エルフの老婆
階段を降りると大きな部屋で奥の壁に石碑が張り付いていた。
「エン、少しそこで待ってろ!踏み込むなよ!」
大急ぎで嫁達を呼びに行く。
嫁を引き連れ戻るとエンはちゃんと待っていた。
「よし、皆気付いたことがあれば言ってくれ!明らかに今までと違う仕掛けだ!」
「とりあえず、あの石碑を調べてみたら?」
嫁では無いがついて来たアリスからそう助言を受ける。
「エン、石碑を調べるんだ!罠があるかもしれないから気を付けるんだぞ!」
石碑には文章が書かれていた。
『日本の首都は東京ですが、米国の首都は何というでしょう?』
「なんて書かれてるのか読めませんね。所々にあるのは記号ですか?」
リアが不思議そうに感想を述べる。
だけど、読めなくて当然、これは日本語、こっちの人から見たら異世界の言葉だ。
日本語で問題だと・・・いるのはエルフの女のはずだ!
しかし、これは卑怯だ。
読めない文字で問題が綴られているから、日本から召喚された勇者にしか解けないだろう。
「なによ。この問題!答えはニューヨークよ!」
ドヤ顔で得意気に話すキョウカだが、答えはワシントンDCだ。
日本人の召喚勇者でも危うい事が証明された。
石碑の下にタッチパネルのようなものがあり50音字でひらがなが並んでいる。
「エン!答えはニューヨークよ!」
「黙れキョウカ!答えはワシントンだ。お前、学校で習ってないのか?」
エンの魂も元日本人。
ひらがなならば分かるが、俺の命令とキョウカの命令の狭間で悩んでいる。
エンの指先がタッチパネルの上を彷徨う様は珍しい。
決心したかのようで、エンが『にゅーよーく』と答えを入力する。
当然何も起きず沈黙が流れる。
俺の配下なのに何故、俺のいう事を聞かない!!!
「なによ!壊れてるんじゃないの!エン、押し通りなさい!!」
顔を真赤にした怒りの化身からの怒号が飛び、エンが石碑を叩き切る。
細かく寸断された石碑をエンが前蹴り一発で奥に蹴り飛ばし、奥からあらわれた本来、正解なら通れるはずの通路を進む。
敵には悪いがこれでこの階層からしばらくは意味を成さないだろう。
一つの階層に10ほど石碑があったが全て切り進んだ。
10階層で計100問、敵としても結構力を入れたところなのではないのだろうか。
41階層への階段を下るとそこは大部屋だった。
そして中央には黒いフード姿の老婆。
女だと分るのは体の線の細さからだが、左右から飛び出ている耳が長い。
こいつが敵のマスターか?
「お前がダンジョンマスターか?」
「そうだね。ここまで攻め込まれるとは私も耄碌したね。」
「命乞いか?」
「まさか、どうせ最後なら戦って死のうかと思ってね。私は長く生きすぎたのさ。」
ああ、そういうことか・・・・。
「ほら、いくよ!」
女が気合を入れると氷の嵐がエンを襲う。
腕を一閃させると魔法の嵐が散り散りになる。
・・・・おかしいな、いつもなら相手の首も飛ぶのに・・・。
「ほう・・流石だね。あの石碑が切れるんだ。そのくらいはやるかね。」
次に枯れ木のような両腕から暗闇が放たれると、2人の中間で黒い渦が出来上がる。
エンの両足が浮き、穴に吸い寄せられる。
まるでブラックホールだ。
宙に浮くエンが腕を振るうと、その穴も十文字に切れる。
「あれでも駄目かい・・・そろそろ、あんたも攻撃しなよ。・・・」
エンの腕がブレると老婆の首が落ちるのは同時だった。
老婆の頭が懸命に口を動かし最後の言葉をつづる。
「・・やっと・・・死・ね・・る・・・。」
バトルなんかしかけなければ良かったのにとは言えない。
これは俺のもう一つの未来だったはずだ。
1人で生き、1人で死ぬ。
幸せじゃない未来だ。
前世の俺はどうだったか分からない。
だけど、今の俺には守るものが、幸せが出来た。
どんな事をしてもこの幸せは守り抜いてみせる。
エンにダンジョンコアを掌握させると皆がダンジョンに戻ってきた。
エンもコアルームに転送されてきた。
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見知らぬ女を1人つれて・・・。
「だ、誰だてめー!!」
俺の驚きの声にすぐさま戦闘態勢になる嫁達。
俺はキョウカの後ろへ逃げる。
「わ、私は、深き緑の森のダンジョンマスターだったカグラです。」
「ご、ご主人様はどちらでしょうか?」
そこにはあの婆とは似ても似つかぬ生に溢れた女が1人。
いや、女エルフが1人。
「あの、婆がお前なのか?えっ!もしかして魔法で若返ったの?」
俺の一言に色めき立つキョウカとシスとリア。
「なに!そんな魔法あるの?どうやるの?」
「まってくれ、キョウカ殿!その魔法は一番年上である私にこそ必要な魔法だ。」
「まって、シス!3人で使えばいいんだよ。」
わちゃわちゃと騒ぐが、カグラと名乗った女はオロオロしだす。
「待て!・・・お前、なんで生きてる?エンが首落としたよな?」
「えっと~・・・その後コアを掌握されたので生き返ったみたいです。えへへ・・・ラッキー!」
その後、カグラが血走った眼のキョウカに胸倉をつかまれて尋問されて涙目になっていたが、それはまた別のお話だ。
投稿5分前に出来ました。
今日というか明日の1時に実験回を投稿します。




