神の分身体
「どうするつもり?」
コアルームにむかう道すがらキョウカが聞いてきた。
「とりあえず、2人とも捕まえる。それから契約を解く方法を考える。」
G達に襲わせると勝った場合、ゴルドが死ぬ。
そのため罠でとらえる必要があるが、これに関しては余り心配していない。
問題はどうやって契約を解くかだ。
「どうするの?奇襲する?」
「しない。」
善神と邪神はルールを守って戦っている、俺が時間外に奇襲をかけても平気だと思うが、ルールを破ったとか難癖付けられても困る。
ましてや、それでペナルティをくらっても困る。
「チビ助、あの2人の監視を頼む。此方に対して何かしたら即座に教えてくれ。」
「うむ、チーズケーキで手を打とう。」
「終われば祝勝会だ。吐くまで食え。」
嬉しそうに頷くチビを放置し、1階層を見直す。
幸い2人は小部屋に入っている。
とりあえず、小部屋の扉の外側に壁を立てる。
壁の幅は扉の幅にして扉からは1ミリ離しておく。
ダンジョン壁なので奴等は壊せず、これで外に出られないので負けは無い。
直接襲って無いから、不意打ちや奇襲にもならず、ルールも破ってはいない。
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「友よ、時間だぞ。」
「分かってるさ。」
「そうか・・・、ならば遠慮はしない!」
得意気に扉を開けると、そこは壁だった。
「な、何故・・・我等がいるのにダンジョン管理が使える?」
子供が大げさに驚いているが俺の事知ってて来たんじゃんないのかよ。
「保険は大事だからな。」
さも罠が元々あったように言う。
俺にとっては意味の無い言葉を言ったに過ぎないが、勝手に誤解するのは向こうの自由だ。
「ゴルド!壊せるか?」
ゴルドが腕を振るうがダンジョン壁はビクともしない。
「姑息な!だが好きにするといい。僕は平気だ!」
「でも、ゴルドは違うんだろ?強化はされているが只の人間だ。」
「・・・・・・・・・・。」
「守り手がいなくなった時、どうやって、お前は自分を守るんだ?まさか見逃してもらえると思ってないよな。」
「ゴルド!!なんとか壊せないか?」
「下がっていたまえ。全力で攻撃する。」
ゴルドと善神の分身体の距離が離れた。
いまだ!
それぞれの足元に落とし穴作成、ついで天井の高さを10センチに変更!!!
スクリーンにコントのように構えたまま落下するゴルドが映り、すぐさま天井が降りてきた。
捕獲完了!!!
「よし、捕まえたぞ!キョウカ、カグラ、皆へ伝令を頼む、アリス達の方はここに来てもらってくれ。」
「わかったわ。私も戻ってくるから、カグラの方は赤ちゃん達の方へ行ってそのまま一緒にいて!」
頷いたカグラとキョウカが走り出し、俺はこれからの事を考える。
「上手くいったのう。これで今日は祝勝会か?」
チビ助はチーズケーキが気になるらしい。
「そだな・・・なぁ、チビ助・・・お前等って本当に死なないのか?」
「なんじゃ。物騒な事をいきなり口走るな!儂等は不死じゃ。それはルールでそう決められとるからのう。」
ルールで決められてるか・・・。
そんなにキッチリ、ルール決めるくらいなら半々で分けりゃあいいのに面倒臭い。
「なんだよ~、あたいの出番は無しかよ!」
一番に来たのはミーシャだった。
憎まれ口を叩くが、彼女が俺の頼みを聞かなかった事は無い。
抱き締めて頭を撫でるとビクッとして大人しくなった。
「ごめんな~、ミーシャにはいつも苦労をかけるよな。・・・悪い旦那だな俺は・・・。」
「そ、そ、そ、そんな事ねえよ!!あ、あたいに任せときゃいいんだよ!!!」
真赤な顔で動揺しながらフォローしてくれる。
「何してるのよ!」
キョウカの底冷えする声が部屋に響く。
「ミーシャに慰めてもらってた。」
「あんた、ミーシャで遊ぶんじゃないわよ!」
失敬な。
初めはそうだが、途中からは違うぞ。
「それで、どうするの?」
「皆で、あいつを気絶させられそうな方法を考える。即座に試せるのがダンジョンのいいところだ。」
「キーコちゃんはなんて言ってるの?」
「死なないのはルールだそうだ。後は皆も聞いてた話だ。」
「強力な眠り薬にダークエルフの秘薬を混ぜてみたら?」
アリスが一番手堅そうな方法を言いだす。
すぐに、ダークエルフとリアに話が行き特製の眠り薬が用意された。
液体タイプの揮発性で吸っても肌にかかっても効果を及ぼす。
試しにゴルドに使うと、あっという間に寝てしまった。
善神の分身体の方に転送し、薬が入った瓶が落ちて割れる。
無色にしてくと分からないため色を付けておいたのだが、ピンク色の煙が立ち込みはれると分身体の方は平然としていた。
次に水攻めだ、
落とし穴のふちギリギリまでに水を入れ溺れさせてみる。
水底で体は微動だにしないが、うっとしそうに頭を動かすので、これも平気なようだ。
「酸の海はどうかしら?溶かしちゃえば死ぬんじゃない?」
相変わらずキョウカの発想力が恐ろしい。
ゴルドはかつてキョウカは甘いと言っていたが猫を被っていたか、ここに来て黒キョウカに目覚めたかのどちらかだ。
「何をやっても無駄じゃ。ルールに守られておる以上、儂等は平気じゃよ。」
チビ助がドヤ顔で威張るが、穴はあるはずだ。
ルールに守られている。
裏を返せばルールの外の存在じゃないと、こいつらをどうこうする事は出来ないのだ。
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いた!
いるじゃないか、うちのダンジョンにルール外の存在が・・・。
「メメ、あいつが俺達の敵だ。あいつはメメのおやつを食べる悪い奴だからお仕置きしなけりゃ駄目なんだ。このままだとメメのおやつどころかご飯も食べられちゃうぞ。」
俺はメメにスクリーンを見せて説明する。
完全に嘘だが、動物に近い思考回路のメメは触手をあげスクリーンに向かって威嚇している。
やる気は十分だ。
少し前にチビ助はメメの事を自分より強いと言っていた。
そしてメメの触手はチビ助に対して驚くほどの効果を与えている。
他の神の分身体。
本来、この世界にいるはずのないメメなら善神の分身体をどうにか出来るはずだ。
「いいか、メメ、徹底的にやるんだ。容赦するなよ。」
そうメメに言い聞かせ、
水を抜いた落とし穴にメメを送り込む。
効果は劇的だった。
それまで平然としていた善神の分身体が明らかに怯えの表情を見せる。
そこにメメの触手鞭が飛ぶ!
ペチリ、ペチリと情けない音を響かせ打ち据えるが、その効果は凄い!
一撃毎に顔が歪み苦痛の表情をあらわにする。
そのくせ逃げる事も防御もしない。
正になすがままだ。
10数回の攻撃で完全にダウンした善神の分身体をメメが触手で持ち上げる。
今までに無い動きだ。
大技を出すのかもしれない。
そして、メメが善神の分身体を吸い込んだ。
その後、バリバリと噛み砕く音が聞こえる・・・。
「やはり食われおったか・・・。」
まるで、分かっていたというようなチビ助の発言だ。
メメを呼び寄せ様子を見る。
あんな奴を食って腹を壊さないだろうか・・・。
ゴルドの地響きのような鼾の中、こうしてゴルド襲撃事件は終わりを告げた。




