頑張れ、ディーン
今回はディーンの思いを書いてみました。
「デラローン先生。先生が思っている程周りは無関心では無い、と言う事です。信頼の置ける方に相談する事は決して悪い事でも、怠慢でもありません」
そう、使えるものは個人でも組織でも有効に使うことが大切なの。
「使えるものは使う、か」
「その代わり、信頼する誰かが助けを求めて来た時は、全力で助けるのが大切なんです」
使いっぱなしは駄目なんだよね、人間関係って。
「ゴードウィン嬢は年齢に見合わない考え方をするな」
「先生、喧嘩なら」
「売ってないから買わなくていい」
「分かりました」
「なんで先生にはそんなに優しいんだよ。俺の時と態度、違いすぎるだろ」
ディーンが文句を言うが、アリッサは涼しい顔でお茶を口に運んだ。
文句を言いながら俺は、楽しげに笑っているアリッサを見た。
入学初日から話した彼女は頭の回転が速い上、気さくで好感が持てた。
時々、厳しい事を平気で口にするが、相手の事を考えているから、納得すれば反論する気も起きなかった。
昨日の出来事は、ずっと自分の中で納得出来ずに燻っていた、焦りや苛立ちに答えが与えられた気がした。
ずっと、部下達は俺を無能で役立たずだ、と思っていると決め付けていた事が、別の角度から見れば、なんの意味もない独りよがりの錯覚だ、と。
未熟なのは自覚している。
それは部下達も分かっていて、俺の成長を信じて待っててくれている。
そう思えるようになった途端、やるべき事が見えて来た。
昨日、俺はアリッサと別れてすぐ、もう一度ハリスに会った。
不正の証拠を渡してくれた事に礼を言い、デラローン先生から司法省に働きかけている事を知らせるとハリスは嬉しそうに笑った。
「ご主人様とは面識が有りませんでしたが、信じていました。きっと気が付いてくれる、と」
「見つけたのも、解読したのもアリッサだけどな」
「それでもご主人様なら、先代の伯爵様の意思を継いで対処して下さると皆、願っていました」
ああ、本当に俺の独りよがりだった。
面識のあるなしに関わらず、部下達はちゃんと俺を見ていてくれたんだ。
「ハリス、司法省が動き出したら理事長から離れ、俺の側に戻れ。俺自身は学生であるから行動が制限されるが、手は緩めるつもりはない」
「勿論です。我らのご主人様は、ディミトリア様、ただお一人です」
ハリスの真っ直ぐな信頼に応えたい。
俺は頷いてからハリスの顔を見た時、ふっ、とあいつの顔が脳裏を過った。
「後、覚悟だけはしておいてくれ。俺の側には人使いが荒い、とんでもない奴が居るから、こき使われるかもしれん」
「一番こき使われるのはご主人様では?」
誰の事を言っているのか、分かるんだろう。堪え切れない笑いがハリスの口元に浮かんでいる。
「あり得るから言わないでくれ」
でも、あいつの側は居心地が良い。
あのサファイアの瞳が自分だけを映している時間は誰にも譲りたく無い。
この感情が何処に向かうかまだ分からないが、きっと何年経っても今日の出来事を忘れない。
夕陽の中、優しい目で微笑み、俺を見詰める彼女の手が小さくて温かかった事を。
誰だって最初からエキスパートじゃないはず。




