平穏な学生生活は遠のいて行くらしい。
アリッサが平穏な学生生活を送れるのはいつになるか?
夏休みが終わって、アカデミーに戻るとディーンが渋い顔をして門で待っていた。
「お久しぶりです」
「おう」
正門で待っていた、と言うことは何か話があるのだろう。クーデター騒ぎに進展でもあったのかもしれない。
「渋い顔をして、どうしたのですか?」
「あの後、大公の所に潜り込んだ部下から報告があって、大公を唆している奴が解った」
ディーンの部下の報告では、大公を唆しているのは、ベイレーン男爵と言う。
「聞いた事無い名前ですが」
「それは俺も気になったから調べたら、地方の成り上がりらしい」
金で爵位を買う者もいる、とは聞いたことあるが中央で実績の無い者が、どうやったら王族である大公の側に行けるのか?
「そんな方が、どうやって大公殿下の側に?」
「金に物を言わせて、大公にすり寄ったらしい」
「その男爵って、お金持ちですか?」
「出所は解らないが、金は有りそうだ」
金があったとしても、人望も権力も無い大公を唆してクーデターを計画する意味が判らない。
「もう少し、その男爵の人となりが判らないと何故、あんな事を考えるのか、目的とかが掴めない気がします」
「裏で武器商人をしてて武器を売る為、とかは理由にならないか」
「可能性はありますが、現国王陛下の御世にクーデターが成功するなどと考えている時点で、商人としては才覚が無い、と言えます」
現国王陛下の御世は概ね安定し、内政には大きな問題はない。外交では、緊張状態の国がいくつかあるが、この国に戦争を仕掛ける程の軍備を備える国には監視の目が行き届いている。
現段階で、王国の軍事力から考えても、宣戦布告をする馬鹿はいない筈だ。
「そっか。ただ、そいつ、黒い噂が絶えないんだよ」
「黒い噂、ですか。密輸、横領、殺人辺りですか?」
「恐喝も付けて全部だ。ただ、確証がない」
面倒な男爵だ。黒い噂があるのに尻尾を掴ませない、とはかなり強かですね。
「今のところ、クーデターの件は計画が進んでない、と見て影の方々にはその男爵の、人となりや裏の事情を調べて貰いたいですね」
情報が少な過ぎて判断が難しい。
「やっぱ、アリッサと話をすると問題がスッキリする」
ディーンがにやっと笑う。
私と話さなくても、部下の方にはそれ以上の指示は既に出しているくせに。
貴方の情報収集能力の高さは前理事長の処分の時、ついでに王宮内の事務方に蔓延っていた不正行為を断罪する証拠をかき集めた事で証明されている事くらい知ってます。
「ご謙遜を」
「謙遜なんかしてないぜ。だってそうだろ。アリッサに話をすれば、こっちは無駄な情報を集めなくて済む」
あーはいはい。
情報分析は得意ですからね。
ディーンと話していると、平穏な学生生活が更に遠のいていく気がする。
「アリッサ、お久しぶり」
教室で、ソフィア様が満面の笑顔で手を振っている。
美少女の笑顔って和むなぁ。
「お久しぶりです」
2ヶ月ぶりに見るソフィア様は、一段と美しくなっている。
理由は既に知ってます。ロデリック殿下と恋仲になられたからでしょ。
「2ヶ月会わない間に更にお美しくなられて、嬉しい事がありました様ですね」
「アリッサはなんでも知っているのね」
「王宮で、ロデリック殿下が、惚気ながら教えて下さいましたから」
「ロデリック様が。どうしましょう、嬉しすぎます」
赤くなった頬に手を当て、喜びを噛み締めている姿が可愛らしい。
殿下の呼び方まで変わっているからソフィア様の心配されている断罪からの、はもう心配無いだろう。
「良かったですね。これでソフィア様が心配されていた事は無いようで」
笑顔で頷くとソフィア様が小声で
「それがね、アリッサ。この世界はゲームに酷似してるでしょ。ちょっと不安なENDを思い出したの」
と、不安げに私を見た。
ソフィア様は、この世界をゲームだと言わなくなったが、酷似している事を考えて時々、不安要素になりそうな事を口にするようになった。
「不安ですか」
「あるルートのENDは第二王子が王太子を刺し殺す、て言うのがあるの」
「物騒な話ですね」
アリッサが頷くとソフィアは、簡単に内容の説明を始めた。
ソフィアの説明では、第二王子は嫉妬と独占欲からヒロインを監禁しようとするが、ヒロインは王太子に助けを求め、ヒロインに恋をしていた王太子が第二王子を断罪しようとした時、第二王子が王太子を刺し殺した、とある。
話の内容は現実的では無いが、王太子と第二王子を失ったらこの国は王位継承する者が大公ただ1人になる。
実務に問題があり、人望が皆無の大公を王にしない為クーデターも考えられるが、それでは腹黒い男爵の益にはならない。
国の弱体化を狙っている?
情報が足らな過ぎて、全てが仮定ばかりの想像の域から出ない。
「王太子殿下とロデリック殿下は、仲が悪かったですか?」
「ゲームではそう言う設定だけど、此処では違うもの」
その通りです。
王太子は冷淡だけど、兄弟仲は良かった。
そして、性格には少々難あり、だけどハイスペックで女っ気が無い王太子殿下が、国より恋を選ぶとは思えない。
分析するには情報がやはり少ない。
「一旦保留にしましょう。無いとは言い切れませんが、あり得るとは思えませんから」
「そうね。それより、王宮ではどんな仕事をしていたの?」
話題が物騒な方から現実のことに変わり、アリッサは走り回っていた日々を話し始めた。
一難去ってまた一難の学生生活って、結構辛いかも。




