三人の産婆
「あんたが私達より早く起きてるって何か新鮮ね。」
朝飯の支度をしていた俺に起きてきたキョウカがそう声をかける。
嫁が3人妊娠したことにより、俺のHPは夜寝ても減らなくなった。
今まで朝食はリアとシスが準備していたようだが、今朝は普通に起きれたので俺が準備したのだ。
「悪態ついてないで席に座って食え!もう激しい運動は禁止だからな。シスは柔軟も禁止だ!」
「まだ平気だと思うが?」
「駄目だ!」
シスの抗議を一蹴し安静にするように伝えるがどうすればいいのか分からない。
まだお腹は大きくなっていないが考える事は山ほどある。
「食べながら聞いて欲しいが、キョウカ、シス、リアの3人が妊娠したわけだが、
産婆というのか医者がここには1人もいない。直前になって慌てたくないので、まずはそれをどうにかしたい。」
「カージャさん顔が広そうだから相談してみなさいよ。」
「外の人間を入れたくないが最悪それしかないな。」
「ならば、儂が魔族村の奴等に聞いてやろう。」
口の周りにジャムを付けたチビ助が得意気に言う。
確かに300人もいれば産婆が1人や2人いてもおかしくはない。
魔族村への確認をチビ助に頼み、駄目ならカージャへ依頼することにした。
「それと今はいいが、お腹が大きくなれば人手が足りなくなる。
お前達の世話もそうだがまともに動けるのは俺とミーシャだけだし、
ミーシャが懐妊すればダンジョンの最高戦力がエンだけになる。」
「あたいは平気だぜ!」
自分は妊娠しないと言っているのか妊娠しても暴れると言っているのか分からないが、後者に聞こえる。
妊娠したらいくら強くても戦いに送り出すわけないだろ。
「駄目に決まってるだろ!今は何も無いがダンジョンバトルを吹っ掛けられたら考える必要があるな。」
俺の駄目出しにミーシャが嫌がるがこればっかりは駄目だ。
それと家事も考える必要がる。
今まではシスとリアが率先してやっていたが、一気に子供が3人増えるのだ。
「家の家事手伝いは新しいモンスを召喚し任せる事にする。」
「なに?家妖精ってやつ?シルキーとかブラウニーとか?」
「シルキーの方が無難だと思うのでシルキーにする。とりあえず4人召喚して1人づつお前達に付けて、後の1人は総合的に家の事をしてもらう。」
「4人も増やすのか?」
シスが自分には不要だと言ってくるが、そんなわけは無いだろう。
「それに伴い、家の改築と大部屋の拡張を行おうと思う。」
家の方は正直このくらいの狭さの方が使い勝手がいいのだが、
子供部屋も必要だし、召喚するシルキー達の部屋や産婆の部屋も必要だろう。
風呂場で転ぶとマズイから、それも何か考えなければならない。
「落ち着きなさい。まずはシルキーの人数をちゃんと考えなさい。
各人に1人つくとして3人、それに家の仕事は1人じゃ駄目よ。
2人ね。それに子供相手に1人と畑の方に専属で1人。初期に必要なのは7人よ。」
「おおっ!初めてアリスが役に立ってる気がする。」
「馬鹿な事言わないで!その7人が最初のシルキーだとしても倍になるくらいは考えておきなさい。
それと産婆の住む場所と出産専用の部屋も別に用意するの。産婆が早く来てくれたら道具は言い値で揃えて!それと・・・・」
アリスに言われるがまま家の増築とシルキー達の部屋、それと風呂場の改装を行う。
段々いい感じになってきたぞ。
「朗報じゃ!産婆がおったぞ、しかも3人もじゃ!それに見習いが1人おる。」
チビ助がドヤ顔で報告してきた。
お前がドヤる必要は無いが確かに朗報だ。
「うむ、それならお腹が目立ち始めたら、交代で1人いてもらうようにしたらいいかな?」
「いや、2人と見習い1人が住み込みで来るというておった。」
「むこうは平気なのか?」
「子供じゃあるまいし、駄目なら駄目で言うてくるじゃろ。」
まぁ、確かにそうだな。
それよりは7人のシルキーの召喚だ。
普通の召喚はGとオーク以来だな。
シルキーは戦闘能力が無いくせに1人300DPもする高額妖精だ。
その代わり、時間停止のアイテムボックスと掃除、洗濯、料理、裁縫の家庭内スキルを初めから所持している。
「「「「「「「ご主人様、宜しくお願いします。」」」」」」」
7人もいると〇〇戦隊みたいだな。
いや最近だと魔法少女も数で勝負してるか。
見ため中学生くらいの女の子で全員白いワンピースのような物を着ている。
が・・・誤算が一つあった。
7つ子のように見た目が一緒なのだ。「見分けがつかん。・・・」
「そういうものよ。オークの見分けもつかないでしょ。」
アリスにそう指摘されると言い返せない。
シルキー達には個人の個室と仕事中の控室を渡し、嫁達に子供が生まれるからその世話と家の事を頼んだ。
「追々できるようになればいいから、しばらくは好きにやってみてくれ。あと分からない事は誰かに聞いてもらえばいい。聞かれた者は出来るだけ教えてやってくれ。」
そういうと7つの頭が首肯する。
後は魔族村からやってくる産婆達だが、これは準備が出来次第チビ助経由で俺の耳に入る事になった。
なにもかも手さぐり状態だが何もないより、ずっといい。
きっと無駄にはならないはずだ。
家の増築をして6ヶ月ほどが過ぎた。
3人のお腹が大きくなりはじめた頃にミーシャも懐妊した。
ほぼ毎日一緒に寝てたらそうもなるか・・・。
ミーシャはまだ大きくないお腹を撫でて嬉しそうだ。
3人もミーシャにおめでとうを言っている。
これで4人が妊娠した。
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これで4人が妊娠したのだ。
地球基準で考えたらとんだクズ男だが、今の俺にとっては非常に重要な事だ。
これで俺はしばらく1人で寝る事が出来る。
HPを減らさずに朝を迎えられるのだ。
自由・・・・久方ぶりに自由を感じる。
ミーシャは酒も禁止したのでストレス発散の場がなくなり少し機嫌が悪そうだ。
なので無茶しないように一緒にいてやるようにした。
当然、他の3人の嫁からも要請が来たため毎日1時間程度は2人っきりの時間を作るようにしている。
ミーシャ以外の3人は単純なものでお腹を撫でて子供の名前を考えるくらいで時間が潰せた。
が、ミーシャはまだお腹も目立たず、元々が子供のようにジッとしてるのが苦手だ。
「ほら、ミーシャもお母さんになるんだから、お母さんらしくしないとな。」
「お母さんらしく・・・う~ん・・・。」
更にリバーシーで分かるように地頭が悪いわけではないので誤魔化してもバレる。
今までは深く考えない性格と奔放さに助けられていたが動けない代わりに頭を使いだした。
爆発しないように細心の注意を払い相手をする。
そんな中、そろそろという事で魔族村から産婆さんがやって来た。
「迷宮主様、産婆のアンです。」
「ボナと申します。」
「ら、ラキッシュです。」
三つ指ついて頭を下げているのは例の俺を睨んでいたダークエルフの奴等だ。
産婆さんだというので犬の婆さんがくるものだと思っていたが、来たのは嫁達と見た目変わらぬ女共だ。
全員がきわどいボンテージファッションだが、種族特性で女王様でも持ってるのか。
「う、疑うわけじゃ無いんだが、産婆としては大丈夫なんだよな?」
書物で学びましただったら送り返そう。
「お任せ下さい。私とボナは産婆として100年以上働いております。ラキッシュも私達程ではりませんが、もう20年は産婆として働いております。」
「ベテランじゃないか。それじゃあ、100人や200人は取り上げてるんだな?」
「他種族の方にも応援で行きますので1000や2000では効きません。
私とボナでそうですね・・・5~6000人ほどでしょうか。
ラキッシュでも200人ほどですが、単独ではまだ100名いかないかと・・・。」
長命種だからベテランどころの話じゃないんだな。
いいぞ!力強い!
チビ助が胸を張ってるが、今回ばかりはよくやったと褒めておこう。
「よし!必要な物は何でも言ってくれ!必ず手に入れてみせる。それと3人の部屋だが個室と母屋での待機用の部屋を用意してある。あとで案内させるからまずは家に慣れてくれ。」
「有難う御座います。ですがその前に奥方様達とお話をさせて頂けないでしょうか?今までの食生活や生活習慣等を把握しておきたいので・・・。」
「分かった。それでは昼食時に紹介するからその時どうするか決めよう。」
「御意!」
シルキー達に連れられてダークエルフが退出するとドヤ顔のチビ助が近づいてきた。
「フフン!どうじゃ!今回ばかりは儂のお陰じゃろう!」
運もあるはずだが、ここまでスムーズに出来たのは確かに、こいつの洗脳のお陰かもしれん。
「どこら辺がお前のお陰か知らんが、よくやった!」
「カーァ、カッカッカッ!!その調子で儂を崇め讃えるんじゃああ!!!」
水色髪の頭を撫で褒めると鼻息荒く妄想を口にする。
メメより弱いくせに調子に乗りすぎだ。
「今回の事はよくやった・・・だが、調子に乗るなよ。」
頬っぺたを引っ張りながら釘を指す。
「いひゃい・・なひをしるんじゃ!」
「だが、今回は本当によくやったぞ!あいつ等があれほど優秀な産婆だとはアレクにもなにか褒美じゃないけど渡しておく方がいいかな。」
「アレクは既に村長の座にいないぞ。ダークエルフの女共に蹴落とされたのじゃ。」
赤くなった頬っぺたを撫でながらチビ助が魔族村の現状を語る。
「なんでやねん!今までアレクが代表で問題があったのか?」
「無いのう。ただ、しばらく前に揉めとったから何かあって替わったのじゃろ。
あの村の事はあの村で決めるべき話じゃ。口出しするのはこちらに害がある時にせい。」
あのダックスフンドが村長の座から引きずり落とされた。
俺はこの時に確認すべきだった。
何が魔族村で起きたのかを・・・。
知ってた人は挙手!




