句を言うソフィアはとても可愛らしい。だが、考え方はかなり同僚に近い物を感じた。
「何処からお話を伺えば良いのか判断出来ませんので、直面している問題点をお聞きして宜しいでしょうか?」
回りくどく聞いても時間が勿体ないし、話が脱線しかねない、と判断しアリッサは直球で質問をぶつけた。
「此処はゲームの世界..に良く似ててそのゲームの世界では、私は悪役令嬢でヒロインの事を虐めてヒーロー達に断罪されるの」
流石にアリッサが何度も此処はゲームでは無い、と主張しているから言い換えたが自分の事を悪役令嬢、と言い切った。
それは乙女ゲームの王道で鉄板のお約束なのだ、と説明するが、あいにくその手のゲームは知ってはいるがやった事も無いしゲーム内で通用するお約束も設定も知ったことでは無い。
「ソフィア様、それはあくまでもゲームの話であってソフィア様の人生はゲームでは無く、現実のものです」
「でも、そう言う設定だから」
「私は前世でその手のゲームはやった事が無いですが、設定とか言う一見強制力が有りそうですが意味がない言葉に振り回される必要はない、と思います」
「でも、此処が本当にゲームの世界だったら、シナリオの強制力がでたら私、断罪されてから投獄、最悪処刑エンドしかないの」
アリッサはソフィアの頑なさをどうするべきか悩んだ。現実をちゃんと見ていても此処はゲームの世界だ、と言うフィルターが掛かっていたら正しい判断が出来ないだろう。
「そんな事はない、と私が言ってもソフィア様は不安ですか?」
「不安よ。記憶を取り戻したのが最近だから何の手立てもなくアカデミーに入学してしまったし」
「では、私がソフィア様をお守りします」
アリッサの突然の申し出にソフィアは目を丸くする。
「前世では要人警護の仕事をしていましたので、ソフィア様がご自分の人生を守るために戦うならば全力でお守りします」
驚きで丸くなっていた紫色の瞳が潤み出す。
何度か何かをいいたげに唇を震わせてから
「戦うわ。私、理不尽な理由で断罪されるなんて納得出来ないもの」
はっきりと戦う事を決めた。
ソフィアの頑なだった考えが少し柔らかくなった。生きたい、と願わない者はすぐに自分の命を諦めて自分を雑に扱ってしまう。守る側の人間からすると厄介な警護対象者だ。
しかし、怯える程この世界が彼女が知っているゲームに酷似しているなら闇雲に否定するよりゲーム内容を聞いておいても損は無いだろう。
「ソフィア様、それ程酷似しているのでしたら、ゲームについて色々お聞きしても宜しいでしょうか?」
「勿論よ。それでしたら、夕食を私の部屋でいかが?幸い私の部屋は個室ですから、他の者に話を聞かれる心配はないから」
入学時に個室を用意されるなら成績上位者である事が判る。
実力主義のアカデミーでは、入学時の成績で寮の部屋を決める、と兄様が教えてくれた。
「では、お言葉に甘えて」
「アリッサの部屋は何処なの?」
少しアリッサより背が低いソフィアが見上げる様に顔を上げ、アリッサ個人の事を聞き始めた。
「私の部屋は3階の角部屋です」
「まぁ、同じフロアなのね。良かった、遠かったら困った時に伺えないもの」
ソフィアの部屋へ向かいながらお互いの部屋の位置を話せば、ほっとした顔で笑う。
夕食時にソフィアの部屋を訪れると、部屋はアリッサの部屋と似ているが調度品は数倍豪華で、夕食も余りお目に掛からないようなフルコースが用意されていた。
流石、侯爵家の御令嬢だ。お抱えのコックもメイドも一流だよ。
「メイドが教えてくれたのですが、アリッサは首席で合格したのね」
テーブルについたアリッサにソフィアは嬉しそうに微笑みながら声を掛けた。
隣の部屋の音などに邪魔されない角部屋は学年首席の生徒の為に用意されており、アカデミーは有能な学生に対して相応の配慮をするのだ。
「アカデミーの配慮には感謝してます」
「良かった、初めての友達が貴女の様な良い人で」
悲しげな微笑みが少し気になり、食事をしながらゲームの事を聞いた。
要約すると彼女、ソフィアは前世ではゲーム制作会社の関係者でこの世界に酷似しているゲームは生前、自分が同僚に誕生日プレゼントとして買った、あの乙女ゲーム『男爵令嬢の恋愛日記』らしく、内容は才色兼備なのにちょっと天然なヒロインがアカデミーに入学してから1年間で様々な攻略対象と親密度を上げ、いくつかのイベントをこなして最後にゴールインする、と言う物だと分かった。
そのヒロインの恋路を邪魔するのが悪役令嬢で、ソフィアはそれが自分だ、と言う。
話を聞き終えてアリッサは思わず頭に手を当てた。
恋路を邪魔されることに腹が立つのは分かるが、如何やったら王子達が侯爵家の御令嬢を断罪し投獄から処刑に出来るのか聞きたくなった。
この国の司法は何してんだよ、と。
「お話の全貌は大体理解しましたが、王家の強権が支配している国ならいざ知らず、法治国家であるこの国でたかが恋路を邪魔したくらいで何故、侯爵家の御令嬢である貴女が断罪投獄されるのか理解出来ません」
「それがゲームのお約束で、其処に疑問を持つ人は居ませんから」
「今、私はその矛盾に対して大いに疑問を持ちましたし、現実でそんな馬鹿げた言い分がまかり通る方がおかしいです」
「でも、ゲームのキャラと同じ生徒達も揃っていますし、私、やはり悪役令嬢として断罪されてしまうんじゃないかとても不安です」
不謹慎な言い方かも知れないが泣き顔が可愛い悪役令嬢って本当に居るの?
言葉の感じからその手の女って根性が破綻して、もっと嫌味を撒き散らす感じじゃないの?
ゲームの世界、と言う点に関してはありえない、とばっさり切り捨てても良さそうだが、流石にゲームと同じ名前の人物には注意が必要だろう。
「では、方法を変えましょう」
この際、ゲーム云々は現実的じゃないので脇に追いやって、別の方法を模索した方がより建設的だ。
「そもそも悪役、と言う言葉から考えますと、その人物は性格が破綻し権力を振りかざす悪意ある存在だ、と思いますがいかがですか?」
「その通りよ」
「ならば、その逆をすれば悪役として認定されないのでは?」
単純な事だよね。物語でも悪い事をするから悪役なんでそれをしなければそもそも悪役にはならない。
「ヒロインとか言う女が入学する迄、まだ1年あります。その間に、ソフィア様が人を陥れたり、嫌がらせをする様な人ではない、とアカデミーの生徒達に認識させれば良いのです」
「具体的に何をすれば皆さんにそう思って頂けるのかしら」
「今のままで問題はないですが、微笑みを絶やさず、困っているクラスメイトの力になる様心掛ければ人は優しさには敏感ですから」
ソフィアの身分に対しての偏見は今まで話してきた時間だけでもない、と即答出来るから前世の人格の、好きなものに対して目をキラキラさせて話す態度のまま、まずはクラスメイトとの交流を深めていく事が手っ取り早いだろう。
「それで良いの?困っている人の力になる事は、当たり前すぎて何の意味もない様な気がするの」
「確かに当たり前です。その当たり前が出来ないから悪役にされてしまうんですよ」
まだ戸惑っている様だがソフィアに一つ気が付いた事を話した。
「ソフィア様は前世を思い出すまではかなり我が儘な性格だったのではありませんか?」
「ええ、そうでした」
ソフィアが辛そうに視線を落とす。
「ですが、記憶を取り戻してから侯爵家の家令達にはどう接してきたのですか?」
「我が儘だった事を改めて、お礼を言う様にしました」
「それで彼等の態度や表情はどうなりました?」
「少しずつですが笑顔を見せてくれる様になって...あぁ、やっとアリッサが仰りたい事が理解出来ましたわ」
この部屋に入った時、家令やメイド達がソフィアに対して戸惑いながらも、心から尽くそうとしている事が見て取れたので、気付かせる為にあえて聞いてみたの、今のままで問題ない、と。
「ありがとうございます。では、直近でしていただく事は2つ。クラスメイト達との交流と一週間後の試験で必ず上位5番に入る事、ですね」
「上位5番?何かあったかしら?」
「成績上位5番迄に入った者は自動的に生徒会役員の補佐として、生徒会へ出入りが許されます」
兄様、役立つ情報、ありがとう。
首を傾げていたがソフィアもアリッサの言いたい事が理解出来たのか、口に手を当て目を見開いた。
遅筆って、自分の事なのに悲しくなる。