私達奴隷になります
少年は1時間たっても戻らず、かなり時間がすぎてから戻ってきた。
「ごめん、ごめん。忘れてた。で、どうする?」
「・・・貴方に協力するとして裏切らないってどう証明するの?貴方の寝首をかくかもよ。」
「ああ、それはこれを使う。」
少年が片手をあげて見せたのは2つの首輪だ。
「奴隷の首輪・・・。」
ダンジョンからは見事な宝石や希少なポーション等が排出される。
またマジックアイテム類も数多く出回る。
その多くが特殊な効果を持つ武具なのだが、それ匹敵する数が排出されているのが、この奴隷の首輪なのだ。
この手の犯罪に使えるマジックアイテムの排出量はそれなりに多い。
それは邪神側が人の世の不和を狙って、DPストアで格安で販売しているためでもある。
使いかたは至って簡単で、主人となる者の血を首輪の内部にしみ込ませて対象に首輪をはめるだけだ。
細かい設定は血をしみ込ませた後に首輪に付いている水晶を触りながら念じればよい。
これにより、世界には違法奴隷が後を絶たず、人族の中では社会問題にまで発展している。
「それで、答えは?」
奴隷の首輪を指に引っ掛け回しながら尋ねる少年を見る。
あの首輪をはめられたら、もう少年の言う事には逆らえない。
体を弄ばれても逆らえず従うしかないのだ。
下腹部が熱を持ったように熱く感じる。
「あ、あの協力するとして、それをはめたらオークのな、苗床になれと言われない保証はあるのでしょうか。」
確かにそうだ。
リアが質問したようになる可能性もある。
頭を振って冷静になるように努める。
「あ~確かにそうだね。じゃあ、設定だけ先に済まそうか。設定は・・・」
1.奴隷は主人に危害を加えてはいけない。
2.奴隷は主人から逃げてはいけない。
3.奴隷は主人が認めた者に対し危害を加えてはいけない。
4.奴隷は自分が傷つけられそうな時は戦っても構わない。
5.奴隷は嘘をついてはいけない。
6.奴隷はダンジョンコアを傷つけてはいけない。
「とりあえず、こんなんでどう?」
「もう一つ追加してもらっていいですか?内容は・・・」
7.奴隷は主人が奴隷の合意無しに設定を変えた場合、戦っても構わない。
「着けた後に変更されるのを防ぐためか・・・。リアだっけ?君って頭いいね。」
リアの提案はすんなり受け入れられ設定が追加された。
「で、どうするの?ここまでしてやっぱり死んだ方がいいとか言わないよね?」
「私は・・・協力者として首輪を受け入れます。」
ちらりとこちらを見たリアが躊躇いもせずに宣言をした。
「わ、私も貴方の奴隷になります・・・・。」
もはや受け入れるしかない・・・。
「奴隷の首輪は付けるけど、奴隷として扱うつもりはないよ。殺されたり騙されたりしたくないから付けるだけだけど。」
リアと私の首に奴隷の首輪が付けられ、拘束が解かれた。
どのくらい繋がれていたのか分からないが体の節々が痛む。
「じゃあ、ついてきて。」
リアと2人、体を伸ばしていると彼が返事も聞かずに部屋を出て行った。
慌てて追うが扉の向こうは真暗闇だ。
「あ、ご、ご主人様、明かりは無いのでしょうか?」
「ん。ああ、ごめん、ごめん、ちょっと待ってね。」
言われた通りに待つと、すぐに天井が光を発しはじめた。
地下なのに昼間のようだ。
見えるようになると扉の先は通路になっており、曲がり角で彼が待っていた。
慌てて追うと更に通路があり、その先は扉になっている。
そして扉を抜けると大きな部屋になっていた。
高レベル冒険者が語るダンジョンのボス部屋のようだ。
「あそこが君たちの部屋で、荷物は中に置いてある。部屋はどっちも同じ作りだけど、こだわりがあるなら各自で相談して。」
彼の指し示す方を見ると扉が少し離れて2つ並んでいる。
奴隷に部屋を用意するのか。
いや、奴隷扱いはしないと言っていたが彼の常識は少しおかしい。
「・・・・・・・・。」
「あの・・・なにか?」
急に黙り込んだ彼を見て不安に駆られたリアが尋ねた。
「いや、これからどうしようかと思って・・・。先に部屋の使いかた教えるよ。」
そう言いながら、彼は扉の一つをくぐり、私達も後に続いた。
部屋に入ると清潔そうなベットが目に入る。
間近で見ると白いシーツとふかふかの柔らかそうな布団だ。
「えっと、これはシスの荷物だね。」
床の上にはぎとられた私の鎧や剣が置かれている。
服やバックパックもまとめて置かれている。
「え~と、ベットは分かるよな。じゃあ、トイレと風呂場だけでいいかな。」
驚きの連続だった。
トイレは陶器で出来た芸術品のようなもので、柔らかい布のような紙で後始末をするのだ。
それより驚いたのはお風呂だ。
てっきり水浴びだと思っていたのだが、温かいお湯につかるのだ。
そんな贅沢はかなり裕福な貴族くらいしかしない。
そして、シャワーなるものから雨の様にお湯が出る。
更にいい匂いのする石鹸まであるのだ。
「あ~後は、このシャンプーだけど、髪を洗うための石鹸だと思って、説明が難しいんだが、髪を濡らしてシャンプーを付けて洗って、洗い流す。まぁ何度かやれば分かると思うけど。」
不思議な素材で出来た入れ物の上部を押すとドロッとしたものが出てきた。
花のような匂いがするが、これも石鹸なのだろうか?
その他にもフワフワのタオルやコップ、歯ブラシと歯磨き粉なるものを支給された。
「とりあえず2人ともお風呂に入ってみたら。その後にご飯にするからお風呂から出たら部屋から出てきなよ。」
そう言って彼は部屋から出て行ってしまった。
「リア、どうする?」
「とりあえず言付け通りお風呂に入るわ。ここで逆らっても仕方ないもの。」
「分かった。・・・一緒に入るか?」
「私の荷物は彼の言葉を信じたら隣の部屋よ。服もそっちだし、本当に同じ作りか確かめましょう。それで後でお互いが気付いたことを話し合うの。」
「分かった、一人で行けるか?」
「あのね・・・一つしか年は違わないのよ。しかも私達ってもう20過ぎよ。」
「分かるけど、あんた小さいから・・・。」
「!背が低いのは関係ないわ!」
「まぁ、そうだけど・・・。」
「とりあえず彼は私達の事をどうにかする気は無いみたいだし、様子見しましょう。」
「わかった。じゃあ風呂に入るよ。なんかあったら大声上げるのよ。」
「シスもね。」
扉から出ていくリアを見送り、教えてもらったように風呂桶にお湯を張る。
シャワーで髪を濡らし、ドロッとしたシャンプーなるものを付けて洗うも言われたように泡がたたない。
垂れてきたものが目に入り痛みで悶絶する。
シャンプーをしている時は目を閉じていた方がいいようだ。
後でリアに教えてやろう。
やり方が悪かったのかと思い、再度シャンプーを試すと今度はちゃんと泡がたった。
目を閉じながら泡を洗い流し、今度は石鹸を使い体を洗う。
石鹸を使うと何だかサッパリした感じになり仄かに香る花の匂いが鼻孔をくすぐる。
背中を洗うのに苦労したが、なんとか全身を洗い流し、いよいよ湯船に浸かる。
思い切って肩まで浸かると、お湯の暖かさが体に染み込むようで心地いい。
名残惜しいが、あまり長く浸かって彼の不興を買うのはマズイ。
風呂からあがり、タオルで体を拭こうとするも、本当にこれを使ってよいのか悩む。
肌ざわりや作りから見た事もないくらい高級なものだと思う。
自暴自棄になり体を拭いてから下着と服を身に着ける。
今までは何も感じていなかったが、何故か自分がみすぼらしく感じた。
落ち込んでいても仕方が無いので部屋の外に出る。
今日はここまでです。
今日、明日はスタートダッシュをかます予定です。