海の家、再び
季節感が出鱈目なのはダンジョンだからです。
海に来た。
はじめて見る海に赤ちゃんが大興奮だ。
「あ~」とか「う~」とか言いながら海水を叩いたり砂地を叩いたりしている。
ローズは波が面白いらしく引いた波を追いかけ、頭から波をかぶってケラケラ笑ってる。
逆にタカトは海水が目にしみたらしくベソをかいてキョウカに抱っこされてあやされている。
一応、熱中症にならないように偽太陽光は抑えて、気温も少し暑いくらいにし海水温度も上げている。
こういうところはダンジョンならではと言える便利さだ。
水着は子供組は全員スク水で、嫁連中は好きに選ばせたらガッチリしたビキニタイプを全員が着ている。
胸がデカ過ぎて合うサイズが無いらしく、それならと全員そろいにしたようだ。
赤ちゃん達は全員パンイチだ。
チマチマ着せるのも面倒なので全員それで統一している。
この子達が大きくなったら、是非そのことで弄ろうと思い写真も撮った。
アリスとカグラも来ていてこちらは大人しいワンピースタイプを来ている。
それとダークエルフ達にも声をかけたのだが、シス言っていたように明らかに人数が多い。
全員がビキニタイプだが、嫁達と違い明らかに布面積が少ない。
当初10名予定のはずが20名いる。
その事は後程キョウカがお話をすると言っていたので丸投げにした。
「なんで、あいつ等、全員白のビキニなんだ?」
俺の知らない所で派閥でも出来ているのだろうか。
嫁は布面積の多いビキニ、子供はスク水、赤ちゃんはパンイチ、ダークなエルフは白ビキニで元ダンマス組はワンピースだ。
シルキー達数名が赤ちゃん達を見守り、数名が網焼きで買っておいた食材を焼く。
定番の焼きトウモロコシから貝やイカ、その他に肉と焼きそばも鉄板を乗せ作る。
飲み物は各種ジュースと海に入らない事を条件に冷えたビールもある。
楽しいサンオイルぬりは迷宮の機能で紫外線をカットして対応した。
駄目なら頭から低級ポーションをかぶればいいだろう。
ひとしきり赤ちゃん達に海を堪能させた後は、ふくらませたビニールプールの中に海水を入れて、その中に赤ちゃん達を入れておいた。
ビニールプールが珍しいのか子供組も中に入って赤ちゃんの面倒をみてくれている。
メロンとパルとアイカは3人で集まり、「だぁー」とか「あぅー」とか言っている。
案外、母たちの井戸端会議を真似しているのかもしれない。
そして、ローズは海に行こうと1人で脱走を企てているが、流石にプールのふちを超えられず、不満の声を上げている。
プールのふちにふてぶてしく座ったタカトは双子に挟まれ、お菊とチビ助に正面を塞がれ、完全に追い詰められている。
チラチラとキョウカを探し視線を漂わせるも、キョウカはシスとリアと一緒に海の方で遊んでいる。
そして、ミーシャは初めからビール片手に海鮮焼きを摘み、メメと一緒に網焼きの前から動かない。
俺はというとダークエルフ共に囲まれ揉みくちゃにされている。
ある意味、夢のようなシチュエーションだが、それなりに暑い中で囲まれると熱気が凄い。
甘い匂いと柔らかさと熱気が合わさり楽しめるのは最初の3分だけである。
「散れー!!貴様等ー!!!」
怒号を上げるがキャー、キャーいうだけで一向に効果が無い。
いい加減、熱さと頭に昇った血のお陰でクラクラしてくると助けが入った。
「はい、はい、それくらいにしないと嫌われるわよ。」
パン、パンと手を叩いてひっつくダークエルフ共を引き離してくれたのは、何とアリスだった。
思わぬ援軍に喜んでいると、アリスの後ろからおずおずとカグラが顔を出す。
「ご、ご主人様~・・・大丈夫ですかぁ?」
「おう!よくやったアリス、褒めてやる。」
「気付いたのはカグラよ。」
「そうか、よくやったカグラ!」
「他に言う事は無いの?」
助けてくれたかと思えば絡んでくる、難しい女だ。
「き、吸血鬼って日に当たっても平気なのか?」
「貴方、馬鹿なの!!」
違ったらしい・・・。
チラチラとカグラの方を見ている。
・・・分かったぞ。
「カグラは胸がデカいな。アリスに合わせてワンピースにしたんだろうがキツイだろ。」
ボッとカグラの白い顔が赤くなり逃げた。
「・・・・次は水着を褒めるのよ。・・・」
疲れた顔でアリスがそう言うが、俺は間違った事は言っていない!
釈然としないまま、俺も料理を取りに行った。
赤ちゃん達に飲み物をと思ったからだ。
俺はちゃんと面倒をみて、将来お父さんの下着と一緒に洗わないでという台詞が言われるのを防いでみせる。
ジュースを大量にお盆に乗せていると、横でメメが網焼きから直接食べていた。
触手をニューっと伸ばして網焼きの上から掻っ攫うのだ。
サザエやホタテ等も殻ごとバリバリ食べている。
その横でミーシャがサザエを器用に割って中の味噌を食べている。
ビール片手にくるみでも割る様にサザエを割るのはちょっと憧れる。
俺もやってみたが、熱いので一瞬で断念した。
「シリアスも食いたいのか?ほら。」
ミーシャがそれを見て自分が割ったサザエを摘まんでこちらに手を伸ばした。
俺は指ごと口にいれ味噌を舐め取ったが久々に食べるサザエのつぼ焼きは美味い。
顔を赤くしたミーシャがもっと食べろと言ってきたが、俺には赤ちゃんへのジュースの配達がある。
断腸の思いで断り、ジュースを持って急ぐ。
中々いいタイミングだったようだ。
俺のジュースを見付けた赤ちゃんたちがワラワラ集まってきた。
子供組には1人1つでもいいが、赤ちゃんにはだいぶ多い。
1つか2つを回し飲みさせればいいだろう。
赤ちゃん達は2~3口飲むと興味を失い遊びだす。
そして喉が渇くとまた飲むを繰り返している。
ローズだけが一気に半分ほど飲んで、その後は一口も口にせず、唸りながら海を見ていた。
タカトは双子やお菊からジュースをもらい、チビ助は全て自分で飲んでいる。
俺が順調に赤ちゃん相手に得点を稼いでいると、キョウカ達が戻って来た。
流石に赤ちゃん達が気になるらしい。
「どうよ。」
「皆、元気だ。ローズだけは海に行きたがってる。」
「じゃあ、私達がここ見てるから、連れてってあげたら?」
さらりと楽な方を言ってくるが、それは願ったり叶ったりだ。
俺は小さな暴君を抱っこして海に連れて行った。
波に向かって突進し、波に負けて尻もちをつくのだが楽しそうにキャッキャッと笑っている。
突進を数回繰り返すと満足したのか皆がいるプールの方に行こうとするので抱きかかえて皆の元に急ぐ。
合流させると英雄の帰還のように取り囲まれるローズ。
皆がニコニコと笑っているので俺も嬉しい。
「そろそろ、お昼にしましょう。」
嫁と赤ちゃん達を抱き上げ、海の家に行く。
朝から飲んでいるミーシャがビールを掲げて、俺達の帰還を喜んでいる。
何気に1人は嫌だったのかもしれない。
偶にはこんなのんびりした日もいいもんだ。




