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平凡な日常が当たり前

やっと登場人物まで辿り着いたけど、まだ1人なのが寂しい。

「アリッサ、今日は何をするつもりだい?」

母様の容姿をすっかり引き継いだ、淡い金髪に薄緑の瞳をしたアラン兄様が何か言いたげに声をかけて来た。

「特にしなければならない事はないので」

食事の手を止め、アラン兄様の顔を見ると少しもじもじしながら今日は一緒に剣の訓練をしないか?と聞いて来た。

そうか、アラン兄様はもうすぐアカデミーに入学されるから少しでも家族と一緒に居たいのだろう。

剣の腕も、頭も良い兄様は家族に対しての愛情表現が少し苦手の様だ。


「はい。兄様がアカデミーに入学されてしまったら一緒にいる時間が減ってしまいますし、まだ兄様から合格点、頂いてませんから」

頷けばほっとした顔でアラン兄様が頷いた。

両親は子供達の会話をにこやかに聞いている。貴族とは思えない程家族仲が良い。


朝食後、着替える為に部屋に戻ると剣の訓練の為に動き易い服が用意されていた。

気がきくマーサにはいつも感謝する。

着替えながら前世と今の状況の擦り合わせをしてみた。


今の私の名前はアリッサ・ゴードウィン伯爵令嬢。

前世では矢野友希という名前で、享年3×才。

だが、今は10才である。

両親は多くの騎士や剣士を排出しているゴードウィン伯爵夫妻で自分と同じ瑠璃色の髪にサファイアの瞳を持つ父様はこの国、アステリア王国の近衛騎士団の団長を務めている。

前世の世界で読んでいた本には度々、騎士は脳筋だ、とあったが父様は宰相様が側近に欲しい、と嘆くほどの切れ者でアラン兄様も父様に負けないくらい優秀な嫡男。

しかもこのアステリア王国は身分制度が有るのに実務に関しては徹底した実力主義。

有能であれば平民でも国の重職に就けるが、無能ならば貴族でも冷遇されるのだ。


前世の世界での私の職業は民間の警備会社で要人警護担当、所謂ボディガードだった。

この国は騎士や剣士が国王や国の要人警護にあたるのだから私がその道を目指しても全く問題ない。


ただ、前世と大きく違うのは、この国だけで無くこの世界では女性が極端に少ない。

王都や発展している場所なら7対3位だが、農村や過疎地になると更に女性の数が減る。

その所為でこの世界では女性が複数の夫を持つ一妻多夫が合法化されている。

だが、母様は父様とだけ婚姻関係を結んでいる。

記憶の中には少し前に母様に何故父様以外の方と結婚しなかったのか?と聞いた事があった。

「そうね。伯爵と同等に愛せそうな男性が居なかったからかしら」

と、母親は少し頬を染め答えてくれた。

合法化されている一妻多夫制度だが条件は厳しい。夫となった複数の男性を妻は平等に愛さなければならない。この条件を満たせない女は冷遇した夫に対して離婚時に自分の財産の半分を渡し、新たな夫を迎えられなくなる。

逆に夫も愛情を独り占めする為や様々な理由で他の夫達や妻に対して暴力を振るった事が公になると無一文で離婚させられ、二度と妻を持てなくなるのだ。


「結構、シビアだよねー」

着替え終わり、自分の剣を手に取り訓練場へ向かいながらこの世界の規則に対してポツリと呟く。

私はまだ10才だが名門と言われるゴードウィン伯爵令嬢として既に剣の訓練を始め、優秀な父様や兄様を見習い勉強もしっかりしている。

それが当然だと思うから疑問に思うことは無いが、有難いことに脳みその出来は前世よりはるかに良い。

「お嬢様はこのまま成長されますと、主席でアカデミーに入学し、卒業後は騎士団に即入団出来るだけの才能があります。」

家庭教師が興奮して父様にそう言っていたが、現実を見ようよ、私以上の才能の持ち主はいくらでも居るはずだ。

まっ、努力は怠らないけど世の中には上には上がいる。

前世の記憶を取り戻してもチートな能力があるわけでも無く、今の自分以上にはなりそうもないから冷静に現状を見詰めた。

前世の記憶を取り戻して得した事と言えば、護身術がすでに身に付いている、くらいだろ。


記憶を取り戻してもうすぐ5年になる。

私の日常はさして大きな変化があるわけでも無く、剣の訓練と勉強そしてマナーのレッスンなどで実に淡々と過ぎた。

この5年の間での出来事は、兄様がアカデミーを首席で卒業され、そのまま騎士団に入団された事が一番大きな出来事で、父様も母様も凄く喜んでいた。


もうすぐ私も15才になる。

記憶を取り戻した時兄様が入学された王立アカデミーに私も合格し、無事入学が決まった。

自慢の兄様が学ばれた学舎に私も通うのだ、と思うと嬉しい。

あの時も今も自慢の兄様だけど、ちょっと心配がある。

顔良し、家柄良し、高収入の兄様も20才を超えたのだからそろそろ何処かの令嬢と婚約の話が出てもおかしく無いのに、なんで休日は私の剣の訓練にいそいそ騎士団の寮から家に帰って来るのか?

家に届く山の様な、年頃の御令嬢達からのお茶会や夜会のお誘いに出掛けろよ、とお腹の中でぼやいてみたが恋愛については私が口出しする事じゃ無いので招待状の山は見なかったことにした。


王立アカデミーは国のエリート養成所の為、入学試験はかなり難しい。

だが、此処を卒業出来れば成人してからの将来は安泰だと言っても過言じゃない。文官、武官と道は違うが優秀な成績で卒業したら即、王宮で働ける可能性がある。

全寮制なので卒業までの3年間は家に帰れるのは夏休み位だが、その後の人生を決める大切な時間であるから、学生達は切磋琢磨しながら学生生活に勤しむ、と兄様から聞いている。


「此処がアカデミーかぁ」

入学式の前日、寮へ荷物を運びながら白亜の学舎を繁々と見詰めた。

「お嬢様、荷物の整理が終わるまで校舎など探索なさっては如何ですか?」

寮に付いて来てくれたマーサの提案に頷き、やたら広い敷地の探索に出掛けた。

建物の中には入れないが憩いの場所になっている林や庭や校庭などの配置を頭に入れながら歩いてると、人気の無い中庭から泣き声が微かに聞こえる。

「ホームシック?」

まだ入学してもいないのにそれは早いだろ、とは思うが無視するには悲しげな嗚咽にアリッサの足は中庭へ向かった。

中庭のベンチの前で同年代の少女がハラハラと涙を零し項垂れている。

綺麗な紫色の髪を背中に流し、俯く姿は可憐、の言葉がぴったりだ。

「どうしよう、このままゲームが始まったら断罪されて処刑されちゃう。なんで私、悪役令嬢に転生しちゃったの」

少女の嘆く言葉にアリッサは思わず額に手を当てた。

前世の同僚が目をキラキラさせて読んでいた小説にそんな言葉がよく出て来ていた気がする。

彼女が自分の様に前世の記憶を持っているだけでなく、今、とんでもないことを言った様な気がする。

乙女ゲームの世界に転生?

現実をちゃんと見ましょう。今、自分達は前世と同じく人としてこの世界で生きている。データやシナリオなんて何処にもないでしょうに。

頭の中でぼやいてみたが、怯える様に嘆く少女に頭、大丈夫?とは言え無い。

こんなペースで更新出来たらいいのですが、遅筆の悲しさ。頑張ります。

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