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実は私、強いんです。

アリッサは本当に強いんだよ。

「手加減は無用です」

「その綺麗な顔や身体に傷付けたら責任、取らなきゃなんないだろ」

「そちらも無用です」


名前なんか知りたくも無い3年生の、あわよくばと言う邪な思いをばっさり切り捨て、アリッサは闘技場の真ん中に立った。


「5分間の間で相手の剣を飛ばすか、急所への攻撃を決めた方が勝ち、と言う事で」

「1分でいい」


ヴォルフが呆れた顔で試合の内容を提案したアリッサを睨む。


「それでは……」

「1分でいい」


ヴォルフは再度1分で、と言う。

3年生の男は完全にアリッサの実力を下に見て、ニヤニヤ笑うし、1年生以外の生徒達も生意気な事を言う、アリッサがボロボロに負ける事を期待しているようだ。


「では、1分の間に相手の剣を飛ばすか、急所への攻撃を決めた方が勝ち、という事だ」


教官が諦めたように宣言し、2人の試合が決まった。 


「掛かってきなよ、受け止めてあげるぜ」


剣を上げる騎士の礼を取った後、3年生が剣を構えた。


「では」


アリッサが腰を落とし、タンっと軽い足音を立て、一歩を踏み出した。

周りの生徒たちはアリッサが弾き飛ばされ、よろめく事を想像し、3年生の言葉に笑おうとした途端、剣がぶつかり合う音ではなく、ドサッと言う音がして、男が持っていた模造剣がクルクルと宙を舞い、本人は剣を構えた姿のまま地面に座り込み、首元にはアリッサが持つ、細身の模造剣が押し当てられていた。

カラン、と模造剣の転がる、軽い音が少し離れた場所でした。

あまりにも早い攻撃で、全く目で追えなかった生徒たちが呆然と闘技場の2人を見る。


「相手が私だから尻もちで済んでますが、ヴォルフなら闘技場の端まで飛ばしてますよ。そして実戦でしたら貴方は死んでます」

「へっ?」

「力が弱い私の剣を受け止めるだけで座り込む貴方なら、私よりも遥かに強いヴォルフの剣は受け止められない」


何を言っているんだ、と言う顔でアリッサを見上げる男がしだいに震え始めた。

瞬きさえ出来ないほどの速さで距離を詰め、握っていた剣を弾き飛ばすだけでなく、重い衝撃で尻もちをつかせ、返す剣で首に攻撃をされたのだ。

たった一瞬で、自分は完膚なきまでに叩きのめされた。

その事実にようやく気づいて腰が抜け、震えが止まらない。


「貴方の負けです」

「ひぃっ」


アリッサが更に模造剣を男の首に押し付けると、情け無い悲鳴が零れた。


「だから実力に差がある、と言った」 


教官の冷ややかな声に、他の生徒達は押し黙ってしまった。アリッサが此処まで強いとは誰も思っていなかったのだろう。


「さて、マリウス近衛騎士団長殿を侮辱したお前は今後、この授業を受ける資格はない、と言う事だ」

「俺、俺はそんな事……」

「マリウス近衛騎士団長殿が認めた者を侮辱する、と言う事は認めた方も侮辱する、と言うことくらい騎士としてでなく、人として理解しておくべきだ」


教官からの手厳しい言葉に、腰を抜かした男は青ざめ、授業は受けさせてくれ、と泣きついたが後悔先に立たず、と言う事だ。


「近衛騎士団長殿を侮辱したお前が、卒業後、武官の試験を受けさせて貰える筈がない」

「それと、相手の実力を見極められない者が受かるほど、試験は甘く無い」


教官達の言いたい事は、他の生徒達にも判る程、厳しい現実を教えている。

騎士団だけでなく国軍の規律は厳しく、実力のない者は勝ち上がれない。

アカデミーはあくまでも教育機関であって、此処でそれなりだから実社会でも通用する、なんて事はない。


「ゴードウィン嬢はヴォルフと試合をした事があるので……」


誰かが言い訳を口にしたが、模造剣をしまいながらアリッサが教官達の方に戻ってきた。


「彼と試合をした事はありません。ですが、試合をしなくても、剣を持った時の構えや気配で、相手の強さは解ります」


実際、アリッサはヴォルフと試合をした事がないし、模擬試合も見た事はない。それでも彼の強さは、彼の立ち居振る舞いですぐに分かった。


「お前がでしゃばるから」


背後から呆然としていた男が突然、アリッサに掴みかかろうとした。

対処が遅れたアリッサが腰の剣を抜くより早く、ヴォルフが2人の間に入り、持っていた剣で男の腹を殴って、闘技場の端まで吹き飛ばした。


「ありがとうございます。油断してました」

「随分、冷静さを欠いていたな」


ヴォルフの冷静な口調にアリッサは頭を下げる。


「貴方と父様を侮辱されたので」

「俺のことは気にしなくても」

「騎士としてだけでなく、人として尊敬できる方を悪く言われるのは、気に入りません」


毅然とした態度のアリッサが、ヴォルフを尊敬している事は誰の目にも明らかだ。


「照れ臭い」


アリッサの真っ直ぐな言葉に、無表情のヴォルフが少し頬を染め、横を向いてしまう。

当然だが、その日の授業は今まで以上に厳しかった。

上級生達が、ヴォルフやアリッサを馬鹿にしていることに対して教官達はやはり、良く思っていなかったのだろう。

しごきとも取れる訓練に、少々厳しすぎるのでは、とアリッサが目で訴えてみたが教官達はあっさり流した。


「残念。アリッサの試合、見たかった」

「瞬殺された奴はどうなった?」


クラスに戻ると、ソフィアやディーンが剣の授業の様子を知りたがったが、ヘロヘロになっているのに興奮しているクラスメイトと違い、2人とも多くは語らなかった。

ただ、この日から武官を目指す生徒たちが無駄口を叩く事も無くなり、ヴォルフやアリッサに稽古を頼む事が多くなった。


自惚れてる奴は、一回痛い目に会うべきなんです。

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