高みの見物は豪華なランチと共に?
やっと一つ目の事件が終わりそうです。
「なぁ、今日のランチ、生徒会室で取らないか?」
おはよう、と挨拶する前にディーンからの提案にアリッサ達は首を傾げる。
昼食は、食堂や中庭で取ることは有っても生徒会室で取ったことはない。
「急にどうした?」
ヴォルフが訝しげにディーンを見ると、ディーンはにやり、と悪巧みでもしている様な顔で耳打ちする。
ヴォルフが口元に拳を当て、考え込む姿にアリッサ達は更に首を傾げる。
「もう動いたのか」
「ああ。きっと見ものだぜ」
ディーン達の言葉でアリッサは、なんとなく理解した。
「成程。殿下達にはお知らせしましたか?」
「それは、ソフィア様にお願いしようかと思っている」
全く状況が理解出来ていないソフィアが困った顔をするので、アリッサは簡潔に説明した。
「例の件が動き出し、結果が出た様です」
「えっ、もう。随分と早いのね」
今回の件は、アリッサ達から聞いてまだ、半月も経っていないのに。
「やる気を出した司法省は怖い、という事ですね」
アリッサも迅速すぎる司法省の行動に驚いていた。
「でも、それなら早く殿下にお知らせしないと。ランチのお約束を他の方としてしまったら大変」
慌ててロデリックの教室に向かうソフィアの後ろ姿を見送りながら
「ロデリック殿下なら、約束があっても来る、と言うだろうな」
「まぁな、ソフィア様の誘いを断る程の約束がある、とは思えないしな」
と、ヴォルフとディーンは暢気に話していた。
いやいや、約束は大事だろう。
でも、ロデリック殿下が最近、ソフィア様との時間を取りたがる事は、言われなくても気がついている。
「それよりアリッサ。君は何故ソフィア様をロデリック殿下と親しくさせようとしているんだ?」
珍しくヴォルフが疑問を口にする。
本当に無表情なのに、人の機微に聡いなぁ。
でも、そろそろもう一段、事を進めてもいい頃合いかもしれない。
「実は入学当時、ソフィア様が、ご自分が見た夢が実現するのでは、と怯えていらしたので」
ソフィア様から聞いた、ゲームの話を予知夢に置き換えて、ある程度話してみた。
此処はゲーム内の世界では無いが、酷似している所は考慮すべきだと思う。
「殿下が自分の恋路を邪魔したから投獄、処刑はあり得ないが、会ったこともない俺達のことを言い当てたなら、ある程度は考慮すべきだな」
ディーンが真面目な顔で頷く。
「それなので、ソフィア様の人となりを知っていただく為、ロデリック殿下の補佐に付いていただいたの」
知らない存在に対しては、冷徹な判断を下すことも考えられるけど、知り合いで、しかも好印象を持っていれば判断が優しくなるかもしれない。
それにソフィア様を知っていれば、ヒロインとか言う女の言葉を鵜呑みにはしないだろう。
まぁ、あそこ迄ソフィア様に対して、ロデリック殿下が親しみを持つとは思ってなかったけどね。
「来年か」
ヴォルフの漆黒の瞳が冷たく光る。
「ヴォルフ、ソフィア様の予知夢が現実にならない様、手は打ってますが実際は、どうなるかは未知数です」
「警戒はして置いても損は無い」
「確かにな」
なんか裏工作をしているみたいだけど、ソフィア様を守る、とあの日誓ったのだから準備は万全にしておきたい。
廊下で話をしていると、ソフィア様がロデリック殿下と戻ってきた。
おいおい、予鈴は鳴ったよ。
「ロデリック殿下」
「話は聞いた。では、今日の昼食は生徒会室で取るぞ。執事にランチの方は用意させるから時間厳守で」
「ありがとうございます。それよりロデリック殿下、授業に遅れますけど」
「安心しろ、遅れる事は既に伝えてある。ソフィアを1人にしては危ないだろ」
駄目だろう、王子。
突っ込みたいが、堂々とソフィア様との時間が大切だ、と言い切る態度につい笑ってしまう。
ロデリックは本鈴が鳴って、誰も居なくなった廊下を悠然と戻って行く。
王子を遅刻させて良かったのか?
頭を抱えたくなったが、本人が納得しているなら問題はないはずだ。
午前の授業が思っていたよりも早く終わり、ランスを迎えに行ったディーン以外の3人は、時間前に生徒会室に向かった。
生徒会室には豪華な昼食が用意されており、アリッサ達は残りのメンバーを待っていた。
なのに、ディーンは1人で戻ってきた。
「ランス先輩は?」
「迎えに行ったら内務省と財務省の役人らしき人に捕まってた」
「もうそんな時期か」
「何か有るのですか?」
ロデリックが納得した顔で席に着くと、隣に座ったソフィアが不思議そうに首を傾げる。
「優秀な人材には各省庁が内々に接触し、自省に勧誘する」
早くないですか?まだ夏休み前ですよ。
疑問が顔に出ていたのか、ロデリック殿下が笑う。
「試験を受ける者は多いが、優秀な人材は少ないからな。早いうちに自分の所に勧誘しておきたいのだろう」
「試験はこれからなのに。ランス先輩って優秀なのですね」
「そうだな」
ソフィア様がランス先輩を褒めるとロデリック殿下の機嫌が悪くなった。
判りやすい。でも、フォローはしませんよ、ソフィア様。
「でも、もしロデリック殿下が文官の試験を受ける、と仰ったら、もっと早くに勧誘の方々が大挙していらっしゃるでしょうね」
媚びた響きも、諂う色も無いソフィアの言葉にロデリックは照れたような笑みを浮かべた。
「ソフィア、余り持ち上げないでくれ。照れくさい」
目の前で2人の世界が展開されているが、ディーンとヴォルフは食事をしながら窓の外の様子を伺っていた。
悪い事をすればちゃんと処罰されるべきです。




