人はいつでも変われるものです。
ちょっとずつ成長していく所が書きたかったので。
自分も我が儘で、忠告や諌める言葉に耳を傾けて来なかった為、使用人達に嫌われて孤独だった。
でも、これではいけない、と態度を改めるとあれ程自分の事を嫌っていた使用人達も時間は掛かったが心を開き、態度が柔らかくなった、と。
ソフィアの言葉がロデリックの胸に、じんわりと沁み込んで行く。
「ソフィア嬢」
「ほんの少しの勇気を出せば、自分を支えてくれる人達の事も見えてきます」
涙目で微笑むソフィアは、本当に愛らしい。
白かったロデリックの頬が、徐々に赤くなるのを見たアリッサとディーンは思わず
「美少女って偉大だ」
と、呟いてた。
それを今、ここで言うのかよ、と言いたげなヴォルフの漆黒の目が怖い。
「でも、殿下のカリスマ性は凄い、と思うんだけど」
マイル先輩のお人好し発言に、とうとう皆んな、笑い出してしまった。
「緊張しすぎて喉がカラカラ。お茶を用意しますね」
涙ぐんでいたソフィアが微笑みながらお茶の用意を始めるとアリッサよりも早く、ロデリックがソフィアの手伝いに手を上げた。
「やった事ないが教えてくれるか?」
「喜んで」
本当に美少女の笑顔って偉大だよ。
あれ程緊張感で胃が痛くなりそうだった空間とは思えない程、和やかなお茶の時間。
ロデリック殿下はマイル先輩にきちんと謝罪し、マイル先輩はロデリックには、これからも生徒会代表として生徒達の前に出て欲しい、と頼んでいた。
「僕が報告したりするより、殿下が報告した方が決算とか通りやすいんだ」
生徒会運営の事を考えて、結構強かな面を垣間見せる。
「流石。だてに3年間在籍してませんね」
「これでも文官目指しているからね。この位は出来ないと」
名より実を取る。
優秀な文官になりそうだ。
「アリッサ、君、本当に同じ年?」
ディーンが疑り深い目で見ている。
中身と精神年齢はギリアラサーだけど、実年齢は15歳よ。
「はい。誕生日はディーンより早いけどね」
「絶対後10歳は上乗せしても……」
「喧嘩売るなら買いますよ」
「遠慮します」
「遠慮は無用ですよ。友達ですから」
「カナン伯爵は命知らずだな」
「そうよ。女性に年齢の事言うなんて」
ディーンに詰め寄るアリッサを横目で見ながら、ソフィアと、手伝いをしていたロデリックがボソッと呟く。
「俺、喧嘩売ってませんから。アリッサが物凄く腕が立つことくらい知ってますよ」
情け無い声を上げ、両手を忙しく振るディーンの仕草に笑いが弾けた。
「楽しそうだな。笑い声が外まで聞こえているぞ」
デラローン先生がゆったりと入って来た。
ただ、態度と裏腹に目は焦りと無力感が微かに見え、アリッサはお茶を差し出しながらそっと耳打ちした。
「組織は動き出せば、個人で動くよりも成果は得られるものです。感触は?」
「悪くなかった」
「上々です」
司法省の役人達はこの国でもエリート。
あの便箋を見て何もしない木偶の集団じゃないはずだ。
近いうちにディーンの所に仕事が回るだろう。
「重いものが動くには、それなりに時間がかかるものです」
アリッサの言葉にロデリックが反応した。
「アリッサ嬢。何の話だ」
まだ詳細は話せないが、ロデリックも無関係ではない。
「殿下。まだ詳細は話せませんが、記憶の隅に留めて頂けると助かります」
生徒会のメンバーならある程度話しても問題ない、と考えたアリッサは昨日の出来事を掻い摘んで話した。
何かを考えて俯いていたロデリックがデラローンに目を向ける。
「デラローン先生、司法省の誰に?」
「副長官に話をしました」
「彼なら大丈夫か。それでも動かないなら私の名を出して調査を進めさせろ」
「殿下の」
「放っては置けないだろ。多くの者達の未来が歪められる」
こういう事をさらっと言える殿下なのに、なんであんなに傲慢だったのかね?
「兄上ならもっと手際良く、司法省も動かざるをえない状況に持っていっただろうがな」
苦い物を噛んだような表情が、ロデリックの置かれている立場を垣間見せる。
「ですが、殿下。アリッサ達が証拠を掴んだのは昨日の夕方ですからけっして遅い、とは思えません」
美しい立ち姿でソフィアが毅然とロデリックに意見を述べる。
傲慢に見えたロデリック殿下の補佐をソフィア様に頼んだのは、彼女の能力を、と言うより、彼を敵に回さないよう面識を持たせる為だった。
ソフィア様の人となりを知ってもらい、出来るなら好印象を与えておきたかった。
本当にそれだけだった。
「ソフィア嬢にそう言って貰えると、私もそう思えるよ」
それなのに、はにかんだ笑みを浮かべ、頷くロデリック殿下のソフィア様への印象は、此方が考えていた以上の物なのかもしれない。
頑張れ殿下!頑張れディーン!てな感じかな?




