売られた男
夕飯前に魔族村に行っていたキョウカが帰ってきた。
話し合いは上手くいったらしくニコニコしている。
キョウカ以外のボナもニコニコしているし、チビ助にいたってはドヤ顔だ。
何を話してきたかは知らないし興味も無いが、機嫌がいいのは良い事だ
タカトとアイカもそれが分かってか抱っこしてもらおうと懸命に手を伸ばす。
「あんた!外に10人が泊まれる使用人部屋作って!」
何を言っているのか分からない。
結論を先に言うのは報告として間違っていないが、その後に普通は理由を言うべきだ。
所詮は元女子高生の小娘、仕事のイロハも分からないのだ。
大人の対応で理由を聞いてやる。
「彼女達って美容マッサージが得意なのよ。胸を大きくする事も出来るっていうしエステシャンとして雇う事にしたから。」
マッサージのために人を雇うとか、どこの王族だよ。
久々のジャ〇アン降臨!
今回ばかりはハッキリと分かる。
この女は胸のためにダークエルフ達と裏取引している。
「キョウカ・・・何か隠してる事は無いか?」
「無いわ!」
きっぱりと即答で断言した。
しかし一瞬目が泳いだのを俺は見逃さない。
「チビ助・・・チョコレートパフェという至高の甘味があるんだが・・・。」
「キョウカはシリアスを売ったのじゃ!」
躊躇無くゲロったチビ助にキョウカが驚きの目を向ける。
甘いな・・・このチビはプリンと団子で秘密をベラベラしゃべるチビだぞ。
「さて・・・勇者殿・・・話を聞こうか・・・。」
「別にシリアスを売ったりしてないわよ!彼女等もこっちで生活したいって言うから、
代わりに出来る事をしてもらうだけよ。胸を大きくしたり垂れないようにしたり出来るっていうから・・・
私達って胸が大きいからそういうの必要なのよ!」
胸が大きいと言いながら、さらにデカくするってどういう事だよ。
「じゃが、シリアスの妾になる事を認めたのじゃ!」
次々と暴露される裏話。
今だけならチビ助は完全にこちらの味方だ。
諦めたキョウカは全てを白状した。
バストアップとたれ防止、それに痩身と美肌マッサージと引き換えにダークエルフの女10人を引き受けたという事を。
そして、種族繁栄を名目に俺が10日に1日の割合で彼女達の相手をする事を・・・。
「はよう、儂にちょこれーとぱふぇを寄こすのじゃ!」
報酬を要求するチビ助に赤ちゃん達が欲しがるとマズイから、明日のお昼寝タイム中に渡す事を約束し黙らせる。
ダークエルフの雇用はシスとリアがキョウカの味方に付いたため試用期間を設け採用となった。
特にシスの懇願が必死すぎた。
人一倍大きいせいで相当気にしていたようだ。
10人の部屋は社員寮の様に家の横に作られ、それに伴いエステ用の部屋が温泉に併設された。
社員寮にはエステ用の部屋を通り温泉にいけるので家の外というより増築のような感じだ。
当初は落ち着いた温泉旅館風の家だったのが、段々とウィンチェスター・ミステリー・ハウスのように、
わけの分からない増築が増えていく。
そして、1週間後にエリスを筆頭にダークエルフの一団がやって来た。
「荷物を置いたら、さっそく使用する薬草の栽培に取り掛かりたいです。」
どうやら、俺の知らない密約がまだあるようだ。
もはや、俺の手には負えないため、エリス達の事ははキョウカに丸投げし、俺は赤ちゃん部屋に引き籠った。
エステは2人まで同時に対応出来るため、今日はシスとリアがマッサージを受ける事になった。
昼食後に温泉に行って、そのまま夕飯時までマッサージを受けるらしく、ずいぶん時間を使うようだ。
夕飯時に2人を見たが確かに肌がツヤツヤしている。
心なしかウエストも細くなっている気がする。
「旦那様に今すぐ見て欲しい。胸もいつもより上向きになってるんだぞ。」
シスが喜んで報告してくるが胸はいつもと変わらない気がする。
多少何かしたところで、あの重量の塊をどうにか出来ると思えない。
「感覚的な物ですが、本当にちょっとだけ上向きなんですよ。」
リアが苦笑しながら詳細を話してくれるが、感覚的な物は本当に感覚だけなんじゃないだろうか。
賢い俺は余計な事は言わないが、詐欺の手口に酷似している気がする。
「明日は、私とミーシャだけど、私はもちろんバストアップしてくるわよ!」
翌日、意気揚々とキョウカは出掛け、シスやリアと同じ微妙な成果を持ち帰った。
「明日。」
「行く。」
魔乳に恋焦がれる双子が明日の参加を希望している。
こいつらの年齢で効果があるなら、それはマッサージでは無く改造と呼ばれるようなものだろう。
無駄だと思うが言っても聞かないので好きにさせる。
「魔乳!」
「魔乳!」
双子は胸が増えたと言い張っているようだが、俺のスカウターでは1ミリも増えてるようには見えない。
1~2ミリ増えていたとしても叩けばそのぐらい腫れたりするので冗談抜きで気のせいだろう。
「明日はあんたの番よ!」
キョウカが俺にもエステに行けという。
そんな女が行くようなところに行きたくない!
断固として拒否する。
「シリアスよ、彼女らは仕事で成果を出しておる。お主もこの迷宮の長として仕事ぶりをちゃんと見て評価してやるのじゃ!」
チビ助がえらそうにのたまう。
「そうよ、あんたがウンと言わなければ試用期間が終わらないでしょ。」
俺が帰れと言ってもお前が取り消すだろう。
キョウカ1人なら強要したかもしれんが、シスとリアは静かに泣くから罪悪感が半端じゃないんだよ。
「仕方が無いので明日顔を出す。」
ボソっと不機嫌そうに言うとキョウカ達が明るい顔をする。
これで俺が駄目だと言っても試用期間は終了だ。
何故かこの迷宮内でキョウカの決定は俺より重く扱われる事が多いが、真の裏ボスとして覚醒間近なのか。
次の日、俺は重い足取りでエステに向かった・・・。




