八百万の神(中)
「ここからが本題だ。お前が邪神と交信したとして何を願う?」
「儂か?願う事などありゃせんわい。」
チビ助がスプーンを振り回しながら叫び、付着していたクリームが双子の片割れに跳ぶ。
「聞き方を変えよう。祠の交信機能は何のためにあるんだ?」
「・・・さぁ?何のためじゃろのう。使った事が無いし考えた事も無かったぞ。・・・ああ、決着が着いたら連絡するようにとは言われとる。」
「メメに喰われた坊主がいただろ。あいつがどうも交信していたらしい。何のためだと思う?」
「なんじゃろ?応援でも頼んだんじゃないか。あいつ等、数だけはおるし。」
「呼べば来るのか?」
「微妙じゃのう。奇跡的に来るかもくらいじゃろ。」
「どんな状況なら援軍が来ると思う?」
「来ないんじゃないか。儂等にとってこの世界など暇つぶし程度の価値しかない。力を増やせると言っても世界一つくらいでは無いも同じじゃ。ルールとして禁止はされておらんが、それなら勝ちが硬い世界に応援として言った方がいいじゃろ。」
「なんのために報告するんだ?」
「そりゃあ、勝った世界にいつまでおっても仕方がないじゃろ。奴は数はいるが性能が低い。儂の様に世界を渡る事が出来んのじゃ。」
「じゃあ、報告して移動させてもらってるって事か?」
「そうじゃろな。」
「お前は移動出来るんだろ?なら邪神の祠は何のためにある?」
「無いぞ。作ろうと思えば作れるが、お主が作りたければ作り方を教えて進ぜよう。」
こいつが嘘を言ってるようには見えない。
だが、なにか答えが足りていない気がする。
モヤモヤしている部分が消えない。
「お前等は力を増やすために、世界を取り合っている。何のために力を増やす?チビ助、お前自身のメリットは何だ?」
「本体の力が増せば儂の力も増す。本体にとっては微差でも儂にとってはそれは大きい。」
「それはちび助本人のメリットだろ。本体のメリットはなんだ?」
「力が増せば格があがる。」
ニヤリと笑いながらチビ助が呟く。
「・・・・・なぁ・・・もしかして・・・俺達も格があがるのか?邪神でも善神でも無く、この世界を俺達のものにしたら・・・。」
「ほう!やっぱり気付いたか。じゃがお主等の勝ち筋は薄いぞ!ルールには善神か邪神の勝敗しか無いからのう。理屈ではお主の言う通りじゃが、それを成す事が出来るかどうかはお主等次第じゃ。」
勝ち筋は薄いか・・・・。
「それって、お前等に勝った奴がいるってことだよな。」
「そうじゃな。世界は無限にある。勝った奴も確かにおるぞ。」
「勝つ方法はなんだ?」
「それを見付け実行するのはお主等のやるべき事じゃ。儂等が教える事は許されておらんし、そもそも知らん。」
衝撃の事実が多すぎて頭が回らん。
一旦、仕切り直した方がいいな。
「よし、チビども、今日はここまでだ。キョウカ達には今の事はしゃべるなよ。」
俺はイチゴのケーキのホールをLサイズで購入しチビ共に見せる。
「け、ケーキじゃ!儂に寄こすのじゃ!!!」
興奮しだしたチビ達に念を押し、ケーキを切り分ける。
半分をメメに残りを四等分してそれぞれに渡す。
「何故、こやつのばかりが大きんじゃ!」
「昼飯が食えないと折檻を受けるがいいのか?」
メメだけケーキが大きいと一瞬騒いだが俺の返答に言葉がつまり、大人しく食いだした。
ワイワイやっているチビどもを残し、部屋を出るがどこにいこうか迷う。
もう赤ちゃん達も朝飯を食って、だいぶたつから寝ている可能性が高い。
シスとキョウカの訓練でも見に行こうと思い向かうと、珍しくリアもいた。
朝の出来事から訓練に参加するようにしたらしい。
いつもは激しく動いてブルンブルンしているのに、今日は足さばきをエンから指導されているらしく、
流れるような動きのために3人の胸もたゆんたゆん揺れている。
いつもと違う動きに偶にはこういう物もいいものだとしみじみ思う。
たゆんたゆんなのにシスだけはかなりダイナミックだ。
重さの関係なのだろうが、1人だけ別格だ。
案の定、普段運動をしないリアが一番最初にバテてしまった。
休憩のためにこちらに歩いてくるが、何故胸を隠してくるのか理解に苦しむ。
「だ、旦那様~・・あまり胸ばかり見ないで下さい。」
残念だが男の8割を胸を見るんだ。
胸を見るのは男の証だ。
「別に裸じゃないんだから隠す必要ないだろ。それに家族じゃないか。」
「そ、それはそうなんですけど~・・・・。」
「旦那様、見るなら私の胸を見てくれ。」
シスは吹っ切れたようで言動に貫録をおびてきた。
もはや、誰も何も言わないのがいい証拠だ。
「ご主人様!ラキッシュ様が産気づきました!」
俺がリアをからかっているとシルキーが走り込んできた。
そろそろだと思ってたら、ラキッシュが一番手か。
急いで出産部屋にむかうとダークエルフ達が何人か扉の前にいた。
お腹の大きいアンとエリスも一緒だ。
「アン、エリスは身重なんだ。ちゃんと座って腹に毛布をかけろ。ボナはどうした?」
「ボナは中です、それと手伝いのためシルキーが1人中にいます。」
誰か分からないダークエルフが教えてくれた。
俺はシルキーが持って来てくれた毛布をアンとエリスにかけ、その隣の椅子に座る。
キョウカとシスとリアも汗を流した後に合流し、今は一緒にいる。
そして、1時間後、中から赤ちゃんの泣き声が響き渡る。
歓声をあげるダークエルフと嫁達の中、俺は扉の真ん前に踊り出し、ボナが開けてくれるのを待っていた。
カチャリと音がして扉が開けられると笑顔のボナがいた。
「おめでとうございます。女の赤ちゃんですよ。」
子供の比率が女に偏っているが、所詮確率の問題だ。
1姫2太郎と言うように始めは女の子の方がいいはずだ。
ベットに近づくと疲れた顔のラキッシュがおくるみにくるまれた赤ちゃんに母乳をやっている。
すぐにエリクサーを飲ませたようで元気そうだ。
「あ、主様・・・女の子です・・・。」
「よくやった、ラキッシュ!ありがとうな!」
感極まって泣き出してしまったラキッシュを必死でボナがなだめている。
「あ、主・様・・、わ、私もだ、旦那様って呼んで・いいですか?・・・」
「いいぞ、好きに呼べ。」
「う~・・・。」
また泣き出した。
ラキッシュはすぐに泣く。
「赤ん坊の名前は決まっているんですか?」
ダークエルフの1人から質問が飛んだ。
「決まってる。女の子の場合は、ラナンキュラス。今日からこの子はラナンキュラス、ラナだ。」
「それって花の名前よね。花言葉とか知ってるの?」
「花言葉は、とても魅力的、だ!見てみろ凄く魅力的だろ!」
キョウカの問いにドヤ顔で答えると皆が俺に笑顔を返し、ラキッシュは泣きながら恥ずかしがるという器用な真似を披露していた。
こうして我が家に新しい命が加わった。




