やってきた禿げ達
母親になると女は変わるらしい。
あれだけガツガツしていたキョウカ達だが今は赤ん坊に夢中だ。
初めての母乳を赤子に飲ませた後は、3人でローテーションを決め24時間中8時間は常に1人が赤子のそばにいるようにしている。
夜泣きにも対応でき完璧な布陣だが俺の用意した粉ミルクと哺乳瓶の活躍の場が無い。
ミーシャが時折羨ましそうに見ているがすぐに仲間に入るので、それまでの辛抱だ。
赤ん坊が生まれて1ヵ月ほどが過ぎ、ミーシャの出産まで1~2ヵ月程度だろうという時に久しぶりにゴルド達が遣って来た。
地上のゴタゴタの決着が着いたのだろう。
「結局、迷宮討伐に参加した貴族家は全てお取り潰しとなりました。一族の男子は全て斬首されています。」
開口一番カージャが報告してくれたが軽く引く内容だ。
もっとも、80万いた兵士の20万が先の魔王国戦で亡くなっている事を考えれば、
今回も同じくらい亡くなっているので、この短期間で国の兵士数が半減している事になる。
当たり前と言えば、当たり前の処置かもしれん。
「それもありますが、亡くなった兵士への年金や遺族への見舞金等で膨大なお金が必要となったのです。が・・・」
「馬鹿貴族達には払えなかったわけか。」
「そうです。さらにその調査に赴いた財務担当が不正な税収や横流しの資料等を発見しましたので・・・・。」
成るべくして成ったわけだな。
「はい、これでむこう10年は周辺国へ攻め入る等の馬鹿な案は出ないでしょう。」
「そうか、・・・・それでチョコの探索はいつから始める?」
「1ヶ月後と言いたいのですが、スー王女が騒いでおりまして3日後から始めたいと思います。すぐにでもチョコを持ってくるように言われております。」
「トンデモねえ残念王女だ。初回は少なめにして持って行った方がいいな。馬鹿が荒したせいでとかなんとか言い含めたら二度とこんな真似はしなくなるだろう。」
「それとスゲノ帝国の皇女とピットン王国の王女もこの迷宮の管理に手を貸したいと申されまして・・・・。」
「知らん奴等が来るのか?」
「いえ、それはキョウカ殿の管轄となっているので平気ですが、死刑囚を提供する代わりにチョコが欲しいと・・・。」
「残念王女が増えたわけか。」
「まだ幼いのでスー王女のようになるかはこれから次第ですね。」
恐らくあの馬鹿王女が自慢でもして広めたんだろう。
「それなら構わん、3等分して送ってやればいい。今後はいつもの3倍の量を渡そう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・」
ゴルド達との会談を終えた俺は闘技場に向かう。
最近こちらではリアも含め嫁達が鈍った体を鍛え直すために運動していた。
あのシスでさえ少し太ってしまったのだ。
エリクサーで完全回復したこともあり、当初からかなり激しく動いている。
今の時間はリアとキョウカが汗をかいている。
「なぁ、DPストア探せば何かあるんじゃないのか?」
俺のこの一言に2人の動きが止まる。
「な、何かって何よ!」
「さあ?でも何かありそうじゃね?」
コソコソと2人で話すと急いでどこかに行ってしまった。
おおかたシスと3人でDPストアの商品を探すのだろう。
残されたエンが1人で黙々と刀を振るう姿は哀愁をさそう。
そもそもゴーレムだし練習するよりはアリスの迷宮で経験値稼いだ方がいいんじゃないのか。
次に草原に行くと、シルキーが1人で子供達を見ていた。
例の如く双子のボール遊びに翻弄されるチビ助。
何気にこいつが一番動いてるかもしれない。
相変わらずメメは一心不乱に草を毟っては口に入れている。
満腹中枢が壊れているのだろうか。
「よーし、チビ共!ゲームするから集まれ!!!」
翻弄されるチビ助があまりにも哀れなため、子供達を呼び寄せゲームをすることにした。
「な、何をするんじゃ?」
興味津々で期待されるとプレッシャーがあるなぁ。
「これだ!」
俺が取り出したのは「教頭危機一髪!」例のゲームの亜種で豪華な椅子にある穴にナイフを突き立て、
当たると人形代わりにカツラが吹き飛ぶ。
世の高齢男性の悩みを一心に集め、禿げを馬鹿にしていると社会問題にまでなったおもちゃだ。
何故、ナイフを突き立てるとカツラが飛ぶのかその関係性は不明だし、
何故校長では無く教頭なのかも分からないが、そういったおもちゃなのだから仕方が無い。
俺は取り出したおもちゃのカツラをセットし皆に見えるように説明しながらナイフを突き立てる。
8度目のナイフで当り、教頭のカツラが吹き飛び、子供達から歓声があがる。
「やり方は分かったな?当てられたら俺からご褒美を出すぞ!」
この一言に子供達は色めき立ち、その歓声にメメも引き寄せられ寄って来た。
「よし、じゃあ小さい順でやるぞ。始めはお菊からだ。」
小さい手でプラスチックのナイフを握り懸命に考えている。
しばらくすると狙いが決まったのか穴の一つに勢いよく差し込んだ。
「ん。」
だが無情にもカツラは飛ばず。
1度で吹き飛ぶにはかなりの運がいるから、これは当然と言えば当然だ。
「残念だったな。次に期待だ。それで、次は・・・。」
「儂じゃ!!」
チビ助が言うが早いかナイフを差し込む。
考えるとか躊躇うとか無いのかこのチビ!
だが、当たらずカツラはそのままだ。
「何故じゃ!!!」
チビの戯言を無視して双子にそれぞれナイフを渡す。
首を傾げ考えた後2人同時にナイフを突き込んだ。
「・・・。」
「・・・。」
そして、お菊の番と思ったら触手でナイフを握ったメメが教頭のカツラを襲う!
カツン、カツンとプラスチック同士の無機質な打撃音が響く。
「ふん!そんな事をしても無駄じゃ!」
メメのナイフをチビ助がひったくり、順番を無視して突き入れる。
カツラは飛ばないがメメの触手がチビ助を襲った。
「いたい!!こ、こやつまた儂の尻を襲いおった!!」
ペチリペチリと情けない音の割にはチビ助だけには効果絶大だ。
特攻効果でもついているのか?
尻を抑えて逃げるチビ助を触手をあげて威嚇するメメ。
本当に和解してるのかと思えるような光景だ。
そして、俺が目を離してる隙にお菊と双子が連続でナイフを突き入れる。
誰ので当たったのか分からないが吹き飛ぶカツラ。
そこにゲームの勝者はいなかった。
「この勝負はドローだ。勝者無しのため全員参加賞だ。」
全員分のプリンを購入し渡す。
ちゃんとシルキーにも渡したぞ。
えらく恐縮してたが無理矢理食わせた。
その後は全員がこのおもちゃを気に入ったため、1人に1つ買い与える事になった。
皆が抱えながらナイフを突きさし、カツラが飛ぶと得意そうに見せて回っている。
メメだけはゲームのやり方を理解してないようで執拗にナイフでカツラを叩いていたが・・・。
そろそろ暇つぶしに砂糖吸収に手を出そうと思ったところで久々の侵入者警報が鳴った。
コアルームに行き、まずはアラームを切る。
子供が寝てたら起きるからだが、もう遅い気がする。
後でキョウカが怒り出すかもしれん。
スクリーンを点けると、いつぞやのイレギュラーを彷彿とさせる連中が集合していた。
違いはちゃんと服を着てることだけだが、全員ツルツルのピカピカ頭だ。
俺はふと思いつき、10万DPでスポットライト機能を追加し、自動追尾モードにし奴等の頭に照射した。
おおっ!!!すげーぞ!本当に反射する!
画面の中でピカピカ光る頭で混乱している禿げ達。
この素晴らしい喜劇を嫁達にも見せようと思い呼びに行く。
「な、ないよこれ!ぷっ!ふふっ・・・あ、あんた私達を笑い死にさせる気?」
皆が笑顔でスクリーンを見ている。
出産が近づきナーバスだったミーシャもケラケラ笑ってる。
「くふっ・・だ、旦那様・・もう止めてくれ・・・そろそろキツイ・・くっくっくっ。」
皆が堪能したようなのでライトを切り、お笑い集団に声をかける。
「よく来たな!お前等、どこの劇団員だ?」
「き、貴様が迷宮主だな。我々はナニ教国の者だす。」
禿げの返答に皆が笑い転げる。
駄目だ!こいつら、かつてない程の強敵だ。
「す、少し待ってくれ、いやライト当てるからもう一度皆で言ってみてくれ。出来れば動き回りながら。」
「や、やめるだす。なんか熱いだす。」
そりゃあ、スポットライトを最強レベルにして照射してるからな。
熱を持つほど頭が光り輝いて、慌てた禿げ共が騒ぎ出す。
「あ、あんた・・・や、やめて・・・・」
キョウカがピクピクしてる、限界なようだ。
ライトを切り、この愉快な男たちが見えないようにスクリーンには別なところを映す。
「はぁ、はぁ、はぁ、もうちょっと待ってくれ。今、復活するから。」
「何をしてるだすか?」
しゃべるなお前!
間違い無く全員の腹筋にダメージが入っているな。
恐ろしい相手だ。
「よし、いいぞ。ぷっくくくっ・・・す、すまん。お前等何しに来たんだ?ゴホッ!もし雇って欲しいなら言い値で雇うぞ。」
こいつらを手に入れたら、この世界のお笑い業界を牛耳れる気がする。
思い出すだけで笑いが込み上げる。
「雇う?何故我々がお前に雇われなきゃならないんだすか?」
不思議そうな声だすんじゃねえ!
落ち着いて来たのがぶりかえすだろうが!
「いや、だから何しに来たんだお前等?」
「愚問だすね。ほんとに分からないんだすか?」
その口調で格好つけようとするな!
よけい滑稽だろ!
笑いの神が降臨してるのかよ!
「い、いいから・・よ、要点だけを話せ!余計な事は言うんじゃねえ!」
「ふっ、忙しないだすね。我々ナニ教国の者が迷宮に来ると言えば答えは一つだす。この迷宮を踏破させてもらうだす!」
俺の脳裏に頭を光らせながら指を差しキリリとした表情で宣言する奴等の姿が浮かぶ。
肺の中の空気を絞り出しながら笑い転げ、声だけでダメージを与えるこいつらに戦慄する。
「わ、わかった。今から来るのか?」
「今日は下見のつもりだっただすが、迷宮主に見られていると分かったら下見も意味が無いだす。明日から全軍で侵攻するだす。」
「そ、そうか、が、がんばれよ。」
「変な奴だすな。でも、手加減はしないだす。首を洗ってまっていろだす。」
「い、いいから、もう帰れ。」
最強のお笑い集団が帰っていった。
キョウカは床の上に大の字に倒れ虚ろな目で痙攣し、シスとリアはかろうじて立ってはいるが未だに肩が震えている。
見ると人一倍笑い転げていたミーシャがいない。
「ご主人様、ミーシャ様の陣痛が始まりました。」
不思議がる俺達に駆け込んできたシルキーが伝える。
どうやら笑いすぎて出産が早まったようだ。
急いで家に戻ると既に出産は終わっていた。
「おめでとうございます、主様。元気な女の赤ちゃんですよ。」
アンがおくるみに抱いた赤ん坊を見せてくれた。
角が無いな。
「角のある悪魔族も赤ん坊の頃は角はありません。成長するにつれ生えてくるんです。」
不思議そうにしている俺にアンが教えてくれる。
ミーシャは驚くほどケロッとしていた。
出産に時間がかからなかったためか、その自身の驚くほど高いステータスのためかは分からないが、ベットに寝てるのが嫌らしく立ち上がろうとしてボナとラキッシュに止められている。
「ミーシャ、念のためにこれ飲んでくれ。」
エリクサーを取り出しミーシャに渡すと素直に飲んでくれた。
「あたいの赤ちゃん見せてくれ!」
安産すぎて生んだ実感がわかないのだろうか妙に慎重な感じだ。
「それでは授乳しましょう。初めての母乳は母親が与えるのです。」
これは地球でも同じような事を聞いたことがある。
本当かどうか知らないがそれで赤ん坊に免疫力がつくとかいう話だ。
「あ、あたいが抱いて平気か?潰れたりしないかな・・・。」
「じゃあ、俺が抱いてミーシャが飲ませりゃいいだろう。」
ミーシャは自分のあり余る力を気にしているだけだったが、俺の提案に笑顔が戻る。
俺が赤ん坊を抱きミーシャに寄り添うと、ミーシャが胸をはだけて近づける。
小さい口をくすぐるようにすると吸い付きグビグビ飲みだした。
「おおっ!飲んでるぞ!こんなちっちゃいのに!なんか変な感じだ。」
「小さいくせにいっぱい飲むな。流石、小さなミーシャだな。」
飲み終わり口を離す赤ん坊を抱き上げ、背中をさするとケプッ!と可愛らしいげっぷをした。
「主様も赤ん坊の扱いが上手くなりましたね。」
ボナに赤ん坊を渡すとそんなお約束の言葉がかけられた。
流石にこの短期間で5人目だからな。
嫌でも上達するだろう。
「なー、名前どうする。」
「もう考えてある。名前はローズだ。綺麗で棘のある花の名前だ。ミーシャみたいに美人で強い子になるぞ。」
俺がそういうとミーシャが布団に潜ってしまった。
さっきは歩き回ろうとしていたくせにおかしな奴だ。
アンとシルキーに後を任せ、嫁達と入れ違いに部屋を後にする。
後ろから祝福の声がミーシャと赤ん坊に投げかけられているのが聞こえる。
さて、これで明日の戦いは負けるわけにはいかなくなった。
始めはお笑い集団として捕まえようかとも思ったが、憂いを残さないために確実に始末しよう。




