第十九話 土の使い手
夕夜はフェンリルとトールを鞘から抜く。それを確認したコールが腰を低く落とし槍を構える。
夕夜はフェンリルを右手に構えトールを左手で逆手で構える。それを見たコールは正気を疑う。
本来なら片手でこのような持ち方をしたら簡単に剣が吹き飛ぶだろう。しかし夕夜にはこの構えが出来る自信があった。
(今の俺の握力なら片手だけでも普通の奴らの両手もちより力が有るはずだ。ならこの構えも出来るはず)
コールが怪訝な表情をしているのも気にせず夕夜はあり得ない速さで接近する。それを見たコールは驚くが驚く時間さえ無いに等しい。
何かを詠唱してコールは槍を地面に突き刺す。それを気にせず夕夜は突っ込むが背中に嫌な汗が流れるのを認識して咄嗟に後ろに飛ぶ。すると目の前で急に地面が陥没するのが見えた。それを見ていて驚いたのはコールもだった。
(恐らく何をしようとしたのか分からなかったはず。と言う事はあの速度で移動していて勘で避けたのか?)
今度は夕夜に接近される前にコールから仕掛ける。
それに反応して夕夜が攻撃を仕掛けようとするが足が何かに躓いた。倒れる中地面を見ると先ほど足が有った所の前の地面が二十センチほど盛り上がっている。
(何時やったんだこんな事!)
夕夜はそれにきずかなかった事に心の中で毒づく。しかし夕夜もこのまま倒れる訳にはいかない。左手に逆手で持っていた剣を突き刺しそれを軸に回転して切りかかる。
それを見たコールも流石に予想してなかったのか急いで土の壁を作る。
本来ならこの壁で防げただろう。だが相手とその使用している剣に土の壁など意味をなさない。夕夜は土の壁を確認してすぐに剣に炎を纏わせる。其処から回転の勢い其のままに剣を突き刺す。壁に触れた瞬間剣に纏っている炎が土の中の水分の焼き尽くす。水分が無くなった壁が簡単に砕け散りその先に居るコールに向かい剣を振るう。
しかし当たる瞬間にコールの体は崩れ落ちる。それを見てはめられたことに舌打ちをして即座に下がる夕夜。しかしそれを防ぐように分厚い土の壁が出来る。これを先ほどと同じ方法では、距離が足らないと判断した夕夜は左手の剣を地面に差し右手のフェンリルを両手で握り、炎を纏わせたまま全力で投げ捨てる。
あり得ない速度で壁に接触した剣は轟音と共に壁を爆砕する。それを確認する前に夕夜はトールを握りしめ駆け抜ける。
そして音と飛んで行く剣を唖然と見ているコールに切りかかる。
「ッハ!!」
コールはそれを防ごうとするが簡単に槍を切断される。そして目の前に剣を突き刺され。
「俺の勝ちだなコール」
自慢げに勝ちを自慢する夕夜を見ながら少し笑って、
「あぁ君の勝ちだよ夕夜君。君は強いね」
自分の負けを宣言する。