そして一件落着
漸くアカデミーでの事件が終わりました。
「来たぞ」
ディーンが手で合図をする。
皆、目だけを2階の理事長室に向けると、廊下を悠然と歩くライル先生と、司法省の役人らしき大勢の人たちが見える。
此処からだと距離があるから声は聞こえないが、間違いなく司法省の方々は理事長を逮捕しに来ているだろう。
理事長室の窓から見える様子は前世で見た、刑事ドラマで犯人に逮捕状を見せているシーンだ。
「理事長が逮捕されたら、何方がアカデミーの理事長に?」
逮捕劇を見ていたソフィア様の目が、ロデリック殿下に向けられた。
理事長はアカデミーの最高責任者でも有るから、すぐに後任は選考されて来るだろう。
「ライル先生が就任される」
ディーンがまた、にやりと笑う。
「適任だな」
優雅に食事をしながらロデリックが頷けば、誰も疑問の声を上げない。
もう決まっているの!どれだけこの短期間に根回ししたんだろう。
驚きながらアリッサが理事長室の方に顔を向けると、此方を見ているライルと目が合った。
「あっ、ライル先生と目が合ってしまった」
「野次馬がバレたか」
ディーンは悪戯っ子のような笑みを浮かべたが、こうなる事は分かっていたようだ。
「食事に誘って詳しい話でも聞くか」
ロデリックが執事にもう1人分の食事を用意するように指示すると、項垂れる理事長を連れて司法省の役人が部屋を出るところが見えた。
「全員ではないですね」
「余罪があるだろうから、これから徹底的に調べるだろう。屋敷の方にも、既に役人は向かっている」
「あのちょび髭も終わりだな」
入学式に見た理事長で記憶しているのは、ディーンが言ったちょび髭だけ。
印象が薄すぎて、どんな人だったかまるで思い出せない。
廊下を司法省の役人に囲まれて歩く理事長は、随分と小柄な男だった。
理事長の姿が見えなくなってから少しして、ライルが生徒会室に入って来た。
「来てると思ったが、ランチをしているとは思わなかった」
「食堂に行ってたら、見逃してましたからね」
「ライル先生、ランチは?」
「まだです」
「では、席と食事の用意を」
ディーンがにっ、と笑いロデリックが済ました顔でライルを食事に誘った。
「やれやれ、出来の良過ぎる生徒は怖いですね」
呆れた顔をしながらも、ライルは席に着くと今あった事を話し始めた。
理事長はかなりの貴族から金品を受け取り、子弟たちを不正に入学させたり、成績を水増ししていたようだ。
「賄賂を渡していた貴族の処分だけでなく、成績を改ざんしていた教師もアカデミーから追放が決まった」
教育機関の最高峰であるアカデミーからの追放は、教師にとっては貴族であれ、平民であれ実質実社会からの抹殺だ。
「身から出た錆だな」
「バレなきゃいい、なんて考えてたんだろうな」
ヴォルフの手厳しい言葉に、ディーンが追い討ちをかける。
「これでアカデミーもまともな組織になるでしょう」
「そうですか?ライル先生なら、より洗練された組織にすると思いますが」
「当然です。アカデミーは優秀な生徒を育てる場所ですから」
「いつから就任されるのです?」
「明日の全体集会の時、報告するつもりです」
ロデリック殿下とライル先生の会話にはため息しか出ない。
騒ぎを大きくする前に動く事は大切だけど、行動力、ありすぎじゃない?
確かに今回の不正を正せば、少なからずアカデミーの組織にも影響がある事は解っていたが、ここまで大掛かりなことになるとは思わなかった。
だけど、裏を返せば、それだけこの組織が私物化されていたのだろう。
「でも、これで学生生活が穏やかになるのですから、良かったのでしょう」
もう、問題はなさそうだから、後は地道にソフィア様の地盤固めに気を配れば大丈夫ね。
ほっとした顔でロデリックと話すソフィアの事を考えながらアリッサが安堵の笑みを浮かべ、食後のお茶を口にした。
不正でなく生徒がいなくなる事を祈ってます。




