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頑張れ、見習いメイド

アリッサが王宮で働きます。

「話は聞いた」


ドレスを着込んで、淑女らしく挨拶をしたアリッサに前置き無しで、デュラン・フォルス王太子が口を開く。

プラチナブロンドの髪にエメラルドの瞳。

ロデリックよりも精悍な美丈夫、と言った感じだが、何処か冷たい美貌だ。

身長はアリッサよりも20cmも高く、ヴォルフと話している時みたいに首が痛くなりそうだ。


「大公の人柄か。気にした事も無いが」


仮にも国王陛下の従兄弟で、数少ない王族なのだからもう少し関心を持ってもおかしくないけど。

冷淡、と言う言葉がぴったりな王太子殿下は取り付く島もない。


「夏休みを利用し、彼女を行儀見習いの名目で王宮勤めをさせながら調べさせたいのです」

「行儀見習いか。何処につけるつもりだ」

「私か、宰相のバリエール公爵を考えています」


同席したロデリックがアリッサの見習い先を口にすると


「私の専属で仕事も手伝え」


あり得ない提案に、アリッサは気が遠くなりそうだった。

身元はしっかりしているが新参者の、しかも社交界にデビューもしていない子供が就ける仕事じゃ無い。


「何故、とお伺いしてもよろしいでしょうか」


デュラン・フォルスの言葉に驚いているロデリックよりも先に冷静さを取り戻したアリッサが質問した。


「私の仕事を手伝う者が王宮内を歩き回っても、誰も咎めないからだ」


大公の部屋の近くで様子を伺っていても、王太子殿下の仕事を手伝っていて迷子になったと言えば、新参者の特権で咎める者も気にする者も居ない。

理に叶っているが、王太子殿下の仕事の手伝いって、凄く大変そうなんですが。


「アリッサならば、兄上の期待に応えるだけの力量はあるから問題はないですね」


ロデリック殿下、そこで太鼓判押さないでください。


「無能なら即、首にするだけだ」


首にされる前に調べるけど、夏休みの宿題、終わるかしら。


「解りました。では、夏休みに入りましたらお世話になります」


夏休みの宿題を諦め、2ヶ月死ぬ気で頑張れば、何かしらの情報は手に入るだろう。

反論を諦めたアリッサは、王太子に深々と頭を下げた。


「行儀見習いで2ヶ月も王宮で、しかも王太子殿下の専属なんて、会いに行けないわね」


残念がるソフィアに曖昧に笑い、明日からの仕事にアリッサの気持ちはかなり凹んでいた。

父親のマリウスは事情を知っているから心配をしていたが、見て見ないふりは出来ない、と言い、アランは何かあったらすぐに騎士団に来い、と何度も念を押した。


「今日から2ヶ月、行儀見習いとしてお世話になります。アリッサ・ゴードウィンです」


王宮の中でもトップクラスの執事やメイド達に挨拶をしながら、アリッサは王太子の事を腹の中で詰っていた。

こんなに凄い人たちの中に放り込むなんて、冷血漢かよ。

洗練された、これぞプロ、と言いたい彼らを納得させるのは、生半可な努力じゃ足りない。

だが、首にされたら大公の人柄を調べる術が無くなる。

仕事を覚える為に与えられた一週間を、死ぬ気で頑張るつもりだ。

当然だが、王太子の身の回りの仕事は多岐にわたっており、覚える事が山の様にある。

でも、これを覚えなければ、王宮内を歩き回ることが出来ない。

腹を括ったアリッサはどんな些細な事もメモを取り、わからない事は質問して仕事の流れを身体に叩き込んでいった。

王太子の朝の支度から始まり、部屋の掃除や洗濯、お茶や食事の給仕からお客様への対応。夜会がある時は深夜まで仕事が山積みだ。

だが、メイドの仕事は子供の頃、マーサの後をついて回っていたお陰で粗方頭に入っていたのが幸いし、まごつく事も少なかった。


「伯爵家のお嬢様なのに、3日でメイドの仕事をここまで理解しているなんて」


メイド長のリリアさんが、感心した様にアリッサを見る。


「ありがとうございます。家で、メイド達の仕事を見ていたので」

「まぁ、如何して?」

「私達家族が滞り無く生活できるのは、我が家の執事やメイド達のお陰ですから」


前世を思い出してから、どうしても貴族の生活、という物に違和感が有ったし、基本的に働く事が

好きなのもある。


「まだ荒い所もあるけど、メイドの仕事は問題ないから、明日から王太子殿下の仕事の補佐を覚えていきましょう」


リリアさんからメイドの仕事は合格点が貰えたので、明日からは本格的に王宮内を歩き回っても大丈夫ように、王太子殿下の仕事を手伝う事になった。


「ゴードウィン嬢の主な仕事は、書類の整理と王太子殿下が決裁された書類を各部署に届ける事です」


煌びやかな王太子殿下の執務室に入ると、何人もの補佐官が忙しそうに仕事をしている。

補佐官の1人が、明日からの仕事を簡単に教えてくれた。


「見てはいけない物などありますか?」

「君が見ても解らないとは思うけど、重要書類は出さない様にする」

「調度いい。この書類を内務省の副長官に渡してこい」

「畏まりました」


突然、書類にサインをしていた王太子がアリッサに、一通の封筒を差し出した。

まだ、仕事に就いて無いですが、とは思ったが既に腹は括っている。何があっても驚く事はない。

戸惑いもせず、アリッサは王太子から封筒を受け取り、退出の挨拶をして目的地へ向かった。

内務省の執務室は王太子の執務室からそれ程遠くはないし、場所も既に頭に入っている。

トレーに封筒を乗せ、布で隠し文鎮で押さえながら届けに行った。

内務省のサシェ副長官は、40代の仕事の出来そうな方で、メイド服を着た年若い娘が届けにきた事に驚いていたが、封筒を受け取り中を確認し頷いた。


「ご苦労様。返事は後で直接王太子殿下に伝えよう、と」

「畏まりました。では、失礼します」

「君、名前は?」

「アリッサ・ゴードウィンです」

「ゴードウィン?マリウス近衛騎士団長の親族か?」

「娘です。サシェ副長官様」


背筋を伸ばし、副長官の目を見て話すアリッサは既に仕事に慣れた事務方の人間に見える。


「足止めして悪かったね」

「いえ、それでは失礼します」


戸惑いも怯えも見せず、淡々とした態度で内務省の執務室を出るアリッサをサシェ副長官はじっ、と見詰めた。


「戻りました」

「返事は?」

「サシェ副長官様が後ほど直接お伝えする、との事です」


戻ってきたアリッサに目を向けず、アリッサの返事を聞くと次の仕事を与えようとした。


「王太子殿下、ゴードウィン嬢が正式に補佐に入るのは明日からなので」


仕事を教えてくれた補佐官が、さり気なく助け舟を出してくれる。


「不都合があるか?」

「メイドとしての仕事が残っておりますが、そちらを終えれば、問題はありません」


メイドとして任された仕事は、まだ終わっていないものもある。だが、慣れる為には今日から仕事をしても問題はない。


「戻ってくるのを待つのも面倒だから、今日はこれで下がれ」

「承知しました。では、お先に失礼します」


こっちを見ない王太子殿下に腹も立たない。

王宮内を歩き回る権利をもらう為だ、と割り切っておこう。

メイドと聞くと、萌えのイメージだけど、本当は大変な仕事なんですよねー。

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