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奇跡の勇者

1ヵ月ほどしたある日、ゴルドがまた縄でぐるぐる巻きにされながら迷宮に入ってきた。

その後ろから縄の端を握るキョウカよりだいぶ年下に見える少女と騎士の鎧を着た中年。

そして騎士とおぼしき男達が続々と小部屋前に集結している。

ゴルドの顔は腫れているようだが、いつもと同じか・・・?


「若干腫れてない?」


アイカにおっぱいをやりながらスクリーンを見つめる女勇者。

既にタカトはおっぱいをもらい、シルキーに抱かれてお眠の時間だ。

ゴルドがおかしな連中と入ってきたので呼びに行ったらそのまま来たのだ。

子供組と他の嫁達も赤ん坊を抱っこしついて来た。

ミーシャはまだ長時間赤ん坊を抱くのが怖いらしく、授乳後すぐにシルキーが預かって手ぶらだ。


「だ、旦那様も飲むか?」


俺がキョウカを見ていたら、シスがおっぱいを飲むかと聞いて来た。

別におっぱいも見ていたかもしれんが、メインターゲットはアイカだ。

お前が飲ませたいだけなのに、俺のせいにするんじゃない。


「あの女、誰だ?」


「う~ん・・・見た事のない鎧よね。」


「たぶん帝国の騎士だと思います。」


答えたのはリアだった。


「帝国軍の騎士鎧に見えないが・・・。」


親友のシスは懐疑的だ。


「たぶん、新しく出来た騎士団じゃないかな。帝国軍って丈の短いマント付けてるのよね。」


確かに腰くらいまでしかないマントを付けている。

それよりなんで全員鉄仮面で顔面覆ってるんだ。

敵が紛れ込んだら分からなくなるぞ。


「あれがスゲノ帝国だとしたら彼女は年齢的に第三王女のチノ王女かしら?」


「まぁ、なんでもいいが、ゴルドは何で捕まってるんだ?」


「王女に何かしたんじゃないの。」


そうこうしてるうちに整列した騎士に顔を晒した中年の騎士が声をかけている。

なんか以前も似たような場面を見た記憶があるな・・・。


そうして中年騎士と少女とゴルドが小部屋に入った。

無視するわけにもいかず声をかける。


「ゴルド・・・なんで簀巻きにされてんだ?」


「と、友よ・・・すまん・・捕まった・・。」


だから、その言い方だと俺が黒幕みたいに聞こえるだろが・・・。


「誰か説明しろ!」


中年が進み出ようとしたところを少女が手で制し話始めた。


「私はスゲノ帝国、皇帝が娘チノである。お主がこの迷宮の主だな。」


「誰もそんな事きいてねえだろ!なんでゴルドが簀巻きになってんのか説明しろや!」


「うむ、スーより聞いてはおったが、傍若無人な物言いは止めた方が身のためぞ。」


「黙れ!馬鹿女!そこのおっさん、お前が説明しろ!」


「この男には横領の疑惑がかかっている。」


一言で理解出来たぜ。

横領か・・・黒なのか白なのかどっちだ?

ゴルドの場合黒でも不思議じゃないからな。


「横領ってゴルドってお前の国から金もらってたのか?」


「横領したのは金ではない。」


「こ奴は私のチョコを盗ったのだ。」


「そうなのか?」


「ち、違う・・・」


「違うと言ってるが・・・」


「そんなはずは無い!スーに聞いたらスーの方のチョコが3枚多かった。平等に分けていれば3枚の差にはならん!」


「確かにそうだが・・・」


「それをこ奴は!!!!」


チノ王女が苛立ち紛れにゴルドの顎を蹴り上げるとゴルドの体が宙に浮いた。

そこから左右の連打と肘による搗ち上げが加わり、浮いたままのゴルドが躍るように宙を舞う。

おまけに倒れる間際に顎を蹴り抜かれ、脳天へ踵が落とされた上に踏みつけが決まる。

ゲームの10連コンボのような鮮やかな技の連打にしばし見とれた。


なんだ、この怪力王女は・・・。

ボロ雑巾に変えられ虫の息のゴルドだが、まがりなりにも勇者だぞ。


「な、なぁ・・・そんなに強いなら勇者召喚する必要ってあるのか?」


「ふん!私は先祖返りだ!勇者の血筋には時折、先祖の勇者に近い力を宿すものがおるのだ!」


なるほど、それでゴルドが逃げても捕まるのか。

仮にも勇者のゴルドがちょいちょいボロボロにされるのはおかしいと思ってたんだ。


「で、そこからどうするつもりだ?」


「こ奴の命が惜しければ私にチョコを渡せ!」


「なんだと!このクソガキ!!!人んち来て物を寄こせだぁ!!!てめーは押し込み強盗か!!!」


「て、帝国の皇女である私に対して何たる無礼だ!」


「黙れ!!!お前等こそ、迷宮内で俺を怒らせて生きて帰れると思っているのか!!!」


「ひぁ!」


「ま、待ってくれ友よ・・これは悲しい誤解だ・・・誤解なんだ・・・。」


俺の怒声に中年騎士の後ろに隠れた皇女が悲鳴を漏らすが、息をふき返したゴルドがそれを遮り弱々しく語りだす。


「た、たしかにスー王女以外へのチョコの枚数は3枚少ない・・・。」


「ほれ、見た事か!私は・・。」


「だが、それは全て違う種類のチョコだったはずだ。私が手にしたチョコは全部で300枚、

だが種類で分ければ100枚づつが3種類だ。3人で分けると1種類づつ1枚余るのだ。

それがスー王女のチョコが3枚多い理由だ。」


「な、なんだと、ならば何故そう言わん。」


「言ったところで事実は変わりません。皇女の心の痛みを私も背負うべきだと思い、甘んじて責めを受けました。」


な、なんだとゴルドがいい人っぽい!

まるで本物の聖職者みたいだ。

俺が衝撃に慄いていると双子の片割れがゴルドを指差す。


「胸を見てる。」


ぼそりと呟くように言われ確認すると、確かにゴルドは帝国の姫に話してはいるが顔を見ておらず、視線は年の割には豊かな胸に釘付けだった。


「奇跡を信じている。」


「サイテーね。」


「サイテーだな。」


「ゴミですね。」


「あたいが絞めてやろうか?」


誰が何を言ってるかは大体わかるがミーシャが絞めたら洒落にならんだろう。


「待て!ゴルドは自分の体を張って賭けに出たんだ。俺達がその結果に口出しするわけにはいかん。黙って見守るんだ。」


「どうせ駄目。」


「間違いない。」


双子は駄目だと言うが宝くじだって買わなきゃ当たらないんだぞ。

夢を掴むため行動してる時が、夢を掴めるかもと考える時が一番楽しいんだ。

奇跡は起こるから奇跡なんだ。

起こらなければそれは夢でしかない。


チャキッ、と音がしてゴルドの視線が中年騎士の剣で防がれた。


「貴様!!どこを見ている!!!」


ゴルドの視線が中年騎士にバレた!

激オコだ!笑顔なのに顔中に血管が浮かんでるぞ。

それで気付いた姫が赤い顔で胸を隠す。

聞こえるはずの無い試合終了のゴングの音が聞こえる。

カン!カン!カン!カン!カーン!

幻想の音が響くと青い顔をしたゴルドが必死に言い訳を並べているが、言い訳は聞いてもらえるから言い訳になるんだ。

聞く気が無い者には意味が無い。


「まぁ、待て。今回はお互い誤解があったようだから、そこまでにしておけ。」


「な、なんだと私に・・・帝国の皇女に引けと申すのか!」


「そうだ。その代わりこれをやろう。」


俺はチョコ3種類を各10枚購入し小部屋に転送した。


「こ、これは・・・」


「お前の望む物だ。それに貴様等の命もつけてやる。だが二度目は無いぞ。」


「ふ、ふん!こちらこそ、そ奴がちゃんと働くならこんな所に用は無い!帰るぞ!」


縛られたままのゴルドを放置し皇女達が撤収した。

エンを転送しゴルドのロープを切らせる。


「あ、ありがとう・・ございます・・・?」


初めてエンを見て混乱気味のゴルドぎこちなく礼を述べる。

その間に購入したサングラスをゴルドの元に送り、エンを回収する。


「ゴルド、次からはこれを使って視線を隠せ。」


「・・・すまない、友よ。」


「気にするな・・・残念だったが、改良点は見つかったんだ。一歩前進だ。」


「そうだな・・・。」


力無くトボトボと歩くゴルドを見送り、彼がまた何かやらかす事を期待する。


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