大人だって頑張ってます
志の高い大人もやる時はやります。
ヴォルフが仲間や上級生達と穏やかな時間を過ごす様になって一週間くらい経ったある日、ライルが司法省から呼び出しを受けた。
「どうやら進展があったらしい。残りの便箋をそろそろ渡したいのだが」
「思っていたよりも早かったですね」
ディーンが手元にある便箋を渡すと、アリッサは解読文と共に自分が預かっていた便箋を渡した。
「バロース侯爵が本気を出した、と言う事だ」
バロース侯爵。司法省の副長官の名前で、ライル先生の古い知り合いでもある。
このまま上手く進めば、理事長の強欲に泣く生徒が居なくなる、それが皆、嬉しかった。
「わざわざすまなかった」
「いや、そろそろ渡しても握り潰されない、と判断したからな」
ライルが司法省の副長官執務室ではなく、大部屋で便箋を受け取ろうとするバロース侯爵の態度ににやり、と笑った。
「成程、此方の調査と一致している」
「では、お預かりします」
便箋の中身を確認し、頷くバロース侯爵が便箋を職員に渡した。
この前来た時と違い、司法省は活気が溢れ、職員たちの目が生き生きしている。
「何をした?」
「別に、大したことではない」
大したことではない、と言いながらバロース侯爵もにやり、と笑う。
「話は変わるが、デラローン侯爵。内示は受けたか?」
「勿論だ」
「では、明後日の件は頼むよ」
「ああ、問題はない」
「明日は此方も大掃除があるから、明後日の件は任せる」
バロース侯爵の言葉に職員たちの目が見開かれ、口元には笑みも浮かんでいた。
「私はそこまでは頼んでないけどね」
「ついでだよ。それに大掃除はこの部署だけではない」
随分と大掛かりな掃除になっている。
「この短期間で良く、そこまで準備が出来たな」
「影の新しい主人は前任者同様、かなりの切れ者で、こうなる事を見越して、部下達に準備をさせていたようだ」
「噂には聞いていたが、凄まじい情報収集能力だ」
「手をこまねいていたが、これで随分不穏分子を処分できる」
アリッサが言っていた通りだ。
大きいもの、重いものが動くには時間がかかるが、動き出せば個人で行うよりも成果が出る。
まさかそれが王宮の事務方に蔓延っていた、汚職や不正行為の粛清にまで発展するとは思わなかったが。
「風通しが良くなりそうだ」
「王家の弱体化にも派生しそうな案件もあったからな」
アカデミーの不正行為の処分をきっかけに、自分達の悪事が白日の元に晒されるとは思っていない者たちにとっては、明日の処分は青天の霹靂に等しいだろう。
「で、此処の長官殿はどうした?」
「さあな。今頃は、青い顔して自宅で震えているのでは?」
長官は不正には関与していなかったが、汚職などを見て見ないふりをして来た。法と秩序を司る司法省の長官としては職務怠慢は明白だ。
まぁ、無事では済まないだろう。
「明後日が楽しみだ」
ライルの楽しげな笑みに
「私は明日が楽しみだよ」
バロース侯爵は満足げな顔を見せる。
なんか、ライル先生が策士になって来ている気がする。




