上級貴族
海に遊びに行って2ヵ月ほどたった頃、また俺のダンジョンに騎士じみた輩が集結しだした。
たすきのような物を肩から掛けているから、こいつ等ダラッダ国の奴等だろう。
いつもは50人くらいなのだが、この日は100人を超えてもまだまだ増えている。
いつものパターンだとゴルドが縛られて登場するわけだが、まだそんな気配は微塵もない。
新バージョンかと思って見ていると、騎士は総勢300名ほどで止まり、豪華な鎧を着た偉そうな若い男が大柄な中年と共にあらわれた。
キョウカを呼びに行きスクリーンを見せると、豪華な鎧の若造はダラッダ国の第一王子だということだ。
「殺しちゃだめよ。」
いつもより消極的だな。
自分が爵位を持つ国だからか?
「攻めてきてるなら、そうも言ってられないだろ。第一お前がここにいる事は知ってるはずだろ。」
「だから、これは国内での貴族同士の争いになるの。捕まえれば身代金を取れるわ。」
身代金って金には困って無いはずだが・・・。
「金もらってどうするんだ?別に必要ないぞ。」
「馬鹿ね。もらうのはお金じゃ無くて爵位と領地よ。王子なら伯爵位は硬いわ。それと運営用の資金ね。領地はカージャさんの隣にしてもらって運営はカージャさんに任せればOKよ!」
上へ上へ昇ろうとするのは何かの性なのか。
馬鹿と煙は高いところに昇るというが、それじゃないだろうな。
「出来たら全員とらえてよ。王子の騎士の中には高位貴族の子も混じってるはずだから。」
もう発想が女のそれじゃ無いな。
しかし、どうやって捕まえようか。
皆殺しにするのは簡単だが、捕らえるとなると難しいな。
とりあえず大部屋を追加して、全員そこに入れたら、全ての床を落とし穴にして閉じ込めよう。
「エン、騎士共の後ろに転送するから、先にある大部屋に追い込んでくれ。はむかってきたら、みねうちで意識を刈り取るんだ!」
エンを転送し20人ほど騎士を弾き飛ばしたら撤退を始めた。
一本道にしてあるから、もう大部屋以外には行けない。
気絶している奴等以外が入ったところで床を全て落とし穴にし3メートルほど下に落としてやった。
鎧も着ているから、思ったよりダメージがデカそうだ。
一応は鍛えているようで死人は出ていない。
無駄に昇ろうとしたので更に10メートルほど下げてやったら諦めた。
「全員じゃ無いけど、捕まえたぞ!気絶してる奴等どうするかな・・・落とし穴に投げ込んだら流石に死ぬだろ。」
「下にいる奴が受け止めるから平気よ。エン、気絶してる奴も落とし穴に投げ込みなさい。」
キョウカの提案で情け容赦無く投げ込まれる犠牲者達。
気絶して脱力しているせいと、下の奴等が必死で受け止めたため奇跡的に死者は出ていないようだ。
翌日、カージャが訪れた際、馬鹿王子が攻めてきたので捕まえた事、それとキョウカの提案を話した。
「なるほど・・・それは・・・イケるかもしれませんね。妻の実家にも協力を仰ぎましょう。
そうなると、キョウカさんが伯爵以上に昇爵した際は、私が家令となるでいいですか?」
「ええ、カージャさん以上の適任者はいないわ。私は迷宮にいるし、ほぼ全てやってもらう事になっちゃうけど、その分、手当は弾ませてもらうわよ。」
「わかりました。喜んで引き受けましょう。それでは、明日王城に向かいます。早ければ1週間ほどで結果は出ると思いますが、その間王子が死んだりしないようにお願いしますね。」
「任せて!どうせ自殺するような度胸は無いだろうし、パンと水だけ差しいれて心を折っておくわ。」
キョウカとカージャの黒い会話が終わり、カージャはスキップしながら出て行った。
そんなに家令になるのが嬉しいのか。
面倒なだけじゃね?
「家令のメリットは計り知れないわよ。広大な伯爵領からの仕事が受注できるんだからウハウハよ。」
そんなもんか。
俺なら断るけどな。
10日かかると言っていたが、4日後にカージャは一度帰って来て、キョウカとなにやら相談し始めた。
どうやら侯爵位を狙う様だ。
流石に無理じゃないかというカージャに対しキョウカは強気だ。
「大丈夫、最終的な落としどころは辺境伯になると思うから。最初はごねて、耳でも送りつけましょう。」
黒キョウカが恐ろしい話をしている。
珍しい事にカージャの顔にも冷や汗が浮かんでいる。
「覚悟を決めなさい!これで辺境伯になれば、運用資金も引っ張れるわ。王族の財布で開発出来るメリットは大きいわよ。」
6日目の朝、キョウカに何か吹きこまれたカージャは再度、王城へ向かった。
「これで駄目だったら、耳削ぎ落とすからエンの事しばらく貸してね。」
俺も頷くしかなかった。
だが、よく考えたら攻めてきた奴等が悪いのだ。
命があるだけで良しとしなくては。
暇つぶしに王子とやらと話をすると、どうも馬鹿貴族の1人に吹きこまれて攻め込んだようだ。
お人好しの性格といい、こいつが将来の王だと国が傾くんじゃないか。
キョウカが本当にパンと水しか与えておらず、心が折れかけていたので、
侯爵になれないなら耳を削ぎ落して送ると言っていたと伝えたら気絶してしまい、その後は話してくれなくなった。
話しかけると悲鳴をあげ耳を隠して体を丸めるのだ。
恐らく、後1日か2日でこの馬鹿王子の耳がどうなるか決まる。
自業自得とはいえ、あまりにも哀れだ。
3日後、カージャがスキップしながら帰って来た。
下手な鼻歌まで歌い、超ご機嫌だ。
「辺境伯で決まりました。領地は私の隣の子爵領2つと男爵領3つを合わせたものになります。
それと開発資金として年金貨1000万枚を20年、それと税免除を10年になります。」
「やったわ!!これで私は辺境伯よ!一気に上級貴族の仲間入りよ!!!」
「それと、勇者初の上級貴族ですね。キョウカ様。」
カージャが恭しくお辞儀をする。
「やーねー!カージャさん。カージャさんにはこれからお世話になるんだら、今まで通り接してよ。」
「わかりましたよ、キョウカさん。」
いい話しで終わろうとしてるが、俺は黒キョウカの事は絶対忘れないだろう。
翌日王子は解放されたが、可哀想なくらい震えていた。
もう精神がやられているかもしれんな。
だが、攻めてきたのはあの馬鹿どもだ。
俺は悪く無い。




