ゴルドの帰還と嘘の報告
一つ目参謀の首を切ってから数日後にカージャがやって来た。
奥さんを連れて。
結婚式に出られなかった俺に挨拶させたいといって奥さんを伴い小部屋に来たのだ。
奥さんの名はテトラ。
小柄で普通体型の中々可愛らしい人だが、なんと辺境伯の次女なのだという。
年齢はカージャの4つ下で釣り合ってはいるが貴族令嬢としては年齢は高目だ。
だが、カージャはそんなの関係無いとばかりに熱をあげており、奥さんの方も満更ではない様子だ。
一緒に来たゴルドが血の涙を流しそれを睨んでいる。
2人の馴れ初めは5年前に当時盗賊に襲われていた彼女の馬車を通りがかったカージャが助けた事にある。
それから奥さんはカージャに惚れ、元々遅れていた婚期が遅れに遅れ、
ついに彼女の実家が折れる事でカージャとの結婚が実現したのだそうだ。
勇者っぽい話と王道のテンプレを走破し幸せをつかみ取ったカージャ夫妻に女衆から黄色い声があがり、
俺は茶菓子を食べ切ったメメにお替りを出していた。
「ところで、話は変わるが魔王が人族に全面戦争をしかけようとしている。」
サラっと言ったが爆弾発言なのだろう。
カージャは驚愕し、ゴルドと奥さんはオロオロしだした。
「まぁ、待て。慌てなくてもすぐじゃない。自称四天王の3人と参謀を始末したから多少は遅れるはずだ。」
俺のとりなしに落ち着きを取り戻したカージャが奥さんを宥める。
ゴルドが挙動不審なのと奥さんに聞かせる話でもないため、この話は明日にでも再度する事にした。
翌日、キースも含めて3人にこれまでのあらましと事の顛末を話す。
それと、同時に魔族の首をキョウカ、カージャの手柄として、
情報の方をゴルドとキースの手柄として差し出す事を提案する。
恐縮するカージャに結婚祝いの一つだといい、遅れて攻め込んでくるであろう魔王軍の対応を話す。
敵兵力はおよそ5万の魔族だが、なりふり構わず攻撃してくるとその数は10万に増える。
攻撃目標のダラッダ国の兵力は騎士が3万人ほどで兵士が約80万人、それに勇者が7名ほどになる。
数だけみればダラッダ国の方が圧倒的に有利だが、魔族の方が能力的には圧倒的に強い。
勇者、魔族、騎士、兵士を強さで比較すると、
勇者は兵士50~200人分の強さ、魔族は兵士20~50人分の強さ、騎士は兵士2~5人分の強さでしかない。
中には特別強い者もいるがそれらを考えなければ大体そんなものだという。
くわえて騎士の内の1万人は老齢だったり高位貴族の子弟で戦いに耐えられるような者達ではないという事だ。
勇者のふり幅が大きいのはあるレベルを境に覚醒ともとれる状態で飛躍的に能力が伸びるためでもある。
冷静に分析すると魔族は兵士150万人分の兵力、ダラッダ国は兵士90万人分の兵力と見積もれるだろう。
2倍近い兵力でこられたら守りを固めても勝ち目は無い。
1000人単位で集結しているなら、それを狙い上位魔法の乱れ撃ちでもして適度に間引いていくのが一番建設的だ。
それと、恐らく俺も魔王軍の攻撃目標になるのではと予想する。
自軍の幹部クラスを何人もやられているのだ、見逃すはずは無いだろう。
逆に威信をかけて来る可能性もある。
迷宮への進行はダラッダ国と同時か先になるだろう。
「ダラッダ国を先にとは考えられませんか?」
カージャのいう事はもっともだ。
通常なら俺は地上に出られないわけだから、先に小うるさいダラッダ国を潰してから来るのが定石だろう。
「無いな。自分の幹部達をやられて後回しにするような奴であれば全面戦争自体をやるとは思えん。
逆に俺を全力で潰してからと考えている可能性の方が高い。
ただ、兵糧がそこまで多くは無いようだから、人族からの略奪で賄うつもりだと思う。」
「そうすると半分に分けての同時進行ですか?」
「そうだな。地上を減らしすぎると逆にやられてしまうから、そのくらいかそれより多いだろう。
だから、迷宮に来るのは2万~1万と見るのが妥当だろう。」
「勝てますか?」
「俺は負ける戦いはしないんだよ。お前等こそ地上は平気か?」
「やるしかありませんね。とりあえず、この件を持ち帰り王に話す必要があります。」
「いざとなったら奥さん連れてこいよ。保護くらいはしてやる。」
「わかりました。それでは魔族の首を頂いていいですか?」
「わかった。キョウカ首を渡してやってくれ。それとゴルドお前に少し話がある。」
キョウカが首の受け渡しを始めた横でゴルドと話す。
「実はロボット型ゴーレムを開発している。」
「ろ、ロボットだとガンダヌみたいなやつか?」
「ちょっと違うが高機動型の空を飛べる奴だ。ぶっちゃけどのくらい戦力になるか分らんが、乗るつもりないか?」
「いいのか?友よ!」
「いいさ。ちょうどいい試運転になる。迷宮内だと使えないしな。」
「そ、それは・・・なんのために作ったのだ?」
「夢のためだ!男の夢のために作った!あとは実績がほしい。もう一度聞く。乗るつもりあるか?」
「・・・・いいだろう。友の夢を預かろう!」
「分った。準備しておくから1週間ほど時間をくれ。それといきなり敵陣深くに突っ込むなよ。プロトタイプの実験機だから。」
「了解だ、友よ。それではまた来る。」
3人が迷宮から出るとキョウカの尋問が始まった。
「あんた、どういう事かしら?ちゃんと説明してくれるわよね。」
「ゴルドの戦闘力はあの中で最弱だ。このままでは死ぬ可能性が高いからゴーレムロボで守らせる。」
「そうじゃなくて、いつ作ったのかしら?そのロボ・・・。」
「キョウカ・・・お前は素直だなぁ・・・これから作るに決まってるだろ。」
「えっ!あっ!そうなの?」
呆気なく信じた。
これも俺の日頃の行いの良さだろう。
これを機に新たな俺のロボの開発を進める。
2号機は脱出装置を自爆する際に範囲外に転送するように調整すればいいだろう。
ゴルドはあれで打たれ強い男だ、それだけあれば生き残るに違いない。
迷宮の方は4~9階層の迷路を2~3階層と入れ替え戦闘が4階層に到達したら酸素濃度を1%にしよう。
これで細菌か微生物でもない限り生きて迷宮を出る事は叶わないはずだ。
後は爆発力のテストがしたいからカージャに作った爆弾を持って行ってもらおう。
敵の部隊の真ん中に仕掛ければ労せず戦果を得られるから協力はしてくれるだろう。
それから・・・・。
「なんか、楽しそうだな。」
「事実、楽しいんでしょうね。ほら、口の端が吊り上がってるじゃない。
後はほっといても勝手になんとかするわよ。」
3ヶ月は瞬く間にすぎた。
その間カージャはダラッダ国に働きかけ防衛線の構築に成功。
俺の持たせた爆弾も結構な被害を魔族側に与えていた。
そしてゴルドは本人の希望で光輝く装甲を付け直した2号機で敵陣に突入。
1度目と2度目は戦果を持ち帰ったようだが、如何せん目立つ的となっていたため、
調子に乗って敵陣深くに突入した3度目で敵の攻撃にさらされた挙句、自爆による大爆発を起こし本人は生死不明の行方不明になっていた。
そして俺の迷宮へは予想通り2万人の魔族が侵攻してきた。
1階層のG達も通路の狭さを利用し敵対列の中央付近からの神風アタックを繰り返し、2000名程を死傷させていた。
このまま続けたら5000名程までなら死傷可能だったが300億匹を切った時点で退避させ、のこりは2~7階層の罠で勝負をする事にした。
多種多様な生物のキメラである魔獣族も所詮は生物、酸欠には勝てない。
迷路中ほどの4階層に差し掛かった時点で2~7階層の酸素濃度を1%にしてやったら、面白いようにバタバタ倒れた。
これにはチビ助が大喜びし嫁達が盛大に引いていた。
結局、魔族側は今回の迷宮への侵攻で1万8000人を超える死者を出し、
五体満足で戻った者は数名のみ、残りは負った傷が悪化し本国への帰還を余儀なくされた。
地上側はゲリラ戦から一転し防衛線となるが、事前に数を減らした事と迷宮での敗走が元で1ヵ月ほどで魔族側が撤退してしまった。
この全面戦争で魔族側の死者は3万人を超えるが人類側も騎士、兵士を含め20万人の死傷者を出し、
終わってみれば双方が甚大な被害を出しただけとなった。
魔族側が撤退し2週間ほどするとゴルドが戻ってきた。
敵陣深くで孤立したが、今まで山中で独り逃げ回っていたようだ。
ちなみに四天王の最後の1人はカージャが単独で打ち取り名を上げていた。
これには奥さんの実家も喜び王家に働きかけてくれたおかげで、
近く子爵への昇爵と小さいながらも領地を拝領される事になっていた。
「では、再開を祝して!」
カージャが音頭を取り、キース、ゴルドも杯をあげる。
今日はカージャの奥さんも来ていて皆で内輪の祝勝会を開いていた。
うちのメンバーも全員がコアルームにそろっている。
もっとも子供組はチビ助とメメを含め食ってジュースを飲むのに忙しく、スクリーンには無頓着だ。
ゴルドは双子とは一時期パーティーを組んでいたはずなのに完全にいない事にされている。
もっともスクリーン上でも女性陣は女性陣で井戸端会議のようにキャッキャ話し俺はゴルド達と話していた。
話はもっぱらカージャの昇爵についてだった。
カージャがもらえる領地は、一応ダンジョンゲートを持つそれなりの大きさの街と村が2~3で子爵どころか男爵レベルの領地でしかなかった。
これには理由があり、今だ現役の勇者であるカージャは家を留守にすることも多いため、領地経営に力をそそぐことが出来ない。
そのため、奥さんの方が主体となり治めるのだが、家臣団もおらず、まずは奥さんの実家から幾人か家人が移り領地経営をするのである。
元々異世界人で領地経営のノウハウが無いカージャにいきなり最大の領地を任せず、少しづつ慣らしていこうという配慮からくるものであった。
カージャも引退後は領地経営に乗り出すが、その頃は年も年なので奥さんとゆっくりしたいと希望しており、領地はまだ見ぬ次世代へと引き継がれる予定だ。
「そうするとカージャは別行動になるんだな。」
「ダンジョンゲートがあるので迷宮内では問題無いですが、地上ではそうなります。」
「そうすると地上の死刑囚管理はゴルドとキースの2人になるが人では足りてるのか?」
「OPIの会員で管理獄舎は固めておる。それに近隣の貴族にも会員はおるで、問題はなかろう。全員が領地持ちの貴族にならん限りは大丈夫だ。」
次はゴルドの武勇伝でも聞こうかと思い促すと、ゴルドが急に真面目な顔になった。
「実は国に話していない事がある。相談に乗ってもらいたい。」
ゴルドの低く絞り出すような声に女性陣も井戸端会議をやめ耳をそばだてる。
「実は自爆後の話だ・・・独りで山中を逃げ回っていたといったのだが、それは事実ではない・・・・。」
まさか、こいつ他国へ逃げていたのか。
それで戦いが終わったころに、ひよっこり帰って来たとか。
ここでの扱いがどうなのか知らんが地球だと敵前逃亡は相当重い罪になるんだぞ。
「うむ、実は機体の爆発で投げ出された私は小さくない傷を負っていた。重傷とまではいかないが、そのまま行動するのが困難な程に・・・。」
おかしいな・・・強烈な自動治癒の腕輪を持たせてるはずだが・・・・。
「そこを助けてくれた魔族がいたのだ。彼らは人類と敵対したいわけではなく、どちらかと言えば共存したいと考えている!」
「そんな話は初耳です。それなら何故、彼らはそうしないのですか?困難な道のりなのは分かりますが、魔王に与していて人類と共存したいと言われても納得できません。」
「彼らは魔族ではあるが戦闘能力が低く、奴隷の扱いなのだ・・・・」
ゴルドの話をまとめるとこうだった。
魔族の中には非戦闘派の魔族もいるが彼らの戦闘力は弱く、魔族の中では奴隷の扱いで発言権がまるでない。
おまけに容姿は魔族のため人族の前に出ると殺されてしまう危険もあり、尚且つ魔王国から人族の国までの旅等も危険が大きすぎで出来ない。
留まれば奴隷、歩み寄れば殺されるそんな中で彼らには縋るものが無いのだと。
「それで、ゴルドはどうしたいんだ?」
「・・・友よ!彼らをこの迷宮で保護してもらえないだろうか?お願いだ!!」
「・・・・・・・・。」
「彼らは決して友を傷つけたりはしない!戦闘力が皆無なのだ!種は違えど私は虐げられている者達のために何かしてやりたい!!頼む!!」
「ちょっと、まってくれ相談する。」
「どう思う?」
「私はいいんじゃないかなぁって思うわ。ゴルドさんもなんだかんだ言って勇者なのよね。」
キョウカは賛成か・・・。
「私も・・その相手の強さによるが、そんな状況なら保護してもいいのではと思う・・います。」
「私は賛成かな。だって可哀想でしょ。」
シスとリアも賛成・・・リアはあんな話聞いたら断れないよな。
「あたいはどっちでもいいよ。だめならぶっ飛ばせばいいだけだし。」
ミーシャは棄権だな。
話しの内容としては立派な話に聞こえる。
だが、甘く耳障りのいい話だ。
そして、ゴルドの腕輪の件が引っかかる。
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「ゴルド、むこうの代表と一度話をして決めたい。セッティング出来るか?」
「ありがとう、友よ!もちろん出来る。全面戦争で小間使いとして連れてこられたが、彼らは戻らず固まって人族の領域にいる。」
「ちなみにそいつらの中で一番戦闘能力高い奴のHPとMPはいくらくらいだ?」
「どちらも1000程度だ。正直そこらの村人と同じなんだ。」
「いつ連れてこられる?」
「2日もらえたら必ず!」
「カージャとキースはどうだ?」
「2日程度ならなんとでもしますよ。戦後の処理に手間取ったと言えば1ヵ月程度は平気です。」
「わかった。ならば2日後に。」
こうして非戦闘派の魔族との会談が決まった。
ゴルドが何故、嘘をついたのか分からないが、それは会談をしてみてから問いただしてもいいだろう。




