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MATTYOMAN!!

きんッ! にくッ!

「HAHAHAHA!! 分厚い大胸筋ッ! はち切れんばかりの大腿筋ッ! 錯覚を疑うほどの僧帽筋ッ! グッモーニンアズキッ!」


 そう言って目を向けた先にはゴミを見るような冷たい娘の視線ッ!


「うるへー、さっさと金稼げクソ親父」


「HAHAHAHA!! アズキぃ、父さんこう見えても意外と人気なんだよ? こどもとかに......」


「ならパトロールくらいしてこい、肉だるま」


 最近娘が冷たい......思春期なの? 反抗期なの?


「この身一つでパトロールはなかなかに重労働だぞ」


「......そうか、私は飯が食えるなら何でもいいけどな、飯が食えるなら」


 娘の視線が痛い、そりゃ朝っぱらから青のピッチピチのスーツきた筋肉と喋りたくない気持ちもわかるけどさ......


 というか父さん寝起きだからまだ朝ごはん食べてないんだよね。ま、いいけどね!


「じゃあ父さん行ってくるけど、なんかいる物ある?」


「買い物に行く母親か、いいよ昼飯はバイト先でまかない出るし」


 やっぱりうちの娘かわいくない? クールにツッコんでくれるよ? ホントは自炊もできるよ?


「じゃ行ってくる!」


「いってらー」


 魔法が当たり前のこの世界で、俺が生きていくのはそこそこツラかったりもする。


「あー! まっちょまんだー!」


「おうガキンチョ! 朝からお散歩か?」


「ううん、魔法のレッスン!」


「そうか! 頑張れよ!」


 とてとてと小さな男の子が歩いていく、俺は『MATTYOMAN』としてしがないヒーロー、もとい何でも屋として活動している。


 中学生にもなれば魔法で空も飛べる時代にほとんど魔力のない俺は、就職など満足に出来るわけもなく、こうして自営なんてやってるわけだ。


「あら、まっちょさん。今日もパトロール?」


「ええ! 何かあってからでは間に合わないこともありますから!」


「頑張ってくださいね、今度差し入れでも持っていきますから」


「それはありがたい!」


 こうしてフレンドリーに接してくれる人が多いのは嬉しいことだ。誰かに求められる限り、俺は頑張れる。


「おお! マッチョマンじゃないか!」


「ん? その声は勇者か?」


「そうそう! 相変わらず元気だな!」


 二十年ほど前、若くして魔王を討伐して全世界の勇者となったコイツはお互いにとって数少ない若い時からの友人だ。


「喫茶店のほうはどうよ?」


「順調だぜ、常連さんも増えてきてな」


「ほーう、そりゃいい、今度寄らせてもらおうかな」


 最近は勇者から喫茶のマスターへとクラスチェンジした勇者は町外れまで素材やら木材やらを取りに行くらしい。


「どっかから買わねぇのか?」


「んー、それもありだが自分で採るのはタダだしな」


 一般市民感のある金銭感覚が憎めない、だからいい仲間にも巡り会えたんだろうしな。


「お互い頑張ろうぜマッチョマン! 困ったら二人分の晩飯くらい奢ってやるよ」


「ありがとよ!」


 そうして勇者は街の外に向けて歩いて行った。


 王都にもそこそこ近く、他国との街道沿いに位置するこの街はモノや人の出入りが激しいためある程度はトラブルが起こる。


 それの仲裁なんかをして日銭を稼ぐって訳だ。


「正直、トラブルと巡り会うかも、そこで駄賃が貰えるかも運だけどな......」


「マッチョマン! いいところに!」


 なーんて独り言を言ってると今日の依頼一件目か?


「どうした? 駄菓子屋のおやっさん!」


「魔獣の子供が出たんじゃ、殺すのも無傷で追い払うのもワシらにゃ難しい」


「いつものな! 任せろ!」


 魔獣の子供なんかは人を襲ったりはしないが、物を壊したりはそこそこする。

 かと言って殺すのも......というジレンマで大活躍なのが俺だ。


「HAHAHAHA! 安心しろ、ノーペインで森まで帰してやるぜッ!」


 全力ダッシュで三十秒、イヌを凶暴化させたみてぇな四足獣とご対面だ。


「グルるるッ!」


「よーしよし、怖くないぞー」


「ガブッ!」


 腕に噛み付いてきやがった! しかし!!


「きんッ! にくッ! 痛く、、なぁぁい!!」


 噛み付かれたまま、腕を高く上げて魔獣を持ち上げるとすかさずお姫様抱っこ。


「おやっさん! このまま森まで連れてくわ!」


「今日も助かったが、駄賃は?!」


「あとで貰いに行くわー!」


 以外に大人しくなる魔獣、こう見ると愛着が湧いてきたりもする。


「お前も魔法使えるんだな......傷口が凍ってきたぜ」


「くぅーん......」


 申し訳なさそうに魔獣は傷口を舐めてくれている。俺はこういう湿っぽいのはニガテ。


「舐めるな舐めるな! って余計に凍ってんじゃねぇか!」


「くぅーん............」


「いいってことよ! お前も混乱してたんだろ?」


 ぐしぐし撫でてやると嬉しそうに目を細める、ペットに出来そうな勢いだが、うちじゃ飼ってやれない。


「街のハズレまできたが......ここまで来れば真っ直ぐ帰れるか?」


「わぉーん!」


 ケツを軽く叩いてやると、短く遠吠えをして森の方へ走り去っていった。しかし、凍った腕をどうしたもんかな。


「よし......パンプッ! アップッ!!!」


 凍った右腕に力を込めてポーズッッ! バキィンという高い音とともに氷塊が砕け散る。


「HAHAHAHA! 魔法が使えんでも! 娘と生き抜いてやるぞッ!」


 魔獣の遠吠えに負けじと、決意を叫ぶ。


 いくら街のハズレとはいえ、流石に誰かに聞かれていたか? だとしたら恥ずかしいんだけど。


 なんてことを思いながら駄菓子屋のおやっさんのとこに行く途中、広場の方で人だかりができていた。


「誰かーッ! 勇者様を呼んできてーっ!」


「どうした!? 一体なにが!?」


「ま、魔王の残党が......助けて!」


 それだけ聞くと人だかりの方へ突っ走る! 奥には漆黒の鎧を着込んだ首無し騎士が大きな剣を携えて立っている。


「HAHAHAHA!! そこまでだ悪党ッ!」


「おい、筋肉!! 自殺ならよそでやってくれ!!」


「自殺? そんなことはしないさ! 誰かが困っているから飛び出す、ヒーロー以前に人としてッ!」


「そうは言っても! お前は戦闘経験なんてないだろ!」


 守衛さんと思われる人に真っ白な歯を見せてサムズアップ!!


 特に意味は無しッ!!


「なんだキサマはァ?」


「頼れる小市民、MATTYOMANだッ!」


「まっちょまん......? コイツは傑作だ! ほとんど魔力のナイ家畜が調子に乗ルナヨ!」


 俺からすれば、傑作なのはそっちだが......


「なんの目的でここにきた、今更になって魔王の敵討ちか?」


「ソンナ殊勝な心がけじゃネェさ、目的のナイ俺は殺せるダケ殺して、死ヌ。シュミだ!」


「そうか、それは許容できないな」


 笑顔と喜びは大事だが......それで他人が傷ついたり悲しんだりするのはよくないことだ!


「キサマこそ、でしゃばってナニになる? 残念ダガ俺の装甲は勇者の魔法スラ弾く、ゴミみたいなキサマなどコッパミジンよ!」


「『助けて』、その一言だけで動く動機には充分だッ!」


「アー、気持ちワルッ! トットト死ねや」


 言うなり大剣を振り上げ、真っ二つにせんとばかりに大上段から振り下ろす。


「動体ッ! 視力ッ!」


 ならば、禍々しい大剣が頭を割るより前に剣を真横からぶん殴る!


「いったく......ねぇ!!!」


 左足の横スレスレに叩きつけられた大剣、こちらは殴った勢いのまま持ち手に蹴りを放つッ!


 ゴンッ!


 石畳に突き刺さった剣は簡単には抜けず、全力蹴りが手の甲に突き刺さる!


「キサマ......殴り殺シテやるッ!」


 手を振って数歩引き下がるが、距離はとらせないッ!


「マッスルッ! ハッスルッ!」


 一心不乱に敵をなぐるぅ......


「コシャクなッ!」


「そこだッッッ!!!!」


 渾身の正拳突きを鳩尾に放つッ!


「残念ダッタナ!」


「なにッ!! あぶぅッ!」


 鳩尾に突き刺さる直前に拳が受け止められ、もう片方の拳で顔面にフックをくらう。


 よろめいて数歩引き下がるが、形勢逆転と言わんばかりに騎士の拳ラッシュが飛んでくる。


「ぐッ、ぐぅぅ......」


「ハッ、どうした? このまま殴り殺シテやるぜ!」


「ろぉぉぉ! キィーック!!」


 殴り合いから一転して不意を着いたローキック、当然くらった方は痛い!


「小癪ナ......」


「俺が言うのもなんだが殺し合いならルールはないッ!」


「本当にナンだな......」


 お互いに数歩離れたところでファイティングポーズをとる。今度は無闇に詰めようとせずにじっくりと。




 しかし、もう結構限界近いんだけど......正直休憩なう。


「が、がんばってまっちょまん!!」


 少年の声が聞こえた、どこかから応援してくれているようだ。ならばこんな奴に負ける訳にはいかん!


「そ、そうだー! お前の本職はなんなんだー! 散歩代行とかゴミ拾いじゃないだろ!」


 な、なんともやる気にかける声掛けだが......それでも充分ありがたい!


「行くぞ怪物......」


 はぁ、せめてあと一分くらい休憩したかった......


「「アあぁぁあアアッ!」」


 相対する二人の咆哮がぶつかり合う。


「アイム......」


「死ネエェェェッ!」


「ハングリーッッッ!!!」


 お互いの拳が肩を捉える!!




 渾身の拳に再び両者の距離が空く。


「ぐぅ、ぐぅぅ......」


 今の流れ的にどっちかが、いや悪役が倒れるパターンでは? というか咆哮でも分かったようにとても腹が減っている。


「ぐ、ぐぐぅぅぅ......」


 しかも、ハッスルした辺りから腹の虫まで泣いている。こんな闘いの最中でも正直にぐーぐー言いやがって、朝ごはん食べ忘れてたからか。


 ジリジリと首無し騎士が距離を詰めてきた、さっきの攻防で限界きてる、もう無理なんだけど......


「クソ親父ぃ!」


「その声は......」


 取り囲む群衆の一角から愛娘の声がッ!!


「これでとっとと勝てやー!」


 娘の声の方向から縦長の影が飛んでくる。


「そ、それは!!」


 スパンッ............べちゃあ。


「ふんッ」


「お、おれの、ほお、ホット、ドッグ......」


「ナンの物資かと思えばナンでもナイただの食料か、ツマラヌものを」


 飛んでくるホットドッグに気を取られた一瞬の隙に剣を持ち直した首無し騎士が空中で真っ二つにしやがった......


「ぷっつーん」


「ナンだ?」


「HAHAHAHA!! お前は俺の逆鱗に触れたッ!!! ここでくたばれ首無し騎士ッ!!!!」


 突き出した拳に一本の指......そう、NAKAYUBI!!


「ホゥ、死にタイようダナッ!!」


 首無し騎士が剣も投げ捨て、怒りに身を任せて一直線に突撃してくる。


 生まれつき魔力が極小と言われた俺だ、戦い方は分かっている! 拳を握り中指の第二関節だけに魔力を込める、というかそのくらいしか込められない。


「死ネェェェええッ!!!!!」


 覚醒した脳は拳の軌道を正確に捉え、最小限の動きで躱す!


 胴体がガラ空きだぜ騎士さんよォ! 俺の怒りを思い知れッ!!


「グッッッ!! バイ!!!!」


 大地が割れんばかりの踏み込みと共に、右腕を鳩尾に叩き込む!!


 メキメキっという音とともに拳が鎧を叩き割る!!


「この身一つで駆け回り、笑顔と駄賃で生きていく、その名も......MATTYOMAN!!」


「ヤハリ、ダサい......」


 それだけ言い放つと首無し騎士は倒れ込んだのだった。つまり俺の勝ちだ!


「ううおおぉぉッ!!」


「行動はかっこいいぜマッチョマンー!!!」

「あぁ、ネーミングはともかく!!」

「男らしいッ!!」「ありがとよー!!」


 雄叫びに周りからも歓声が上がる、中身にちょっと文句はあるがこれで一安心だ。


「最後に、いいか?」


「ナン......だ?」


 よかった、まだ最後に言葉を交わすだけの気力はあったか。


「お前、どこからしゃべってんだ?」


「ふっ......イウだけ、ヤボ、って......モンよ」


 ガクッ......


 そうして完全に動かなくなった首無し騎士、本当ならホットドッグの恨みをぶつける所だったが、仕方ないやつだ。せめて墓にはホットドッグを刺しといてやる。


「アズキ、ホットドッグ済まなかった、食えなかった」


「店長の奢りだってさ、一つだけだけど」


 ホットドッグの出店でアズキに声をかけるとホットドッグが返ってきた。


「アズキ、ありがとうな、今回の立役者はお前だ」


「平和になったのはいいけど、巻き込むなクソ親父」


 し、辛辣......


「いいじゃんお父さんを全面的に応援してくれても......」


 軽い文句だけ行ってパトロールの続きだな。


「あ、あのさ!」


 おっと、このパターンはあれか? 照れながらかっこいいとか褒めてくれるパターンか???




「前から思ってたんだけどさ、なんだよ『MATTYOMAN』って、ローマ字はダサいよ」


「だ、ダサ......」


 魔獣に噛まれても、魔王軍の残党と殴りあっても負けない不屈の体も、娘の一言にはあえなくノックダウンされた。


「もう心折れた......父さんはこのままここで朽ち果てる」


「寝るなら帰って風呂入って、飯食えよ」


「うん、滲み出る優しさが染みるね」


 今度こそパトロールの再開だな!


 高笑いの青スーツ、頼れる筋肉マッチョマンッ!


「また、いい台詞を思いついてしまった!!」

アズキ「いっつもこんなことばっか考えてんのか」

MA「いつもでは......」


今回も読んでいただきありがとうございました! その他の作品も楽しんでいただけるとありがたいです!


MA「また会おう諸君ッ!!」

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