刀神の力
バタバタして投稿遅れました。
翌日朝食後にコアルームにむかうとエンは110階層をうろついていた。
予想では90階層前後にいると思ったが、積極的に戦ってない分進みが早かったようだ。
時折、敵モンスが見えるが、エンの移動スピードが速いのと、いたと思った次の瞬間には光りに帰るので反射神経を試すゲームをしているようだ。
目まぐるしく景色が変わるのでジッと見ていると気分が悪くなる。
隠者の洞穴はレベルから判断すると300~650階層くらいだろう。
普通に考えたら500階層以上は確実だと思う。
エンがこのスピードで階層を下っても3日はかかるので後2日放置する事にした。
3日目の朝食後にコアルームを訪れるとエンは550階層を爆進中だった。
周りを敵に囲まれながらモンスを切り倒して行く様は時代劇の殺陣を見ているような気分だが、心なしかエンの動きが鈍い気がする。
俺でも目で追えるのがその証拠だ。
その理由はエンが切り飛ばしたモンスの腕が落ちる音で分かった。
ただの肉の塊が、ドゴンという音を立てて地面に落ちたのだ。
明らかにただの肉が重くなっている。
考えられるのは重力操作か・・・。
エンの動きが鈍るほどの超重力の中で戦えるモンスも凄いが、明らかにモンスを犠牲にする防衛方法だ。
そして、この場合はモンスで注意を引き、重力の影響を受ける罠を設置するのがセオリーだろう。
思た通り前方から巨大な鉄球が発射された。発射された重力に引かれすぐに地面を転がり出し、味方のモンスを引き肉に変えながらエンに迫る。
だが、エンの鎧、避来矢が淡い光を放ち鉄球を粉々にする。
一応あの鉄球は初めは宙を飛んでたので、飛び道具とみなされたようだ。
思わぬところで性能を発揮した鎧に称賛を送る俺を後にエンは先を進む。
今度は無人の大部屋に入り、中央まで進むと天井が落下してきた。
巨大な質量が超重力を味方に襲い掛かる。
エンの両腕が霞むと、ちょうど真上が砂の様に爆散し、エンがその中から飛び出る。
天井裏とも言うべきところを疾走し、扉を切り刻み外へ出ると、通路の先に下層への階段が見える。
もはや遮る物のいないそれを走り階段を降ると、そこは馬鹿デカく豪華な扉があるだけの部屋だった。
ボス部屋の扉だ。
これがラスボスかどうかは分からないが、今までよりは強い敵がいるはずだ。
嫁達にも見せようとエンに声をかけて止め、急いで嫁達を呼びよせる。
嫁の他に元ダンマス組と子供組もついて来た。
ダークエルフ達は赤ちゃんの世話をしているため家に残っている。
「よし、行け!コアは見つけ次第破壊しろよ!」
無言で頷くエンがボス部屋の扉を切り刻む。
今度は見えない。
この階は超重力になっていないらしい。
エンが部屋に入ると部屋の中央にエンと同じようなゴーレムがいる。
エンより細く背が高い。
そして無骨な槍を持っている。
それが、部屋の中央でピョンピョン上下に飛び跳ねている。
「おおっ!あれも英雄のゴーレムじゃ!この戦いは見物じゃぞ!!!」
エンと同じゴーレムか・・・。
鑑定・・・くそが!弾きやがった!!
「チビ助!あのゴーレムは何だ?」
「あれも英雄のゴーレムよ!センチネル族の勇者アルココじゃ!!」
なんだその涎でも飛ばしそうな名前は!
センチネル族だと・・・どこの部族だ!
「エン!無理はするなよ!」
俺の命令に頷きもせずにエンが前に出る。
と同時に敵のゴーレムの姿が霞み、エンが左手を振るうと、いつの間にかその手に握った刀が砕けた。
不味いぞ、エンより強いかもしれん!
エンより離れた位置に姿をあらわし、お互いを観察するように見詰め合う2体のゴーレム。
先手はまたも敵のゴーレムだった。
姿が消えるほどの動きでエンに持っていた槍を投擲した。
避来矢が淡い光を放ち迎撃するが破壊までには至らず、距離を詰めていた敵ゴーレムが跳ね返った槍を受け取り猛烈な突きを放つ。
迎えるエンは腰を落とし横なぎに刀を振るう。
エンの鎧が砕け散り相手のゴーレムの脇腹辺りに浅い傷が出来た。
ちなみにミーシャ以外まったく見えていないので彼女が解説している。
「まずいなぁ、相手の方がちょっとだけ強いかも・・・。」
一旦引きべきだな。
エンに帰還命令を出そうとしたが、口を開く事が出来なかった。
エンがなにかしているわけではない。
エンが両手で正眼に構えただけで声が出せなくなったのだ。
スクリーン越しだが全員が金縛りにあったように動けなかった。
「エンの奴、実力を隠してたな。」
訂正、ミーシャ以外が動けなくなった。
それは敵のゴーレムも同じだった。
今まで、どちらかというと余裕が見えていた相手が明らかに戸惑っている。
そして、いつ動いたのか分からないがエンが敵の背後にあらわれると、相手のゴーレムが真っ二つに左右に分かれて倒れた。
これが本当の刀神にまでなった男の力なのだろうか。
ミーシャと同じで強さの底が見えない。
そのまま奥の扉をくぐると、ダンジョンコアとこちらを睨む鷹のような目の男がいた。
あれが、ソルバ・アルダアート、隠者の洞穴のダンジョンマスターなのだろう。
彼は一言も、それこそ命乞いも嘆願もせずにエンを見ていた。
その眼には恨みは見えず、ただ自分を降した敵を見通すように見ているだけだった。
エンが躊躇なくコアを寸断すると、ようやくホッとした表情で彼は光りになった。
もしかして奴も生き疲れていたのだろうか・・・。
すぐにエンが戻って来た。
「よくやった。壊れた鎧と刀は後で同じものを支給する。もう自由にして休んでくれ。」
頷きコアルームを出ていくエンを見送るとエンの最後の攻撃について嫁と子供組が騒ぎだした。
とはいっても見えていたミーシャが質問攻めにあっただけだが。
これで、攻略すべき迷宮は後1つだ。
だけど、少しだけのんびりしてもいいよな。
俺は家族サービスを言い訳にのんびりしようと思い、夕食の席でそれを言おうと嫁達と共に家に急いだ。




