だって好きなんだもん。
書いてて段々王太子が可愛い子になっていく気がする。
ならば目の前の問題をきっちり片付けたいです。私だって彼らと幸せになりたいもの。
「よし。こうなったら俺達の未来の為に、ベイレーンの陰謀は粉微塵に叩き潰すぞ」
「当然です」
あっ、影の人達の仕事が増えたかも。
「ディーン、部下の方達への仕事の量は考慮して下さいね」
「チッ、分かってるよ」
絶対、増やす気だったんだ。
後、自分の気持ちがはっきりしたから、もう1人の当事者であるデュラン・フォルス王太子殿下にも偽りの無い気持ちを伝えようと手紙を書いた。
王太子殿下が自分に好意を持ってくれた事は、素直に嬉しい。でも、ディーン達への想いも知って欲しい。
そして、自分が王太子殿下の想いに戸惑ってもいる事も知って欲しかった。
王太子殿下がどう受け取るかは未知数だけど、偽りや打算で今回の話を受け入れたくない。
同じ手紙を父様にも送った。
男勝りの可愛げが少ない娘でも、ちゃんと愛してくれる人達が居ることを知って欲しかった。
今回の騒動はすぐにソフィア様達に知られ、ロデリック殿下は物凄く驚かれたけど、ソフィア様は喜んで下さった。
「正直、王太子殿下の件は驚きでしたけど、ディーン達との事は、ロデリック様と早く上手くいって欲しい、と話していたの」
「確かに兄上の突飛な発言には驚きだが、だいたい理解はできる。兄上も薄々ヴォルフ達の存在に気が付いていて、焦られたのだろう」
ディーンやヴォルフ達の気持ちに気が付いて居なかったのって、私だけなんですね。
手紙を送ってから2日後には、父様からの長い返事が届いた。
まずは祝福があり、男勝りの件りに対しての謝罪が随分紙面を占領していた。
これからの事では、アカデミーを卒業してから婚約などは考える事にし、まずはチラチラ見えているベイレーンの陰謀を潰す事に重点を置こう、という事になった。
同時期に出したのに、王太子殿下からの返事が来ない、と言うことは怒らせたか、気持ちが冷めたのだろう。
不敬罪に問われるかも、とは思うが嘘はつきたく無い。
「まだ、王太子殿下からの返事が来ないの?」
「はい。怒らせてしまったのか、気持ちが冷めたのかは解りませんが、あまり楽しい内容では無かったので、返事をしたく無いのかもしれません」
父様の返事が届いてから随分経っている。
不安では無いが、いい加減結論は出したい。
談話室と化している生徒会室で、ソフィア様と話をしていると、遠くからもの凄い足音がした。
「凄い足音。あれはディーンでもヴォルフでも無いですね」
「ライル先生でも無いみたい」
此処に来る人物は限られている。
何気なく廊下側の窓を見ていると物凄いスピードで王太子殿下が横切った。
「デュラン・フォルス殿下?」
早足で此方に来る、王宮に居るはずの王太子の姿に、アリッサ達は目を見張った。
「アリッサ!」
バンっ、と大きな音と共に焦った顔の王太子が部屋に飛び込んで来た。
「はい!」
驚きすぎて、アリッサが椅子から飛び上がるように立ち上がれば、泣きそうな顔でデュラン・フォルスがアリッサに抱き付いた。
「すまなかった、アリッサ。君を不安にさせたのは私の落ち度だ」
不安?なんの話です?
しかもぎゅっと抱き締められて、ちょっと苦しい。
「唐突過ぎた告白のやり方が悪かったのか、と悩み過ぎて返事を出せないでいたら、煮え切らない私の態度ではアリッサが不安になる、とサイラスに言われた」
唐突だった自覚はあるんだ。でも、不安ってなんの話です?
「アリッサ、私は本気で君を愛している。だが、私の周りには権力欲の塊のような令嬢しか居なかったから、初めは君もそうだと思っていた」
あぁ、最初の冷たい態度はそう言う事だったんですね。
「父様や皆さんにも言われたのですが、私はどうやら普通の令嬢達とは感覚が違うみたいで」
「私はアリッサの、権力を欲しない態度が嬉しかった。だが、あの時は優しくするとか、労う事が良く解らなかった」
本当に、この方は臣下の方々の働きを当然、と思っていたんだ。
「それなのに、礼儀正しい君が私になんの反応も示さない事に勝手に苛立ち、更に態度を硬化して、別れの時も、心無い言葉で追い出してしまった」
力を緩めたけど抱き締めたまま、エメラルドの瞳が真っ直ぐ、アリッサだけを見ている。
「デュラン・フォルス王太子殿下。私は」
「デュランと呼んで欲しい」
「流石に王太子殿下を呼び捨てには」
「アリッサが礼儀正しいのは良く解っているけど、デラローン侯爵やカナン伯爵、それにラクロン伯爵令息と差を付けられている様で、嫌なのだ」
デュランの悲しげな顔にアリッサは戸惑いながら呼び方を変えてみた。
「では、デュラン王太子殿下」
「デュラン、だ」
「呼び捨ては流石に無理です。デュラン様で許してください」
此処まで砕けた呼び方も、本当はして良いのか疑問なのに、王太子殿下は蕩けるような笑顔で頷いた。
「では、デュラン様。私は不安ではありません、戸惑っているのです。デュラン様が仰っているように、私の今迄の態度では、何処にも甘い感情などを持って頂ける要素がありません」
この際、思っている事は全部言っても大丈夫な気がしたから吐き出しておこう。
「そうか?媚びを売らず、色仕掛けもしない方が私は好きだが」
「はい?」
「私の周りには頼んでもいないのに、閨に入り込むような女ばかりだから、アリッサのように貞淑な方が逆に色香を感じる」
認識のズレが怖い。
「デュラン様の周りにいる貴族の令嬢って、そんな方達ばかりなのですか?」
「ああ」
ああって、真面目な顔で肯定しないでください。
アワアワしている私の目の端で、ソフィア様がそーっと逃げ出そうとしているのが見えた。
「ソフィア様、本当ですか?」
申し訳ありませんが、身の危険を感じるデュラン様と2人っきりになる訳にはいかないので、巻き込ませていただきます。
話を振られ、逃げ出せなかったソフィアが諦めたように、肩を落としてアリッサ達の方に歩み寄った。
おっかしいなぁ?強かで腹黒いキャラを目指していたのに。でも、書いてて楽しいからこんな感じでいいかも。




